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イーザリア王国編
ふたりで
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僕はトールと好みの紅茶を探すため、商店が並ぶ通りをぶらついていた。
本当は兄さんとも一緒に巡りたかったけど、狭い店内に大柄の男性ふたりを伴って移動するのは迷惑かなと思い別行動にしてもらった。
暑いから外で待たせるのも申し訳ないし。どうしてもとお願いしてなんとか許してもらった。
「トールどう?」
「収穫なし」
「夏は熱い紅茶が人気ないから商品自体が少ないよね。今度さ、思いっきり汗かいた後にキンキンに冷やした紅茶を飲んでみようよ!」
「賛成」
トールはやれ香りだとか味だとかうるさいことは何も言わない。ただ紅茶を楽しみながら飲んでいる。だからトールとお茶をすると気持ちが楽になる。
兄さんにもキンキンに冷やした紅茶を飲ませてあげようと思っていると、大声で僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ルカ!」
「ミゲル?」
「早く、ギルドが怖くて!アイザックさんはすごいことに!ダリオが心配だから走って!」
何を言っているのか全くわからなかったが、兄さんとダリオが冒険者ギルドでなにかに巻き込まれたのだろう。
トールもそのように解釈したらしい。
「ルカ荷物持つ、先に行って」
「トールありがとう!ミゲル行くよ!」
「うっす!」
僕もミゲルも身体強化を使い、全速力でギルドまで駆け抜けた。
息を切らして冒険者ギルドの扉を開けると、エイダンさんが焦ったように僕の腕を掴む。
「ルカくん!アイザックさんがソーンと決闘を!ソーンが死にそうだ!止めてくれ!」
あまりにも必死だったので、僕は黙って頷くと鍛練場に駆け込んだ。
それは凄惨な光景だった。顔面血まみれのソーン。遠目からでも虫の息だとわかる。そんなソーンを淡々と殴っている兄さん。必死で止めようとする冒険者達の怒号。
ソーンには悪いけどよかった。これはチャンスだ。
今なら兄さんに、前から僕が思っていたことを伝えることができる。
「兄さんはなんであんな状態に?」
「ソーンがルカくんをその……乱暴すると言って」
「それで決闘を?」
「その言動にアイザックさんが怒ってこんなことに」
「なるほどね」
ソーンが僕に言ったことを思い出す。仲間達と可愛がってやるってやつ。
兄さんはそれであんなことを。相手を殺す勢いで怒ってくれたのか。
急いで兄さんに駆け寄る。骨を打つ鈍い音と冒険者の怒号が場内に響いている。兄さんの手が痛そうだ。早く止めてあげないと。
「兄さんもうやめよう。手が痛そうだ」
「ルカ、止めないでくれ」
「だめだよ兄さん」
「僕達の敵はふたりで倒さないとだめだよ」
そう言って兄さんのそばによると優しく頭を撫でた。ありがとう、よく頑張ったねと労るように。
「ふたりで倒す?」
「そうだよ。兄さん忘れたの?僕達は一生の相棒だよ?」
「俺はこいつが許せない」
「それは僕もそうだよ、でもさ、これは兄さんとそいつの決闘だよ?」
「だからどうした?」
「決闘だとそいつを倒せるのは兄さんだけじゃん。僕は介入できない。無理矢理介入して万が一殺しちゃったら僕だけ人殺しだ」
「でも俺はルカを守るためにこいつを」
「兄さんの気持ちは伝わってるよ。僕を守りたいって思ってくれたんだよね?」
「ああ」
「僕だって兄さんと同じくらい兄さんを守りたいって思ってる。それは兄さんの体だけじゃない。心もだ」
「心?」
「断言する。兄さんはそいつを殺したら後悔するよ。こんなやつのために僕に負担をかけてしまった、僕を言い訳にして人殺しに巻き込んでしまった……そう考える。そうなったら兄さんはもう二度と立ち直れない」
「……」
思うところがあったのか、兄さんが黙り込む。
「僕達は一生の相棒でしょ?僕は身も心もずっと兄さんと共にありたい。だから僕達の敵が現れたらふたりで一緒に倒そうよ。その時に相手を殺すこともあるかもね。殺したことを後悔して、ふたりとも心を病むかもしれない。そしたらさ、痛みを分かち合えるよ。それってすごく相棒らしいと思わない?」
「……そうだな、俺達は一生の相棒だ。ルカ、俺は間違えてしまったのか」
「僕なんていつも失敗しまくりだよ。いいじゃん、間違っても。今回の件は、兄さんが悪いわけじゃないし」
「ルカは俺が間違えても見捨てない?ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん、ずっとそばにいるよ。兄さんだって、逆の立場ならそうするでしょう?」
「ありがとう」
兄さんが落ち着いた。周りの人達はあからさまにホッとしている。
僕はいつもと同じ調子で兄さんに声をかける。
「ほら、兄さんは血を落としてきて!服に染み込んだら落ちないから急いでね!」
「わかった」
兄さんの背中を見送ると急いでソーンの元に向かう。するとダリオが話しかけてきた。
「ルカ、あのさ」
「ごめん。ソーンが死にそうだから今話せない。むしろお願い、兄さんを鍛練場に近づかせないで」
「なんで?」
「兄さん以外の人に回復の魔法使ったら怒られるから。今度こそソーンが死んじゃう」
「わかった」
「後で話そうね。ありがとう」
ダリオは片手を上げると急いで兄さんのところに向かった。ダリオのおかげで、回復できる時間は十分取れそうだ。
僕は今ソーンを動かしたら死ぬかもと周りに伝え、関係者以外誰も近づけないようにした。放っておけばギルドが呼んだ聖職者がやってくるまでの間に、ソーンは確実に死んでしまう。
僕は死なない程度にこいつを回復させるため、まずは無属性魔法で身体の状態を確認することにした。
本当は兄さんとも一緒に巡りたかったけど、狭い店内に大柄の男性ふたりを伴って移動するのは迷惑かなと思い別行動にしてもらった。
暑いから外で待たせるのも申し訳ないし。どうしてもとお願いしてなんとか許してもらった。
「トールどう?」
「収穫なし」
「夏は熱い紅茶が人気ないから商品自体が少ないよね。今度さ、思いっきり汗かいた後にキンキンに冷やした紅茶を飲んでみようよ!」
「賛成」
トールはやれ香りだとか味だとかうるさいことは何も言わない。ただ紅茶を楽しみながら飲んでいる。だからトールとお茶をすると気持ちが楽になる。
兄さんにもキンキンに冷やした紅茶を飲ませてあげようと思っていると、大声で僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ルカ!」
「ミゲル?」
「早く、ギルドが怖くて!アイザックさんはすごいことに!ダリオが心配だから走って!」
何を言っているのか全くわからなかったが、兄さんとダリオが冒険者ギルドでなにかに巻き込まれたのだろう。
トールもそのように解釈したらしい。
「ルカ荷物持つ、先に行って」
「トールありがとう!ミゲル行くよ!」
「うっす!」
僕もミゲルも身体強化を使い、全速力でギルドまで駆け抜けた。
息を切らして冒険者ギルドの扉を開けると、エイダンさんが焦ったように僕の腕を掴む。
「ルカくん!アイザックさんがソーンと決闘を!ソーンが死にそうだ!止めてくれ!」
あまりにも必死だったので、僕は黙って頷くと鍛練場に駆け込んだ。
それは凄惨な光景だった。顔面血まみれのソーン。遠目からでも虫の息だとわかる。そんなソーンを淡々と殴っている兄さん。必死で止めようとする冒険者達の怒号。
ソーンには悪いけどよかった。これはチャンスだ。
今なら兄さんに、前から僕が思っていたことを伝えることができる。
「兄さんはなんであんな状態に?」
「ソーンがルカくんをその……乱暴すると言って」
「それで決闘を?」
「その言動にアイザックさんが怒ってこんなことに」
「なるほどね」
ソーンが僕に言ったことを思い出す。仲間達と可愛がってやるってやつ。
兄さんはそれであんなことを。相手を殺す勢いで怒ってくれたのか。
急いで兄さんに駆け寄る。骨を打つ鈍い音と冒険者の怒号が場内に響いている。兄さんの手が痛そうだ。早く止めてあげないと。
「兄さんもうやめよう。手が痛そうだ」
「ルカ、止めないでくれ」
「だめだよ兄さん」
「僕達の敵はふたりで倒さないとだめだよ」
そう言って兄さんのそばによると優しく頭を撫でた。ありがとう、よく頑張ったねと労るように。
「ふたりで倒す?」
「そうだよ。兄さん忘れたの?僕達は一生の相棒だよ?」
「俺はこいつが許せない」
「それは僕もそうだよ、でもさ、これは兄さんとそいつの決闘だよ?」
「だからどうした?」
「決闘だとそいつを倒せるのは兄さんだけじゃん。僕は介入できない。無理矢理介入して万が一殺しちゃったら僕だけ人殺しだ」
「でも俺はルカを守るためにこいつを」
「兄さんの気持ちは伝わってるよ。僕を守りたいって思ってくれたんだよね?」
「ああ」
「僕だって兄さんと同じくらい兄さんを守りたいって思ってる。それは兄さんの体だけじゃない。心もだ」
「心?」
「断言する。兄さんはそいつを殺したら後悔するよ。こんなやつのために僕に負担をかけてしまった、僕を言い訳にして人殺しに巻き込んでしまった……そう考える。そうなったら兄さんはもう二度と立ち直れない」
「……」
思うところがあったのか、兄さんが黙り込む。
「僕達は一生の相棒でしょ?僕は身も心もずっと兄さんと共にありたい。だから僕達の敵が現れたらふたりで一緒に倒そうよ。その時に相手を殺すこともあるかもね。殺したことを後悔して、ふたりとも心を病むかもしれない。そしたらさ、痛みを分かち合えるよ。それってすごく相棒らしいと思わない?」
「……そうだな、俺達は一生の相棒だ。ルカ、俺は間違えてしまったのか」
「僕なんていつも失敗しまくりだよ。いいじゃん、間違っても。今回の件は、兄さんが悪いわけじゃないし」
「ルカは俺が間違えても見捨てない?ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん、ずっとそばにいるよ。兄さんだって、逆の立場ならそうするでしょう?」
「ありがとう」
兄さんが落ち着いた。周りの人達はあからさまにホッとしている。
僕はいつもと同じ調子で兄さんに声をかける。
「ほら、兄さんは血を落としてきて!服に染み込んだら落ちないから急いでね!」
「わかった」
兄さんの背中を見送ると急いでソーンの元に向かう。するとダリオが話しかけてきた。
「ルカ、あのさ」
「ごめん。ソーンが死にそうだから今話せない。むしろお願い、兄さんを鍛練場に近づかせないで」
「なんで?」
「兄さん以外の人に回復の魔法使ったら怒られるから。今度こそソーンが死んじゃう」
「わかった」
「後で話そうね。ありがとう」
ダリオは片手を上げると急いで兄さんのところに向かった。ダリオのおかげで、回復できる時間は十分取れそうだ。
僕は今ソーンを動かしたら死ぬかもと周りに伝え、関係者以外誰も近づけないようにした。放っておけばギルドが呼んだ聖職者がやってくるまでの間に、ソーンは確実に死んでしまう。
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