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イーザリア王国編

決闘(ダリオ視点)

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※残酷表現注意
 

 アイザックさんは、決闘前に契約を交わすため別室に行ってしまった。契約をしたらすぐに決闘が始まるだろう。
 ギルド内にも緊張が走る。

 皆が神妙な顔で決闘を待っていると、扉を乱暴に開く騒がしいやつがギルドに乱入した。
「ダリオ!ルカがどこにいるかわかるっすか!?」
「知らねえよ!トールと紅茶を買ってるとかなんとか……それどころじゃないんだ!決闘だぞ、決闘!ソーンとアイザックさんが!」
「俺の予知がルカが冒険者ギルドにいないと大変なことになるって告げてるっす!その決闘が終わるまでにルカを連れてこないと!」
「あれ?なんかギルドの雰囲気おかしくない?ミゲル、何かあったの?」
「カミラ、ちょうどよかった!ルカを探しに行くっす!大変なことになるって、俺の予知が!」
「わかった。他にも協力者を探しましょう」
「ダリオはここにいてほしいっす!もし俺らが間に合いそうになかったら止めてほしいっす!」
「わかった」

 なにか恐ろしいことが起こる。でもどうしたらいいのかわからない。俺はミゲルを本気で尊敬した。わかっていても何もできない。それがこんなにもどかしいものだとは思わなかった。

 ミゲル達が冒険者ギルドを飛び出してからしばらくして、決闘が始まるからとギルドにいた全員が鍛練場に移動した。俺は何が起こってもいいように最前列で決闘を見守ることにした。

「今から金級冒険者ソーンと銅級冒険者アイザックの決闘を行う」
 立会人の声だけしか聞こえない。鍛練場は静寂に包まれていた。
 アイザックさんは平静と大剣を構え、ソーンはニヤニヤしながら槍を構えている。

「始めっ!」

 瞬殺だった。文字通り一瞬の出来事だった。俺も周りのやつらも何が起きたのかしばらく理解できなかった。
 アイザックさんがソーンの間合いに目にも留まらぬ速さで潜り込んだと思ったら、槍を真っ二つに斬り、その勢いのまま身体ごと突っ込んで大剣で薙ぎ払ったのだ。

 ソーンが鍛練場の壁に激突する音が響いた。信じられない。人間業じゃない。
 ソーンと背後の壁まで何メルあったか。少なくともソーンは6メル吹っ飛ばされてる。
 俺と手合わせをする時、アイザックさんは本気を出さなかった。それは分かっていたが、まさかこんなに実力差があったとは知らなかった。
 勝敗は決した。ソーンは気絶していてどちらが勝者か明らかだ。
 俺は安堵していた。ミゲルの予知も外すことあるのね、なんて悠長に考えていた。

 アイザックさんがソーンの元に駆け寄る。怪我の確認だろうか?と思っていると、アイザックさんがソーンの胴体に馬乗りになった。
 は?どういうことだ。全く理解が追いつかない。立会人も同様にどう声をかけていいのか悩んでいるようだ。
 すると

「よかった。まだ息があった」
 ガッ
 鈍い音が鍛練場に響いた。アイザックさんは無表情でただただソーンを殴り続けていた。
 気絶してたソーンだが、途中で気がついたのだろう。降参しようとなんとか口を開く。
「まいっ」
 ガッ
「ぐっ!」
「命乞いは聞かない。苦しみながら死ね」
 それだけ言うとまた淡々と殴り始めた。

「誰か止めろ!ソーンが死ぬぞ!」
「だめだ!何人かでまとめて抑えるぞ!」
「こいつ化け物か!動かねえ!おい、応援呼べ!」
「ダリオ!お前知り合いだろ!止めろ!」
 足が全く言うことを聞かなかった。止めなければ、早く。ミゲルにも頼まれたんだ。このままだとアイザックさんは人殺しだ。決闘のルールで許されているとはいえ、冒険者として生活を続けるのは難しくなるかもしれない。

「邪魔するやつも容赦しない。俺はこいつを殺す」
 アイザックさんの拳がソーンの血で染まっている。ソーンの顔はボコボコに腫れ上がって元の顔がわからない。壁に激突した時だろう、右足が変な方向に曲がっている。
「右足はもうだめだな。そうだ、俺は優しいから左足も壊してやる。感謝しろよ、なぁ?」
 アイザックさんがソーンの左足に狙いを定めて足を振り上げ……全力で振り下ろす。
 骨が砕ける音がした。ソーンはもう悲鳴をあげる気力すらないようだ。
「まだ死ぬなよ。全然足りない。おい、この中に聖属性持ちはいないか?こいつを回復してくれ。何回でも殺してやる」

 だめだ。止められない。このままだとアイザックさんはソーンを

 その時誰かが鍛練場に駆け込んだ音がした。
 ルカだ。ミゲル達間に合ったんだ。
 俺は胸をなで下ろした。ルカならアイザックさんをすぐに止められるだろう。
「兄さんもうやめよう。手が痛そうだ」
「ルカ、止めないでくれ」
「だめだよ兄さん」
 早く、早く止めてくれ。鍛練場にいる人々の思いはひとつになっていた。皆が13歳の少年に期待していた。

「僕達の敵はふたりで倒さないとだめだよ」

 意味がわからなかった。この少年が何を言っているのか、理解ができなかった。
 少年は慈悲深い女神のように微笑んでいた。幼子に言って聞かせるような穏やかな声で語りかけ、愛しい人に向ける慈愛の目で男を見つめていた。

 目の前にいるのは誰なんだ。本当に俺の知ってる少年なのか。
 少年はゆっくりとした足取りで男に近寄ると、勝利の女神が勇敢な戦士を讃えるかのように頭を優しく撫でた。

 息を呑むほど美しくて、背筋が凍るほど恐ろしい、そんな光景だった。
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