50 / 158
ストバーラ帝国編
フォレストウルフ
しおりを挟む
春、出会いの季節。中性的な美少年がこの支部に来たら生贄にしようと決めていたのに、結局該当する人物は現れなかった。
依頼をこなしつつ身代わりの美少年を探していたら、春はもう終わりかけていた。
そろそろ夏になる。そうしたら僕は14歳だ。背も少し伸びた。そろそろ少年と言われることも少なくなるだろう。
セレナも一向に首を縦に振らない僕と兄さんに諦め気味で、最近は軽い感じで勧誘してくるだけになった。新しく入った乙女達の指導に忙しいらしく、最近は会っても挨拶程度で終わる。
アルトゥロ達『鋼鉄の男』は現在、長期任務でここから遠く離れた街にいる。いつもギルド中に響いていたアルトゥロの大声が聞こえないのは、少し寂しい気もする。
すごく平和だ。暖かくなって依頼も増えた。この平和が続いているうちに早く銅級になっておきたい。
ちなみにオークジェネラルの討伐は階級上げの評価に入っていない。
セレナが手続きを間違えて、僕達を『乙女連合』の補助役だと届けてしまったためだ。
補助役は戦闘行為に参加できないことになっているので、僕達がオークジェネラルを討伐した事実は闇に葬られた。素材は買い取ってもらえたので安心した。
手続きミスが分かった瞬間、セレナがすごい勢いで何度も謝ってきた。よく確認しなかった僕達も悪いので、お互い様だと言ってその話を終わらせた。
「おはようモニカ。何かいい依頼ある?」
「ルカくんおはよー。そうねぇ、ルカくん達は海の依頼を受けないから……ちょっと待っててねー」
そう、僕達は港町にいるのに海の依頼を受けたことがない。ふたりしかいないので、戦いながら船を動かせないからだ。
合同依頼はよっぽどのことがないと受けないし、他に海の依頼といったら商船や漁船の護衛で拘束期間が長い。
もともと初心者ダンジョン目当てでこの街に来たので、海の依頼を受ける事はこれからもないだろう。
「ちょうどいいのがあったわー」
モニカが1枚の依頼書を持ってきた。そこには『フォレストウルフの毛皮美品求む』と書かれていた。
「有名な服飾店が新作で使うからってせっつかれちゃって。なるべく傷がない毛皮を最低5匹分、あるだけ買い取るって話よー。ルカくん達は素材の処理が的確だって、解体担当が褒めてたからぴったり」
「わかった。受付お願い」
「助かるわー」
ギルドを出てから数時間後。僕達はフォレストウルフが出現する森の中腹にいる。
鬱蒼とした森は木々の間からしか光が射さず薄暗い。
そんな薄暗い森で、濃い緑色の毛皮が特徴のフォレストウルフは接近に気付きにくくて厄介だ。常に探知の魔法を発動させておく。
「止まって。8匹接近中、兄さんはその場で武器を振り回してて」
「了解」
やつらが僕達に狙いを定めて取り囲むように接近する。前方に6匹、後方に2匹か。これなら余裕だろう。
フォレストウルフが姿勢を低くして今にも飛びかかろうと様子を見ている。兄さんの剣を警戒しているのだろう。なかなか動かない。
程なくして8匹が突然暴れ出したかと思うとすぐに倒れた。兄さんが驚いている。僕は魔法でフォレストウルフを逆さにして血抜きをした。
「なぜフォレストウルフが倒れたんだ?」
「水属性魔法で気道と鼻を塞いで窒息させた」
「いきなり倒れたから驚いた」
「毛皮に傷をつけないって考えるとこれが最適かなって」
「たしかに。その通りだが逆に傷がなさすぎて怪しまれないか?」
「あ」
うっかりしていた。適当に穴を空けて誤魔化す事にした。
血抜きをしたら毛皮を洗浄し、内臓を取っておく。念のため肉が腐りにくいように水属性魔法で冷やす。
ここまでしたら依頼人も満足してくれるだろう。あとはギルドの解体担当の人に任せよう。
思ったよりも早く討伐が終わり油断していた。探知の魔法を常に発動させていたが、足元の注意を疎かにしていた。
「痛っ!」
「ルカ?」
ポイズンスネークの接近に気づかず、ふくらはぎの内側を噛まれた。直後ビリビリとした痛みが襲う。麻痺毒を食らったようだ。立つことが出来ず尻餅をつく体勢になる。
致死性の毒ではないので落ち着いて対処すれば問題ない。
魔法でポイズンスネークを撃退し、解毒の魔法をかけようとしたら鋭い声で制止された。
「動くな!」
兄さんが僕のズボンの裾を捲り、ポイズンスネークに噛まれた傷口のすぐ上を布でギュッときつく締め付けた。
そして噛まれた方の足を持ち上げると、兄さんはなんの躊躇もなく傷口に唇を寄せた。
「やめっ……」
ふくらはぎの内側がきつく吸い上げられる。兄さんの唇が燃えるように熱い。その熱さが僕にも移って頭がクラクラする。
兄さんの唇は僕の血を吸い上げるたび赤く染まっていく。そしてその唇と同じくらい赤い舌が、軽く傷口に触れた。
「ふっ……んうっ」
変な声が出てしまう。なんだこれは。ただの応急処置なのに、兄さんの唇が触れるたびに心臓が早鐘を打つ。
思わず兄さんの頭に目線を向けると、目が合ってしまった。僕の知らない、ギラギラした目。喰われる、と思った。早く動かないと、それなのに身体が言うことを聞かない。だめだこのままだと僕は兄さんと——
「ぼっ僕解毒の魔法使えるから!もう大丈夫!ありがとう!!」
焦って大声が出てしまった。兄さんも驚いて素早く僕と距離を取った。
傷口に解毒の魔法をかけ、服装を整えてから立ち上がる。
「先に行く」
兄さんは大股でさっさと歩きだしてしまった。その声は固い。この後ギルドに到着するまで、気まずくてお互い顔を合わせることはなかった。
依頼をこなしつつ身代わりの美少年を探していたら、春はもう終わりかけていた。
そろそろ夏になる。そうしたら僕は14歳だ。背も少し伸びた。そろそろ少年と言われることも少なくなるだろう。
セレナも一向に首を縦に振らない僕と兄さんに諦め気味で、最近は軽い感じで勧誘してくるだけになった。新しく入った乙女達の指導に忙しいらしく、最近は会っても挨拶程度で終わる。
アルトゥロ達『鋼鉄の男』は現在、長期任務でここから遠く離れた街にいる。いつもギルド中に響いていたアルトゥロの大声が聞こえないのは、少し寂しい気もする。
すごく平和だ。暖かくなって依頼も増えた。この平和が続いているうちに早く銅級になっておきたい。
ちなみにオークジェネラルの討伐は階級上げの評価に入っていない。
セレナが手続きを間違えて、僕達を『乙女連合』の補助役だと届けてしまったためだ。
補助役は戦闘行為に参加できないことになっているので、僕達がオークジェネラルを討伐した事実は闇に葬られた。素材は買い取ってもらえたので安心した。
手続きミスが分かった瞬間、セレナがすごい勢いで何度も謝ってきた。よく確認しなかった僕達も悪いので、お互い様だと言ってその話を終わらせた。
「おはようモニカ。何かいい依頼ある?」
「ルカくんおはよー。そうねぇ、ルカくん達は海の依頼を受けないから……ちょっと待っててねー」
そう、僕達は港町にいるのに海の依頼を受けたことがない。ふたりしかいないので、戦いながら船を動かせないからだ。
合同依頼はよっぽどのことがないと受けないし、他に海の依頼といったら商船や漁船の護衛で拘束期間が長い。
もともと初心者ダンジョン目当てでこの街に来たので、海の依頼を受ける事はこれからもないだろう。
「ちょうどいいのがあったわー」
モニカが1枚の依頼書を持ってきた。そこには『フォレストウルフの毛皮美品求む』と書かれていた。
「有名な服飾店が新作で使うからってせっつかれちゃって。なるべく傷がない毛皮を最低5匹分、あるだけ買い取るって話よー。ルカくん達は素材の処理が的確だって、解体担当が褒めてたからぴったり」
「わかった。受付お願い」
「助かるわー」
ギルドを出てから数時間後。僕達はフォレストウルフが出現する森の中腹にいる。
鬱蒼とした森は木々の間からしか光が射さず薄暗い。
そんな薄暗い森で、濃い緑色の毛皮が特徴のフォレストウルフは接近に気付きにくくて厄介だ。常に探知の魔法を発動させておく。
「止まって。8匹接近中、兄さんはその場で武器を振り回してて」
「了解」
やつらが僕達に狙いを定めて取り囲むように接近する。前方に6匹、後方に2匹か。これなら余裕だろう。
フォレストウルフが姿勢を低くして今にも飛びかかろうと様子を見ている。兄さんの剣を警戒しているのだろう。なかなか動かない。
程なくして8匹が突然暴れ出したかと思うとすぐに倒れた。兄さんが驚いている。僕は魔法でフォレストウルフを逆さにして血抜きをした。
「なぜフォレストウルフが倒れたんだ?」
「水属性魔法で気道と鼻を塞いで窒息させた」
「いきなり倒れたから驚いた」
「毛皮に傷をつけないって考えるとこれが最適かなって」
「たしかに。その通りだが逆に傷がなさすぎて怪しまれないか?」
「あ」
うっかりしていた。適当に穴を空けて誤魔化す事にした。
血抜きをしたら毛皮を洗浄し、内臓を取っておく。念のため肉が腐りにくいように水属性魔法で冷やす。
ここまでしたら依頼人も満足してくれるだろう。あとはギルドの解体担当の人に任せよう。
思ったよりも早く討伐が終わり油断していた。探知の魔法を常に発動させていたが、足元の注意を疎かにしていた。
「痛っ!」
「ルカ?」
ポイズンスネークの接近に気づかず、ふくらはぎの内側を噛まれた。直後ビリビリとした痛みが襲う。麻痺毒を食らったようだ。立つことが出来ず尻餅をつく体勢になる。
致死性の毒ではないので落ち着いて対処すれば問題ない。
魔法でポイズンスネークを撃退し、解毒の魔法をかけようとしたら鋭い声で制止された。
「動くな!」
兄さんが僕のズボンの裾を捲り、ポイズンスネークに噛まれた傷口のすぐ上を布でギュッときつく締め付けた。
そして噛まれた方の足を持ち上げると、兄さんはなんの躊躇もなく傷口に唇を寄せた。
「やめっ……」
ふくらはぎの内側がきつく吸い上げられる。兄さんの唇が燃えるように熱い。その熱さが僕にも移って頭がクラクラする。
兄さんの唇は僕の血を吸い上げるたび赤く染まっていく。そしてその唇と同じくらい赤い舌が、軽く傷口に触れた。
「ふっ……んうっ」
変な声が出てしまう。なんだこれは。ただの応急処置なのに、兄さんの唇が触れるたびに心臓が早鐘を打つ。
思わず兄さんの頭に目線を向けると、目が合ってしまった。僕の知らない、ギラギラした目。喰われる、と思った。早く動かないと、それなのに身体が言うことを聞かない。だめだこのままだと僕は兄さんと——
「ぼっ僕解毒の魔法使えるから!もう大丈夫!ありがとう!!」
焦って大声が出てしまった。兄さんも驚いて素早く僕と距離を取った。
傷口に解毒の魔法をかけ、服装を整えてから立ち上がる。
「先に行く」
兄さんは大股でさっさと歩きだしてしまった。その声は固い。この後ギルドに到着するまで、気まずくてお互い顔を合わせることはなかった。
124
お気に入りに追加
1,076
あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる