【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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ストバーラ帝国編

大金

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「ダンジョンの隠し部屋からでた宝箱と杖ね、帝都のオークションに出すことになったの。報酬を渡すのはもう少し先になると思うわ。ごめんね」
 突然モニカに呼ばれたと思ったらそんな話をされた。
 まぁ、特に急いでないしいいだろう。それにしても帝都のオークションか。話が大きくなってる気がする。出品者は冒険者ギルドで、僕達の名前は一切出ないことになっているのでそこは安心だ。
 お金はあっても困ることはないしね。どれだけの額になるか楽しみだ。

 2週間後、ギルド内にある個室でモニカから渡されたのは予想を大きく上回る額だった。受け渡しの時モニカも僕も手が震えた。
「なんでこんな額に」
「帝都にある魔法学院が研究用で落札したらしいわ」
「だからってこんな……兄さんが持ってて。こんな大金怖くて道歩けない」
「わかった」
「ギルドで預けることもできるわよ?」
「でも引き落としできるの国内限定でしょ?ならやめとく」
「そう?わかったわ。いつでも相談してねー」

 僕には今後の展開がなんとなく予想できた。だからギルドにお金を預けることをしなかったが、やはり正解だったようだ。

「お前ずいぶん儲けたんだろう?ここの酒代払ってくれよー」
「そうそう。俺達底辺冒険者にお恵みをーってやつ」
 人の口に戸は立てられぬ。僕達が大金を手にした噂が数日で一気に広まった。
「俺達に何か用か?」
「あっなんでもないです」
「すみませんでした!」
 僕にからんできた冒険者が兄さんを見た瞬間逃げていった。

 もうこれで何回目だろう。逃げるくらいなら集らなきゃいいのに。でも彼らが逃げる気持ちはわかる。
 僕達が大金を手にしたと噂が出始めた時に、お金をせびるため僕を脅そうとした冒険者がいた。そいつは僕に掴み掛かろうとして兄さんに思いっきり殴り飛ばされた。人ってあんなに吹っ飛ぶんだと感心した。
 前から問題があった人物だったようでギルドからは口頭注意だけで済んだが、兄さんは一部の冒険者から危険人物扱いされている。

 今日は依頼を早めに切り上げて拠点に帰ることにした。今後の相談をするためだ。
「兄さん、この街を出よう。いっそこの国から出よう」
「わかった」
「兄さんは行きたい国とかある?」
「特にないが、ここから近くて治安がいい国となるとフランディン共和国か。いやだめだ。あそこはやめておこう」
「そうだね。もうダンジョンはいいや」
 フランディン共和国は別名ダンジョン共和国と呼ばれている。
 ダンジョンは各国平等に存在するが、フランディン共和国は難易度の高いダンジョンが多く国を挙げて攻略に取り組んでいるのだ。
 僕達はもうダンジョンはこりごりなので行くことはないだろう。

「僕はミヅホの国とラウリア王国に行きたい」
「前にあの男が言ってたスパイス王国か?」
「うん。まずはミヅホにしばらく滞在してラウリア王国に行きたいな」
「ミヅホにはなぜ?」
「珍しい食材や調味料があるらしいよ。無限収納があるから大量に買っておきたくて」
「あのすごい魔法か。わかった。ルカの案でいこう」

 無限収納が完成した日、僕は兄さんに褒めて欲しくて目の前で物を収納しまくった。
 兄さんはその光景を見てしばらく呆然としていたが、やがて目を輝かせてたくさん褒めてくれた。
 収納しまくった物を元に戻すのは大変だったけどあれは嬉しかったな。

 出発日など相談していると寝る時間になってしまった。明日から旅の支度で忙しくなる。僕達はベッドで抱き合いながら話をした。
「なんか僕達毎回逃げるように旅してるね」
「そうだな」
「兄さんは辛くない?」
「ルカがいればそれでいい。ずっとついていく」
「ありがとう」
 別れは寂しいはずなのに兄さんとの新たな旅路にわくわくしてしまう。僕も兄さんと同じ気持ちだ。

 僕も兄さんだけいればいい

 あっという間にこの街を発つ日になった。僕達は帝国最大の港町アンエルムに向かい、そこから船でミヅホを目指すことにした。
 無限収納のおかげで旅の支度はずいぶん楽だった。ちなみに無限収納の空間内は時間が経過しない。なので道中何があってもいいように僕が作った料理もしまってある。
 ルカの料理がいつでも食べられると嬉しそうに笑う兄さんの反応に、くすぐったいような気持ちになった。

 乗合馬車の出発前にモニカと『乙女連合』のメンバーが見送りにきてくれた。兄さんは『乙女連合』の乙女達に囲まれてうんざりした顔をしている。

「寂しくなるわー。あーあ私の癒しが」
「モニカ、わざわざ休みを取ってくれてありがとう。見送り嬉しいよ」
「はぁー。次にルカくんみたいな子が来てくれるのはいつになるのやら」
 バチード支部の冒険者は荒々しいからね。いつか現れるといいね。

 モニカと話をしていると『乙女連合』リーダーのセレナと副リーダーのパウラがこちらにやってきた。
「ルカ元気でな!また戻ってこいよ」
「ルカがいないと寂しくなる。道中気をつけて」
「セレナ、パウラありがとう。いつになるかわからないけどまた顔を出すね」
 そういえばセレナに伝えたいことがあったな。バタバタしててすっかり忘れてた。別れ際にする話ではないが、面白そうなのでセレナに話してみる。
「セレナあのさ、」
 僕は前世の知識を基にセレナにあることを教えた。

「アイドル?プロデューサー?……これだ!私がやりたかったことはこれだったんだ!感謝する。これから忙しくなるな」
 やっぱり食いついた。好きそうだと思った。
 今後も『乙女連合』は乙女だけで活動することになるだろう。まだ見ぬ美少年を守ってやれた。僕の役割はこれで十分だ。
 歌って踊れる討伐系アイドルか……面白そうだ。いつかどこかで公演することがあったら見に行きたいな。

「担当カラーを決めたり、いずれ有名な吟遊詩人に楽曲を提供してもらうのもいいかもね」
「いいなそれ!ワクワクしてきた!ルカにいつか演奏を見せてやる」
「楽しみにしてる」
 もうちょっとセレナにいろいろ教えたかったが、兄さんがもう限界だろう。
 乙女達の迫力に押され気味の兄さんに声をかけて乗合馬車に乗り込んだ。

「ルカくんまたねー。気をつけるのよー」
「バイバイ。元気で」
「またな!いろいろありがとう!」
「またね。セレナはアルトゥロと仲良くね」
「はぁ!?何でいきなりあの男が出てくるんだ!」
「ルカよく言った」
「パウラも何を!」
 セレナは顔が真っ赤になっている。すごくわかりやすいのになぁ。後は本人達次第だろう。

 乗合馬車は時間通り出発した。周囲にバレないように兄さんの分も《ひんやりエアークッション》を発動させる。
「ありがとう」
「どういたしまして。なんだかんだ賑やかでいい街だったね」
「そうだな」

 ミヅホではどんな事が起きるのだろう。できればのんびり過ごせたらいいな。
 そんな思考を遮るように真夏の太陽が照りつける。僕は毎回恒例となった快適な魔法の開発に勤しむことにした。
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