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ストバーラ帝国編
セレナのこと
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「遠慮せずに注文してほしい!ここは焼き菓子が有名なんだ」
「じゃあ紅茶と焼き菓子を」
「わかった!」
さすがセレナ行きつけの喫茶店。入る前から雰囲気がいいとわかった。内装も凝っていて細かいところまで洗練されているのに、どこか親しみを感じる。女性客ばかりなのも頷ける。
紅茶も美味しい。僕が淹れる紅茶とレベルが違う。僕もそれなりにこだわっているはずなのに、これがプロの仕事か。
焼き菓子を齧ると口の中でホロホロと崩れていった。素朴な甘さはどこか懐かしさを感じさせる。つい手が伸びて、いつの間にかなくなっている。そんな美味しさだ。
「ルカはすごく美味しそうに食べるな!連れてきてよかった」
「よく言われるけど、自分ではよくわからなくて……そんなに?」
「目がキラキラしてる。あと顔が緩い」
「へぇ」
そんな間抜けな顔をしてたのか。知らなかった。これからは美味しいものを食べる時、気を引き締めなければ。
ある程度会話を交わしてから、僕は『乙女連合』のことをセレナに聞いてみた。
「セレナはどうして『乙女連合』を作ったの?」
「ああそれはな。男が嫌いだからだ」
それは普段の様子を見たらよくわかる。
「男が嫌いだから、女性だけの集団を作ったってこと?」
「昔の話でな。私には幼い頃憧れていた女性がいたんだ」
セレナが過去を語ってくれた。
セレナは幼い頃、同じ道場に通うお姉さんに憧れていた。彼女は誰もが認める天才だった。
冒険者になると言って他国へ行った時、きっと有名な冒険者になるだろうと思っていた。だが彼女は1年もしないうちに、憔悴しきった様子で戻ってきた。
「カスみたいな男に騙されたと聞いた。かなり貢いでいたらしいが、金が底を尽きた途端に捨てられたと」
それでも彼女は運がよかった。中には風俗街に売られた女性もいたらしい。
セレナはその話を聞いて怒りが収まらず、勢いのまま故郷を出て冒険者になった。
「カスを探したが見つからなかった。でもある日、男に騙されそうな女性冒険者が目の前にいたんだ」
それはそれは典型的な手口だったらしい。それでも田舎から出てきたばかりの女性冒険者は、何も知らずに誘いに乗り、男のパーティーに加入しようとしていた。彼女を止めようとセレナは咄嗟に嘘をついた。
「私は女性だけのパーティーを作りたい。ぜひ君も加入してほしい」
それが嘘から出たまことになった。現在、『乙女連合』はバチード支部で上位に入る規模のパーティーだ。鉄級冒険者も多く在籍しているため階級こそ銀級だが、実力のあるメンバーだけで考えると金級相当だろう。
「それでメンバーが集まっていくうちに楽しくなってな!私は昔から可愛いものが好きだった。様々な性格の女性を集めたら、素敵なものになると思った」
それで個性とか言い始めたのね。
「私の構想があらかた完成した時に思いついたんだ!女性だらけの集団に、ひとりだけ美少年を加入させる。そうすることでパーティーに幅が出ると!」
それ個性が飽和して、新しい刺激が欲しかっただけだと思う。
「初めてルカを見た時は衝撃が走ったぞ!まさに私が思い描いていた美少年そのままだったから。でもあそこまで頑なに断られるとな……なぁ、やっぱりだめか?」
「ごめんね。それに僕達これからダンジョン行くし」
「はぁ、やっぱりだめか」
セレナも分かっていたのだろう。ガッカリした表情はしているが、ショックを受けた様子はない。
話題を変えて、以前から気になっていたセレナの故郷について尋ねてみた。
「そういえばセレナの故郷ってどこなの?武器も変わった形してるけど故郷のもの?」
「私は太陽の国ミヅホの出身だ。大陸と大陸のちょうど間にある島国だな。私の武器はミヅホ刀、斬ることに特化した刀剣だ」
この世界は大きく分けて、今僕達がいる西大陸とその反対に位置する東大陸に別れている。ミヅホは大陸間の中央に位置している島国だ。
本で読んだことはあるが、文化など詳しくは知らなかった。
「セレナの黒髪もミヅホの人の特徴?」
「そうだ。ミヅホは黒目黒髪の人が多い」
「ここみたいに暖かい国?」
「ミヅホは四季がはっきりしていてな。冬はしっかり寒い。でも季節の移り変わりに趣があって、国民はどこかそれを楽しんでる」
「素敵だね。いつか行ってみたいな」
「私も本当にいい国だと思う。食べ物も美味しいんだ。ここではあまり食べられないが醤油と味噌という調味料があってな」
「ここにはない調味料かぁ。気になる」
前世の醤油や味噌と味は同じだろうか。もし同じなら料理のバリエーションが増やせる。次はミヅホに行ってみようかな。
「醤油は黒くてしょっぱい液体でな、味噌は茶色くて半固形で見た目はよくないが、それを出汁に溶かした味噌汁というものが私は好きだ」
「っ!?」
突然頭が真っ白になった。驚愕を隠すように飲んだ紅茶は、冷めていて渋みが強くなっていた。
「じゃあ紅茶と焼き菓子を」
「わかった!」
さすがセレナ行きつけの喫茶店。入る前から雰囲気がいいとわかった。内装も凝っていて細かいところまで洗練されているのに、どこか親しみを感じる。女性客ばかりなのも頷ける。
紅茶も美味しい。僕が淹れる紅茶とレベルが違う。僕もそれなりにこだわっているはずなのに、これがプロの仕事か。
焼き菓子を齧ると口の中でホロホロと崩れていった。素朴な甘さはどこか懐かしさを感じさせる。つい手が伸びて、いつの間にかなくなっている。そんな美味しさだ。
「ルカはすごく美味しそうに食べるな!連れてきてよかった」
「よく言われるけど、自分ではよくわからなくて……そんなに?」
「目がキラキラしてる。あと顔が緩い」
「へぇ」
そんな間抜けな顔をしてたのか。知らなかった。これからは美味しいものを食べる時、気を引き締めなければ。
ある程度会話を交わしてから、僕は『乙女連合』のことをセレナに聞いてみた。
「セレナはどうして『乙女連合』を作ったの?」
「ああそれはな。男が嫌いだからだ」
それは普段の様子を見たらよくわかる。
「男が嫌いだから、女性だけの集団を作ったってこと?」
「昔の話でな。私には幼い頃憧れていた女性がいたんだ」
セレナが過去を語ってくれた。
セレナは幼い頃、同じ道場に通うお姉さんに憧れていた。彼女は誰もが認める天才だった。
冒険者になると言って他国へ行った時、きっと有名な冒険者になるだろうと思っていた。だが彼女は1年もしないうちに、憔悴しきった様子で戻ってきた。
「カスみたいな男に騙されたと聞いた。かなり貢いでいたらしいが、金が底を尽きた途端に捨てられたと」
それでも彼女は運がよかった。中には風俗街に売られた女性もいたらしい。
セレナはその話を聞いて怒りが収まらず、勢いのまま故郷を出て冒険者になった。
「カスを探したが見つからなかった。でもある日、男に騙されそうな女性冒険者が目の前にいたんだ」
それはそれは典型的な手口だったらしい。それでも田舎から出てきたばかりの女性冒険者は、何も知らずに誘いに乗り、男のパーティーに加入しようとしていた。彼女を止めようとセレナは咄嗟に嘘をついた。
「私は女性だけのパーティーを作りたい。ぜひ君も加入してほしい」
それが嘘から出たまことになった。現在、『乙女連合』はバチード支部で上位に入る規模のパーティーだ。鉄級冒険者も多く在籍しているため階級こそ銀級だが、実力のあるメンバーだけで考えると金級相当だろう。
「それでメンバーが集まっていくうちに楽しくなってな!私は昔から可愛いものが好きだった。様々な性格の女性を集めたら、素敵なものになると思った」
それで個性とか言い始めたのね。
「私の構想があらかた完成した時に思いついたんだ!女性だらけの集団に、ひとりだけ美少年を加入させる。そうすることでパーティーに幅が出ると!」
それ個性が飽和して、新しい刺激が欲しかっただけだと思う。
「初めてルカを見た時は衝撃が走ったぞ!まさに私が思い描いていた美少年そのままだったから。でもあそこまで頑なに断られるとな……なぁ、やっぱりだめか?」
「ごめんね。それに僕達これからダンジョン行くし」
「はぁ、やっぱりだめか」
セレナも分かっていたのだろう。ガッカリした表情はしているが、ショックを受けた様子はない。
話題を変えて、以前から気になっていたセレナの故郷について尋ねてみた。
「そういえばセレナの故郷ってどこなの?武器も変わった形してるけど故郷のもの?」
「私は太陽の国ミヅホの出身だ。大陸と大陸のちょうど間にある島国だな。私の武器はミヅホ刀、斬ることに特化した刀剣だ」
この世界は大きく分けて、今僕達がいる西大陸とその反対に位置する東大陸に別れている。ミヅホは大陸間の中央に位置している島国だ。
本で読んだことはあるが、文化など詳しくは知らなかった。
「セレナの黒髪もミヅホの人の特徴?」
「そうだ。ミヅホは黒目黒髪の人が多い」
「ここみたいに暖かい国?」
「ミヅホは四季がはっきりしていてな。冬はしっかり寒い。でも季節の移り変わりに趣があって、国民はどこかそれを楽しんでる」
「素敵だね。いつか行ってみたいな」
「私も本当にいい国だと思う。食べ物も美味しいんだ。ここではあまり食べられないが醤油と味噌という調味料があってな」
「ここにはない調味料かぁ。気になる」
前世の醤油や味噌と味は同じだろうか。もし同じなら料理のバリエーションが増やせる。次はミヅホに行ってみようかな。
「醤油は黒くてしょっぱい液体でな、味噌は茶色くて半固形で見た目はよくないが、それを出汁に溶かした味噌汁というものが私は好きだ」
「っ!?」
突然頭が真っ白になった。驚愕を隠すように飲んだ紅茶は、冷めていて渋みが強くなっていた。
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