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ストバーラ帝国編

天啓

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 警戒しながら森の中に入る。不気味なくらい静かだ。皆オークジェネラルを警戒しているのか口数は少ない。
「そろそろ集落が近い。まだ小さい気配しか感じられないが、ジェネラルの警戒は続けてくれ。オークらしき気配が130から160」
「報告より多いかもな。了解」
 エクトルが探知の魔法を使って皆に報告する。探知の精度は冒険者のなかで上の下レベルだと、さっきアルトゥロが教えてくれた。
 僕は密かにハンドサインで兄さんにだけ『オーク157集落奥にマジシャン1ファイター3ジェネラル1』と伝える。
 最初に探知の魔法を見せた時、兄さんが驚くわけだ。本当はもっと正確な情報もわかるが、兄さんに話して誰かに聞かれても困るので、とりあえずこのまま進む。接近したら注意を促そう。

「乱戦になったらまずい。エクトル、何体か誘き出してくれ」
「了解」
 エクトルが動き出す。森を音もなく移動できる技術はどこで身につけたのだろう。斥候としての実力も高そうだ。

 エクトルが見えなくなった途端、アルトゥロが話しかける。
「ルカ、鉄級のお前は安全な場所に」
「これでも僕は冒険者だよ?自分の身は自分で守る。邪魔しないから近くにいるよ」
「わかった。気をつけろよ!」
 背中をバンっと叩かれる。めちゃくちゃ痛い。見た目通りの馬鹿力だ。
「このバカ!ルカはお前らと違って繊細なんだ!扱いに気をつけろ」
「あー?別に普通だろ」
「これだから粗野な男は嫌いなんだ」
「なんだと?」
「今戦闘中、いい加減にして」
 パウラが怒るとふたりが大人しくなった。この状況で痴話喧嘩できるところに余裕を感じる。自分の実力に自信があるのだろう。

「オーク30体!頼む!」
 エクトルがオークを連れて戻ってきた。
「兄さん、僕は見学しとくから頑張って」
「ああ任せておけ」

「よっしゃあああ!アイザック見ておけ!これが、漢の、戦い方だぁ!」
 叫びながらオークの集団に突っ込んだのはアルトゥロ。大きな斧をブンブンと振り回して豪快にオークを倒していく。
「バカ!私の見せ場がなくなるだろうが!」
 あわててセレナも戦闘に入る。彼女は1体のオークに狙いを定め前傾姿勢になったかと思うと足を踏み出し、目にも止まらぬ速さで剣を放つ。見事な居合い術だ。
 豪快に戦うアルトゥロと音もなく戦うセレナ。動と静。ふたりは確かな実力者だ。

 僕はセレナの剣に目が離せなくなった。彼女の実力に惚れたとか、そういうことではない。
 あれは日本刀なのか?初めて見た武器なのに何故か見覚えがある。あの刃紋を美しいと思ったのはいつの頃だったか。
 何故初めて見た技を見て、見事な居合い術だと思ったのか。わからない、わからないのが怖い。何かを思い出しそうで、心がそれを拒否している。

「ルカどうした?様子がおかしい」
 兄さんに声をかけられてやっとここがオークの集落だと思い出した。
「ごめん、ボーッとしてた。兄さんもオークと戦ってよ。あのふたり驚くよ」
「ルカ……。わかった、俺も戦おう」
 兄さんに心配をかけてしまった。ここは戦場なのに。今は余計なことを考えないようにしよう。

 兄さんがオークと対峙する。先に動いたのはオークだった。兄さんめがけて上から叩きつけるように斧を振るう。兄さんがそれを最小の動きで避けて剣を振る。
 オークの首を斬り飛ばす、見事な一撃。

 いつ見ても綺麗だ。いつだって僕が目を奪われるのは兄さんの剣だけだ。

「アイザック!見事だった。まさに漢の中の漢。お前は『鋼鉄の男』にふさわしい!」
「そんなことはない」
「お前の実力は銅級に収まらないな!引き続き戦闘を頼む!頼りにしてるぞ!」
「ああ」

 兄さんの実力を間近で見てアルトゥロが騒ぎ出した。彼のパーティー勧誘熱がさらに上がった気がする。しばらくの間、兄さんは会うたびに熱い勧誘をされるだろう。
 そう思っていると、奥からオークファイターが3匹とオークマジシャンが1匹こちらに向かう気配がした。
 ジェネラルはまだ動いていない。高みの見物か。この面子にそんな真似をするのはよくないと思うけど。
 探知が反応したとギリギリ言い訳ができる範囲に、オークファイター達が近づいたので声を上げる。

「集落の奥、洞窟のとこから変な気配がする!気をつけて!」
 皆が僕の言葉に警戒を強めていると、洞窟の中からやつらが出てきた。
「ルカでかした!後は俺たちに任せろ!」
 オークファイター3匹にそれぞれアルトゥロ、セレナ、兄さんが立ち向かう。

「オークマジシャンが1匹!誰かフォローを!」
「私がやる」
 オークマジシャンはエクトルとパウラが相手をするようだ。他のメンバーがオークと交戦中なので、パーティーが違うもの同士の連携になったが大丈夫だろうか。
 念のためいつでも魔法で援護できるように警戒しておく。
 パウラは双剣の手数と華麗な身のこなしでオークマジシャンを翻弄する。攻めあぐねてイラついたオークマジシャンが、パウラに魔法を向けようと集中した瞬間、エクトルの短剣がオークマジシャンの喉を掻き切った。見事な連携だ。援護がいらなくて安心した。
「助かった」
「こちらこそ」

「おーい!こっちも終わったぞ!野郎ども無事か?」
「乙女達!怪我はないか?」
「ルカ、平気か?」
 兄さん達も終わったらしい。オークファイターは銅級パーティーで討伐するレベルの魔物らしいけど、あの3人には関係ないみたいだ。
「兄さんありがとう。大丈夫だよ」
「そうか。よかった」

 探知が反応した。オークジェネラルがやっと動いたらしい。アルトゥロもセレナも疲れた様子はない。
 ここはふたりに任せればいいだろう、と思った瞬間、唐突にそれが浮かんだ。まさに天啓だ。

 僕は少しだけうんざりしていた。セレナのことは嫌いじゃない。むしろ彼女の人柄は好感が持てる。
 でもあの勧誘はいただけない。だって毎日のように美少年連呼だぞ。恥ずかしくないわけがない。

 オークジェネラルはクソ筋肉ダルマと蔑称があるくらい冒険者達に嫌われている。強さは銀級パーティーが討伐するレベル。なかなか厄介だ。
 それなのにまともに換金できる素材がひとつしかない。筋肉が多すぎて肉が硬く、食用に適さないせいだ。皮と牙は普通のオークとそこまで大きな違いはない。つまり命懸けで討伐しても旨みがない。

 でもこの倒し方ならいける。僕は決心した。
 今ここでセレナの美少年幻想を打ち砕く。
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