【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

文字の大きさ
上 下
55 / 158
ストバーラ帝国編

ダンジョン最下層

しおりを挟む
 ダンジョン初探索の翌日、今日は休息日だ。そして僕の誕生日でもある。
「ルカ14歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう兄さん」
 今年はふたりきりの誕生日になった。でもこうやって兄さんとふたり、静かに過ごすのも悪くない。
「これを。似合うと思って」
「嬉しい。さっそくつけてみるね」
 渡されたのはシンプルな髪紐だった。最近髪が伸びてきたので、そろそろ切ろうと思っていたけど、しばらくこのままでいいか。
「どう?似合う?」
「すごく綺麗だ」
「そうだね、僕も綺麗な緑色だと思う。大切にする」
「ああ」
 僕の返答に、兄さんが複雑な顔になった。

 さすがに僕も気づいている。兄さんが僕のことを綺麗だと言ったことも、髪紐の色が兄さんの目の色と同じことも。
 僕自身そのことをどう思っているのか、言葉に表せない。でも嫌悪や拒絶といった負の感情が一切ないことはわかる。
 だからこの気持ちにゆっくり向き合っていこう。時間がかかるかもしれないけど、いつかこの感情に名前を付けたい。そう決意して14歳の誕生日が終わった。

 誕生日の翌日、僕達はダンジョン入り口の転移の石柱前にいた。
「地図もあるし、今日で最下層をクリアしたいね」
「そうだな。さっそく地下に行こうか」
 転移の石柱に触れると、視界がいきなり見覚えのある空間に変わった。目の前が真っ黒になったと思ったら、地下3階入り口に瞬間移動だ。体験しても全く仕組みがわからない。僕達が使う魔法とは全く違うものなのかもしれない。

 地下3階は石造りの通路が続いている。何回か分かれ道があるが、全部二股に分かれているだけなので迷いようがない。
 2つ目の分かれ道をしばらく歩いていると、通路の影から魔物が出てきた。
 ゴブリンだ。それも武器を持っておらず1匹だけ。久しぶりに武器を使ってみようと思い、メイスでゴブリンの頭を殴ると1発で絶命した。
 すごく弱い。だけど僕はミスを犯してしまった。
「ゴブリンの体液が手についちゃった。気持ち悪いー」
「魔法で倒したほうがよかったな」
 兄さんが呆れ気味だ。特に何も考えずに武器を振り下ろしただけなので、文句は言えない。
 ちなみにドロップはゴブリンの腰蓑だった。完全にハズレだ。ドロップアイテムは放っておくと自然とダンジョンに吸収されるので、拾わずそのままにしておいた。

 その後は特に問題なく進み、地下4階に到着した。洞窟のような通路だ。湿度は高いが気温は外に比べると涼しく感じる。それでもあまり快適とはいえないので、早く下に降りたい。
 出てくる魔物はスケルトン。聖属性魔法で攻撃するか、頭の骨を砕くと活動を停止してアイテムをドロップする。
 聖属性魔法を使って目立つのも嫌なので、ひたすらスケルトンを殴った。

 地下5階は石造りの通路だ。ここからは魔物が複数体出てくる。この階はスライムとゴブリンだった。
 地下6階はゴブリンの集団が出てきた。魔法を使って倒したので、特に問題なく進んだ。念のため入り口の魔法陣に触った。

 サクサク進み、最下層の地下7階に到着した。出現するのはコボルトの集団だ。コボルトは二足歩行の犬型魔物だ。このダンジョンのコボルト集団は機動力を生かし、統率のある動きをする。最下層なので、少しだけ難易度が上がるようだ。それでも僕達にとって脅威ではない。
「よかった。今日中にクリアできそうだ」
「ボス部屋はオークが6体か。ダンジョンに油断は禁物だが、さすがにいけるだろう」
「僕達はオークジェネラルも倒してるからね。じゃあ行こうか」

 ボスが落とすドロップアイテムってどんなものだろう?オーク肉の美味しい部位だったりして。

 そう油断してたのがいけなかったのか。いや後から思い返しても、あれはどうしようもなかったのだろう。

 僕と兄さんが同時にボス部屋の扉に手をかけた瞬間、視界が真っ暗になった。
 この感覚はどうして?混乱する。これは転移の石柱に触れて瞬間移動した時の感覚。

 気がついたら見たことのない空間にいた。兄さんも一緒にいることに思わず安心する。

 何もない空間の中央に、チラチラと淡く瞬きながら宙に浮いている存在がいた。よく見ると透けているが、人の姿をしている。
 そいつは宙に浮きながら激しく体を上下させ、やがて僕を視界に捉えるとニタッと笑った。

『やっと見つけた』
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...