【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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ストバーラ帝国編

レイス

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『こんにちは、日本人の記憶を持つ少年。僕は元日本人のレイス。幽霊って言ったほうがわかりやすいかな?日本にいた時は加藤陽司って名前だった。君は?』
『これは君の仕業?さっさと帰してほしいんだけど。前世とか意味がわからないし』
 いきなり不気味な笑みを浮かべたレイスが、平然と話しかけてきた。彼の見た目は前世の日本人の特徴に近い。年齢は高校生くらいかな。元日本人という言葉に嘘はないのだろう。
 でも僕は前世が日本人だと先日思い出したばかりだ。いきなり名前を聞かれても答えようがない。そもそも兄さんに前世のことは絶対に内緒だ。このレイスと前世の話をするつもりはない。

『へぇ、中途半端に思い出してるパターンか。いいねぇ、いいねぇ!ようやくだ!300年待った甲斐があった。最高の依り代だ』
『話が読めないな。何が言いたいの?』
『僕は気づいたらレイスとして生まれ変わっていた。こんなクソつまらない空間に300年!300年も閉じ込められていた!!!だから決めたのさ、このダンジョンに日本人の記憶持ちが現れたら取り憑いてやろうって。嘘をついても無駄だよ?僕には鑑定の能力があるから君のことは全部把握できる』
 レイスの声がだんだんと大きくなっていく。興奮しているのだろう。動きも激しくなっている。

『前世の記憶持ちはいたけどさ、地球人のそれも日本人をピンポイントで待ち続けるのは辛かったなぁー。地球人で妥協するところだった。危ない、危ない』
『前世ってやつ?不思議だね。そんなに何人もいるんだ?』
『多くはないけどね。だからこの世界、地球の言葉とか食べ物があったりするよね。冒険者達の様子を見てて羨ましかったなぁ……』

 おかしいと思ってたんだ。ルーザ村の魔水牛のチーズ、あれは明らかに前世の記憶持ちが関わっている。だってモッツァレラチーズそのものだったし、名物料理の中にはそれを使った伝統料理がそのまま再現されていたものもあった。
 魔水牛のチーズが出来たのは100年ほど前で、開発者はとっくの昔に亡くなっていると聞いた時はがっかりしたものだ。

 この世界について考えを巡らせていると、兄さんが声を震わせながら恐る恐る問いかけてきた。
「ルカはさっきからこいつと何の話をしているんだ?聞いたこともない言葉だ。なぜルカが魔物と知らない言語で会話してるんだ」

 は?

『あ、うっかりうっかり。相方さんも一緒に連れてきてたの忘れてた。気づいてなかったの?今まで僕達日本語で話してたよ。もしかして相方さんに前世のこと内緒だった?そうだったらごめんね?』

 全身がわなわなと震える。激しい怒りと恐怖で頭が真っ白になった。さっきの兄さんは怯えていた。得体が知れないものを見る目で僕とレイスを見ていた。

「今すぐお前を消す」
『お、いいねぇ!やっぱり取り憑くなら強いやつがいい。君は魔力がすさまじいから楽しみだ。僕は300年間ずっと研究してた。人に取り憑く方法と、暗黒属性魔法の真髄を。やっと披露できる!やっと、やっと、やっと!せっかくなら君たちコンビの戦い方を見たいな。今後の参考にするから』
「兄さん気をつけて。こいつの様子がおかしい」
「あ、ああ」
『兄さん?君たち兄弟か!一緒に冒険者やるって珍しいね。美しき兄弟愛ってやつ見せてもらおうかな』
「やめろ、兄さんに関わるな」
「初めまして強そうなお兄さん。僕はレイス。いきなりだけど、あなたの弟の身体は僕がもらうね。霊体の僕が人に取り憑くためには、対象の首に穴を開けないといけない。だからさ、お兄さん守ってみせてよ?かわいい弟の首に穴を開けたくないでしょ?兄弟愛ってやつが見たいなぁ」
「聖属性魔法《浄化》」

 逃げられたか。隙をついたと思ったのにあと一歩及ばなかった。レイスは一瞬消えたと思ったら、だいぶ離れた場所にいきなり現れた。
「おっと、危ない危ない。君、見た目の割におっかないね」
「黙れ。兄さんに話しかけるな」
「俺は大丈夫だ。俺が絶対守るからルカは魔法であいつを消滅させてほしい」
「わかった。任せて」
「頼む」

「いいねぇ、いいねぇ。美しき兄弟愛、ドラマみたいだ。すぐ終わったらつまらないから楽しませてね?」
「ぐっ」
「兄さん!」
 兄さんが腕でレイスの攻撃から僕の首を守った。左前腕に刺し傷がついている。
 なんだこいつの攻撃は。動きが全く読めなかった。速すぎて目で追えない。
 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。早く兄さんの怪我を治さないと。

「俺の傷はいい!あいつの動きはおかしい。俺が時間を稼ぐ。あいつを観察するんだ。ルカなら絶対倒せる。俺はルカを信じてる」
「おー!いい、すごくいい!お兄さんかっこいいね。弟の身体をもらったらさ、僕と一緒に冒険しようか?楽しみだね」
「黙れ。反吐が出る」

 兄さんが信じてるって言ってくれた。それだけで何でもできる気がする。ずいぶん頭に血が上っていたようだ。冷静になろう。

 今は目の前のレイスを倒すことだけ考える。僕はあいつの動きを観察するため、精神を集中させた。
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