27 / 158
イーザリア王国編
ワイバーン
しおりを挟む
あれがワイバーンか。体長は4メートルくらい。思ったよりも小さい。
「兄さん。ワイバーンの倒し方にコツとかある?」
「地面に落として首を切断するのが確実だろうな」
「じゃあ僕が地面に引き摺り下ろすから、止めは兄さんに任せるね」
「了解」
ワイバーンは逃げ惑うゴブリンに狙いを定めて旋回している。下りてくる気配はまだない。
雷撃が届くか微妙な距離だ。攻撃魔法で遠距離からチマチマ本体にダメージを与えるより、翼にダメージを与えるほうが確実に地面に落とせるだろう。
ワイバーンは前足の部分が翼になっている。根本を狙って翼を切断するのは難しい。
やつの翼は指と指の間の皮膜が翼になった形状をしている。狙うのは皮膜の部分。穴を開けて引き摺り下ろしてやる。
「兄さん!翼の皮膜のところに穴を開ける!少しの間、やつの注意を引きつけてほしい」
「わかった」
兄さんが僕と離れて大木に剣を当ててガンガン鳴らし始めた。するとワイバーンが兄さんの動きを警戒して旋回をやめた。
僕は魔法に集中する。土属性魔法《金属生成》で土の塊よりも質量が重い球を生成、風属性魔法《風弾》でそれを飛ばす。
魔法はイメージが大切だ。僕は生成した球がより速く、より遠くに飛ぶようにイメージして魔力をこめる。
「今だ!」
僕の魔法が直線的に飛んでワイバーンの翼の皮膜に命中する。
ワイバーンがフラフラと空から落ちて地響きを立てる。兄さんはその瞬間を逃さず、即座に近づいてワイバーンの首に狙いを定め大剣を振り下ろす。
ワイバーンも抵抗しようと体を動かしたが遅かった。
ワイバーンの首が綺麗に切断される。正に一刀両断だ。無駄のない動き、兄さんの剣はいつ見ても惚れ惚れする。
「ルカ!怪我はないか?」
「大丈夫!兄さんは?」
「俺も大丈夫だ」
よかった。ふたりとも怪我はないようだ。
「それにしてもワイバーンをこんなあっさり倒せるとは……ルカの魔法はすごいな」
「兄さんもかっこよかった!ワイバーンの首をスパーンって!兄さんは世界一の剣士だね!」
「褒めすぎだ」
兄さんの耳が赤い。もしかして照れてる?ここまで分かりやすいのも珍しい。兄さんも僕に褒められたらソワソワするのだろうか。そうだったら嬉しいな。
「おーい!そこに誰かいるっすかー?」
ミゲルの声だ。そういえば銅級冒険者パーティーが来るって伝達役が言ってたな。
「ミゲルー?ルカだよ!僕達以外誰もいないよー!」
「は?なんでルカがそこに?急いで向かうっす!」
ミゲルはそう言ってすぐにこちらに来た。ミゲルは無属性魔法《身体強化》を使った素早い動きが得意だ。そのおかげで1番に現場に到着したのだろう。他の冒険者の気配はまだ感じられない。
「もしかしてルカとアイザックさんがはぐれワイバーンを倒したっすか!?銅級パーティー複数で倒すレベルの魔物っすよ!」
「兄さんに倒し方のコツを聞いたから余裕だったよ!」
「コツで魔物倒せたら冒険者はいらないっす!……キレイに首を切断してるっすね。かなりの報酬になると思うっす」
「いいことってこれのことかぁ」
「普通ワイバーンに遭遇するのをいいことって言わないと思うっすが、たぶんそうっすね……」
しばらくして『銀色の風』のメンバーと銅級冒険者パーティーが2組やってきた。
僕達がワイバーンを討伐したと知ると先ほどのミゲルと同様に、他の冒険者達も驚きを隠せない様子だった。
『銀色の風』以外の冒険者からは兄さんがワイバーンをソロで倒したと思われてるようだ。兄さんだけ質問攻めにあっている。
ワイバーンの運搬をするため、兄さんと別れて行動する。
僕はかなり前方で土属性魔法《土操》を使い運びやすいように地面を均している。隣にいるのは『銀色の風』の魔法使いカミラだ。
「ワイバーンの翼の傷。あれルカでしょ?」
「わかる?魔法でちょっとね」
「ワイバーンの翼は薄いけど伸縮性があって、魔法では簡単に傷付けられない。本体に攻撃魔法を当てて弱らせるのが、一般的な魔法使いの戦い方よ」
「えっ?兄さんは僕が魔法で翼に穴を開けるって言っても止めなかったけど」
「強い戦士というのはね、自分達ができることは魔法でもできると思う生き物なの」
そう言うとカミラは遠い目をしてぶつぶつと呪詛を吐き出した。いろいろと苦労しているのだろう。これはあまり触れない方がいいな。
ある程度呪詛を吐いたらすっきりしたのかカミラが話を続ける。
「ルカの魔法は異常だわ。私達が使う魔法と全く違う、根本からなにもかも違う。」
「そんなに?」
「熟練の魔法使いでも、飛んでるワンバーンの翼を狙って局所的に攻撃するのは不可能よ」
「そうなんだ」
「あなたの実力は隠しておいた方がいい。幸い、私達以外の冒険者連中は、アイザックさんがソロでワイバーンを倒したと思い込んでる。それを利用して魔法のことを誤魔化すの。あなたの実力がバレたらいろんなところから狙われるわよ。それこそ貴族とか」
「貴族!それは嫌だなぁ。ありがとうカミラ、兄さんに話して口裏を合わせてもらうことにする」
カミラは僕の言葉に満足したように頷くと急に顔を強張らせる。
そして意を決したように口を開いた。
「ルカ、あなた何者なの?」
「僕は僕だよ。鉄級で冒険者暦2ヶ月のお荷物くん。趣味は食べ歩きで最近紅茶にハマってる」
「……ごめんなさい。いらない詮索しちゃったわ。そうよね、ルカはルカよね」
「うん、これからもよろしくね」
「もちろんよ」
僕の方こそごめんね。前世の知識を基にした魔法の力だ、なんて教えられない。
それこそ兄さんにも言えない最大の秘密だ。
兄さんは僕の魔法のことを詮索してこない。『ルカはすごいな、天才だ』と褒めてくれるだけだ。その心地よさに引き込まれてすっかり油断していた。
平穏な冒険者生活のために気を引き締めないといけない。貴族に目をつけられて離れ離れに、なんてもってのほかだ。
何があっても僕と兄さんはずっと一緒だ。
歩きながらカミラといろんな話をした。ハマってると言ったからか紅茶の話が中心だ。
もう春が近い。穏やかな日差しに目を細めながら、ワイバーン肉を何キロ貰おうかなとぼんやり考えていた。
「兄さん。ワイバーンの倒し方にコツとかある?」
「地面に落として首を切断するのが確実だろうな」
「じゃあ僕が地面に引き摺り下ろすから、止めは兄さんに任せるね」
「了解」
ワイバーンは逃げ惑うゴブリンに狙いを定めて旋回している。下りてくる気配はまだない。
雷撃が届くか微妙な距離だ。攻撃魔法で遠距離からチマチマ本体にダメージを与えるより、翼にダメージを与えるほうが確実に地面に落とせるだろう。
ワイバーンは前足の部分が翼になっている。根本を狙って翼を切断するのは難しい。
やつの翼は指と指の間の皮膜が翼になった形状をしている。狙うのは皮膜の部分。穴を開けて引き摺り下ろしてやる。
「兄さん!翼の皮膜のところに穴を開ける!少しの間、やつの注意を引きつけてほしい」
「わかった」
兄さんが僕と離れて大木に剣を当ててガンガン鳴らし始めた。するとワイバーンが兄さんの動きを警戒して旋回をやめた。
僕は魔法に集中する。土属性魔法《金属生成》で土の塊よりも質量が重い球を生成、風属性魔法《風弾》でそれを飛ばす。
魔法はイメージが大切だ。僕は生成した球がより速く、より遠くに飛ぶようにイメージして魔力をこめる。
「今だ!」
僕の魔法が直線的に飛んでワイバーンの翼の皮膜に命中する。
ワイバーンがフラフラと空から落ちて地響きを立てる。兄さんはその瞬間を逃さず、即座に近づいてワイバーンの首に狙いを定め大剣を振り下ろす。
ワイバーンも抵抗しようと体を動かしたが遅かった。
ワイバーンの首が綺麗に切断される。正に一刀両断だ。無駄のない動き、兄さんの剣はいつ見ても惚れ惚れする。
「ルカ!怪我はないか?」
「大丈夫!兄さんは?」
「俺も大丈夫だ」
よかった。ふたりとも怪我はないようだ。
「それにしてもワイバーンをこんなあっさり倒せるとは……ルカの魔法はすごいな」
「兄さんもかっこよかった!ワイバーンの首をスパーンって!兄さんは世界一の剣士だね!」
「褒めすぎだ」
兄さんの耳が赤い。もしかして照れてる?ここまで分かりやすいのも珍しい。兄さんも僕に褒められたらソワソワするのだろうか。そうだったら嬉しいな。
「おーい!そこに誰かいるっすかー?」
ミゲルの声だ。そういえば銅級冒険者パーティーが来るって伝達役が言ってたな。
「ミゲルー?ルカだよ!僕達以外誰もいないよー!」
「は?なんでルカがそこに?急いで向かうっす!」
ミゲルはそう言ってすぐにこちらに来た。ミゲルは無属性魔法《身体強化》を使った素早い動きが得意だ。そのおかげで1番に現場に到着したのだろう。他の冒険者の気配はまだ感じられない。
「もしかしてルカとアイザックさんがはぐれワイバーンを倒したっすか!?銅級パーティー複数で倒すレベルの魔物っすよ!」
「兄さんに倒し方のコツを聞いたから余裕だったよ!」
「コツで魔物倒せたら冒険者はいらないっす!……キレイに首を切断してるっすね。かなりの報酬になると思うっす」
「いいことってこれのことかぁ」
「普通ワイバーンに遭遇するのをいいことって言わないと思うっすが、たぶんそうっすね……」
しばらくして『銀色の風』のメンバーと銅級冒険者パーティーが2組やってきた。
僕達がワイバーンを討伐したと知ると先ほどのミゲルと同様に、他の冒険者達も驚きを隠せない様子だった。
『銀色の風』以外の冒険者からは兄さんがワイバーンをソロで倒したと思われてるようだ。兄さんだけ質問攻めにあっている。
ワイバーンの運搬をするため、兄さんと別れて行動する。
僕はかなり前方で土属性魔法《土操》を使い運びやすいように地面を均している。隣にいるのは『銀色の風』の魔法使いカミラだ。
「ワイバーンの翼の傷。あれルカでしょ?」
「わかる?魔法でちょっとね」
「ワイバーンの翼は薄いけど伸縮性があって、魔法では簡単に傷付けられない。本体に攻撃魔法を当てて弱らせるのが、一般的な魔法使いの戦い方よ」
「えっ?兄さんは僕が魔法で翼に穴を開けるって言っても止めなかったけど」
「強い戦士というのはね、自分達ができることは魔法でもできると思う生き物なの」
そう言うとカミラは遠い目をしてぶつぶつと呪詛を吐き出した。いろいろと苦労しているのだろう。これはあまり触れない方がいいな。
ある程度呪詛を吐いたらすっきりしたのかカミラが話を続ける。
「ルカの魔法は異常だわ。私達が使う魔法と全く違う、根本からなにもかも違う。」
「そんなに?」
「熟練の魔法使いでも、飛んでるワンバーンの翼を狙って局所的に攻撃するのは不可能よ」
「そうなんだ」
「あなたの実力は隠しておいた方がいい。幸い、私達以外の冒険者連中は、アイザックさんがソロでワイバーンを倒したと思い込んでる。それを利用して魔法のことを誤魔化すの。あなたの実力がバレたらいろんなところから狙われるわよ。それこそ貴族とか」
「貴族!それは嫌だなぁ。ありがとうカミラ、兄さんに話して口裏を合わせてもらうことにする」
カミラは僕の言葉に満足したように頷くと急に顔を強張らせる。
そして意を決したように口を開いた。
「ルカ、あなた何者なの?」
「僕は僕だよ。鉄級で冒険者暦2ヶ月のお荷物くん。趣味は食べ歩きで最近紅茶にハマってる」
「……ごめんなさい。いらない詮索しちゃったわ。そうよね、ルカはルカよね」
「うん、これからもよろしくね」
「もちろんよ」
僕の方こそごめんね。前世の知識を基にした魔法の力だ、なんて教えられない。
それこそ兄さんにも言えない最大の秘密だ。
兄さんは僕の魔法のことを詮索してこない。『ルカはすごいな、天才だ』と褒めてくれるだけだ。その心地よさに引き込まれてすっかり油断していた。
平穏な冒険者生活のために気を引き締めないといけない。貴族に目をつけられて離れ離れに、なんてもってのほかだ。
何があっても僕と兄さんはずっと一緒だ。
歩きながらカミラといろんな話をした。ハマってると言ったからか紅茶の話が中心だ。
もう春が近い。穏やかな日差しに目を細めながら、ワイバーン肉を何キロ貰おうかなとぼんやり考えていた。
124
お気に入りに追加
1,071
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる