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第二十話 初夜※
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いよいよだ。気分が落ち着かず、自室をうろうろ歩き回る。
今朝アルチュールからベッドが搬入されたと気まずそうに伝えられた。意識しすぎてついジェラルド様の部屋に繋がる扉に目を向けてしまう。
今日は仕事を早く終わらせるとジェラル様が約束してくれた。合図をするから自分の部屋で待っていてほしいと言われてここで待機しているけど、何も手につかない。
さすがに、あるよね。お風呂で隅々まで、それはもう普段意識すらしない場所まで綺麗にしたけどやっぱり不安だ。
少しでも綺麗だと思ってもらいたくて気合を入れすぎてしまった。
結婚してから約半年。今日初夜を迎えなかったら次の機会はいつになるんだという話だ。
ジェラルド様とそのようなやり取りはしていないけれどあると思う。たぶん、ほぼ確実に。
部屋を周り続けてどれくらいの時間が経っただろうか。十周目に突入してから数えるのをやめた。
いっそのこと執務室に突入してしまおうかと思った瞬間、力強いノック音が響いた。
この扉を叩くのは一人しかいない。僕が返事をすると、予想通りジェラルド様が姿を現した。
「早めに切り上げてきた」
「お疲れ様です」
いつものきちんとした格好と違い、部屋着のジェラルド様はラフな装いだ。何回か見ているはずなのに、意識してしまうと緊張で鼓動が高まる。
「では、あの、こちらに」
「あ、はい。お邪魔します」
二人とも無言ままベッドの前で立ち尽くす。まずい、何か言わなければ。
「わ、新しいベッド大きいなー。これなら二人で寝ても余裕がありますね」
「ああ」
もっといつも通りにお話ししたいのに、どうしてもぎこちなくなってしまう。心なしかジェラルド様も返事が単調だ。
「あっ、あのっ!」
「ん?」
小首をかしげたジェラルド様の顔に髪がかかる。
今さら気づいたけど、ジェラルド様が髪を下ろしているのを初めて見た。色気がすごい。大人の男性って感じだ。僕には一生かかっても出せない種類の魅力がある。
「足が疲れたので、その、座りたいかなと思いまして」
「別に構わないが、昼に運動でもしたのか?」
「いえ、先ほど少し」
まさか緊張しすぎて室内を歩き回っていました、なんて言えるわけがないので言葉を濁す。
ジェラルド様はよくわからないという顔をしながら、特に追及することなく僕の隣に腰掛けた。
ベッドが軋む音が耳に通る。何気ない仕草も全てこの音に反映される気がして、うまく身体を動かせない。
「ノア」
ふとジェラルド様が僕の名前を呼んだ。弾かれたように顔を上げると、熱い視線が僕を貫いた。
「ジェラルド、様」
呼び慣れたはずの名前なのに、囁くような声量しか出てこない。どうにか声を絞り出そうとしても、出てくるのは熱がこもった吐息だけだ。
ジェラルド様の手が僕の頬に触れる。思わず目を閉じたら、唇に柔らかいものが押し当てられてすぐに離れた。
「緊張しすぎだ」
「初めてなのでよくわからなくて……すみません」
「謝ることはない。私も似たようなものだから、そこまで硬くならなくていい」
「えっ?」
思わずジェラルド様の顔を見ると、暗い顔で俯いた。
「そんなに意外か?」
「だって、過去に五人と婚姻を……」
ジェラルド様がさらに暗い顔になった。
「泣き叫ばれたから途中でやめて、それきりだ」
「それは、その、なんと言ったらいいか」
「この話は終わりにしよう。雰囲気を悪くした。すまない」
ジェラルド様は気まずそうに頬をかいて「ここからどう巻き返せばいいんだ?」と呟いている。
僕と同じようにジェラルド様も緊張していることがわかって、自然と肩の力が抜けた。
「ジェラルド様」
膝の上に置かれた手の上に、そっと自分の手を重ねる。
「僕、すごく緊張していて今日は何も手につかなかったんです。先ほどまで部屋の中をひたすら歩き回っていました」
「部屋を?」
「はい。でもそれ以上に嬉しかったんです。大好きな人と結ばれるなんて夢みたいだって。僕は今、すごく幸せな気分です」
ジェラルド様が一瞬泣きそうな顔になって、それから僕を抱きしめた。
「私は幸せ者だ。本当に……」
「ジェラルド様?」
「ノア、愛してる」
唇が重なり、ジェラルド様の舌が口の中に入ってきた。僕の舌を絡め取るように動き回る。
「ふっ……ん」
頭がぼうっとしてきたところで唇が離された。
「君が欲しい」
「はい。あのっ、よろしくお願いします」
真っ直ぐな言葉に恥ずかしさを覚えたが、僕も素直に頷いた。
服に手が掛かり、あっという間に服を脱がされる。気がついたら優しくベッドに押し倒されていた。
「ノア……」
ジェラルド様の手が僕の頬に触れる。唇が重なり、また舌が絡み合った。僕は必死に応えるが、キスだけで頭が蕩けそうだ。
粘膜が絡み合うぬるぬるとした感触が気持ちいい。ああ、そうだ。鼻で息をするんだった。
「んっ……ふっ」
「好きだ」
耳元で囁かれた言葉に身体が震える。そのまま耳を舐められ、首筋を舌でなぞられた。
「んぅ、あっ」
くすぐったいような、ぞくぞくした感覚に思わず声が出る。
首筋をなぞっていた舌はやがて鎖骨の下に辿り着き、強く吸われた。
「んっ!」
「痛かったか?」
「いえ、ちょっと驚いただけです」
「すまない、どうしても痕跡を残したかった」
ジェラルド様は満足そうに微笑む。きっと鎖骨辺りには赤い痕がついているのだろう。
「ずるい。僕もやりたいです」
「後でな」
ジェラルド様の手は僕の胸に触れ、優しく揉み始めた。骨張った手の繊細な動きに思わず身を捩ってしまう。
「くすぐったいのか?」
「なんか、むずむずします」
「そうか」
やめてくれるのかと思ったら、ジェラルド様は再び胸に触れた。今度は円を描くように乳輪を刺激される。
どことなく、むずむずした感覚が胸の中央に集まっている気がする。
胸への愛撫はしばらく続き、汗ばんだ肌にジェラルド様の熱い手が吸い付く。
「んっ、もうっ……だめです」
「どうして?」
「なんか変な感じするから……っあ!」
胸の尖りを指の腹で摘まれた瞬間、全身に快感が走った。
「感じるようになったな」
「っ……や、ちがっ……」
「違わないだろう? ほら」
「ああっ!」
両方の乳首を同時に摘まれて、あられもない声を上げてしまった。
ジェラルド様の言う通り、そこはもう触れられると感じる器官となっていた。
「可愛い。もっと聞かせてほしい」
そう言うとジェラルド様は僕の胸に顔を近づけた。そして舌先でつつくように乳首を刺激される。
「あっ、あっ……これ、やだっ」
自分の身体が作り変えられていくようで、思わず拒絶の言葉が出てしまう。
ジェラルド様は一度胸から口を離し、優しい手付きで頭を撫でてくれた。
「大丈夫。君はただ身を任せてくれればいい」
「……はい」
ジェラルド様の目を見て頷くと、彼は安心したように笑って再び僕の胸へと吸いついた。
「んっ……ふ、ぁっ」
ねっとりと、舌の裏側まで使って舐め上げられ、声が抑えられなくなった。
同時にもう片方の突起も指で摘まれ、転がされるように弄られた。
初めての感覚に喘いでいると、ジェラルド様が空いた手で僕の陰茎を擦った。
「ああぁっ!」
直接的な刺激に声が大きくなる。僕の陰茎はすでに先走りで濡れていて、上下に擦られるとかすかに水音が響いた。
「あっ、んっ……ゃ、んんっ」
だめと言いかけた口を無理やり閉じる。でもすぐにジェラルド様の手が速くなって、意味のない言葉が口から漏れてしまう。
「ふっ、ぁ……あぁっ」
「イきそうか?」
問われてこくこくと頷いた。ジェラルド様は愛おしげに微笑んだ後、さらに手の動きを速めた。
「ひ、ぁっ……イくっ! イッちゃ、ぁあっ!」
身体が震え、強烈な快楽の波に飲み込まれる。
「はあっ、はぁ……っ」
「気持ちよかったか?」
「……はい」
素直に頷くとジェラルド様は嬉しそうに笑った。そして、僕の頭を優しく撫でて額にキスをしてくれた。
絶頂の余韻が抜けきらないまま、ジェラルド様に四つん這いになるよう言われた。布の擦れる音が聞こえて、ジェラルド様が服を脱いでいることがわかった。
振り返ることができないままドキドキしながら待っていると「触るぞ」と声がかかり、ジェラルド様の指が後孔の縁にあてがわれた。
「ひゃっ」
「冷たかったか?」
「大丈夫です。少しびっくりしちゃって」
「痛くしないから、力を抜いて」
いつもより低い、官能的な声に心臓がどきりと跳ねる。
ジェラルド様はマッサージするように穴の周りをなぞった。同時に会陰も絶妙な力で押され、身体の力が抜けていくのを感じる。
「んっ、あ……んんっ」
「指、入れるから」
「は、い」
深呼吸をして受け入れる態勢を整える。息を吐いたタイミングでジェラルド様の指がゆっくりと挿入された。
「痛くないか?」
「へい、きです」
痛みはないものの、圧迫感がすごい。ごつごつとした指が一本入るだけで、中がいっぱいになった。
「んっ、ぐっ……ぁ」
「ゆっくりでいい、息を吐いて」
「はー、はー」
「上手だ」
止まっていた指が再び動き出した。抜き差しのたびに香油が注ぎ足され、ぐちょぐちょと水音が響く。
「あっ、ン、ぅあ」
指の動きに合わせて声が漏れる。その間もジェラルド様は僕に気遣うように声をかけてくれた。
しばらく単調な抜き差しが続き、気が付けば指が二本入るようになった。抜く時の気持ちよさがなんとなく掴めるようになって、自然と声が出てしまう。
「ここか」
「えっ、あっ! なに、これっ!」
ジェラルド様の指が内壁を押し込む。すると、先ほどまでと比べものにならないくらいの快感が全身を突き抜けた。
「よかった。気持ちよさそうだ」
「あぁああ……あぅぅ」
たしかに気持ちいいけど、絶頂に至るには少し遠くて、気がついたら腰が揺れていた。
僕の様子に気づいたのか、ジェラルド様が中から指を引き抜く。
「あっ」
「ノア、そろそろ……」
ジェラルド様の指がそっと腰をなぞる。
「んっ、待ってください」
「どうした?」
「顔を見ながらしたいです。だめですか?」
「だめではないが、怖がらせてしまうかも」
歯切れの悪い返答に戸惑い、身体を反転させてみる。
まず目に入るのは思わず見惚れてしまうくらい鍛えられた肉体だ。それから目線は下にずれていき、完全に勃ち上がったものが視界に入った。
「わ……」
家族のもの以外見たことはないけど、ジェラルド様のものは明らかに大きいとわかる。唖然としていると、頬に口付けられた。
「痛くしない。約束する」
「びっくりしたけど、ジェラルド様のだから怖くはないです」
「ありがとう」
ジェラルド様はそう言って、仰向けになった僕に覆い被さった。
ゆっくりと後孔に腰が沈んでいく。指の時よりも圧迫感があって、浅く息を吐いた。
「ふ、ぅ……っ」
「痛いか?」
首を横に振って必死で否定する。実際、ジェラルド様が慣らしてくれたおかげで痛みよりも異物感の方が強い。
ジェラルド様は僕の様子を窺いながら腰を進めてくれた。
「あっ! ゃ、あ……んッ」
奥へと進んでいくと、先端が前立腺を掠めた。身体はここが気持ちいいと覚えていて、奥へ誘い込むように内壁が収縮する。
「ノア」
ふとジェラルド様が僕の名前を呼んだ。あれ、こんなに顔近かったっけ。
ジェラルド様は額から汗を流し、興奮からか頬が紅潮していた。
「ジェラルド、様……気持ちいい、ですか?」
期待を込めた問いかけに、ジェラルド様は目を細めてさらに顔を近づけた。
「ああ、気持ちいいよ」
「よかったぁ」
力の抜けた笑顔を見せると、ジェラルド様が唇を重ねてきた。
「んんッ……ん、ン」
深く舌が絡まりあって、身体の熱が更に上がる。もうお互いの唾液でぐちゃぐちゃだ。唇同士が離れると銀色の糸が引いて、ぷつりと切れた。
「は……っ、ぁ……ジェラルドさま……」
「……ノア」
ジェラルド様は僕の名前を呼ぶと、再び唇を塞いだ。そしてゆっくりと腰を動かし始めた。
「んっ、んぅ……んん~~っ」
奥まで埋め込まれた陰茎がギリギリのところまで抜け、また押し込まれる。その度に大きく張った先端が前立腺を抉り、塞がった口から喘ぎ声が漏れる。
結合部からはグチャグチャと水音が響き、興奮を煽られた。
苦しくなってきたタイミングで唇が離れ、荒い息が溢れる。ジェラルド様は呼吸が整うまで腰の動きを止めてくれた。
しかしそれによって抽挿に悦んでいた中が疼き、求めるように内襞が蠢いた。
「少しだけ、激しくしてもいいか?」
「はい。たくさんしてください」
ジェラルド様の絶頂が近いことに胸が高鳴り、彼の首に腕を回して抱きついた。ジェラルド様の匂いを強く感じてドキドキする。
腰を掴む手に力が込められ、硬い亀頭が膨らんだしこりを捏ね回す。蕩けた声を出していると、勢いよく腰を打ちつけられた。
「んっ、ふ……ぁ、あッ! ああっ!」
「好きだ」
耳元で囁かれる愛の言葉に反応して、ジェラルド様のものを締めつける。
「僕も、すき。大好き」
ジェラルド様は嬉しそうに笑うと、僕の頬にキスをした。
そして腰の動きをさらに速め、右手で僕の陰茎を扱き始めた。
「あ、あ、ああッ! だめっ、も……イっちゃう……!」
「ああ、一緒にイこう」
ジェラルド様は僕の陰茎を扱く手を速めると、先端に爪を立てた。その刺激でもう何も考えられなくなる。
「ああああッ!」
「くっ……」
絶頂に達した瞬間、中がきゅっと締まり、ジェラルド様のものがどくんと脈打ったのを感じた。そして熱い飛沫がお腹の中に注がれるのを感じて、僕は夢心地に微笑んだ。
朝起きて目を開けると、ジェラルド様が僕の髪を愛おしげに撫でていた。
「おはよう、ノア」
「おはようございます。いつから起きていたのですか?」
「つい先ほどだ。君があまりにも気持ちよさそうに寝ているから、起こすのが忍びなくてな」
ジェラルド様はふっと微笑むと、その端整な顔を近づけて、唇に軽くキスを落とした。
昨夜の情事を思い起こすようなその行動に顔が熱くなり、思わず身体を起こす。
「どうした?」
ジェラルド様も起こして、僕の方に身体を向ける。
どうしよう、何か言ったほうがいいよね。
「あのっ! これからもよろしくお願いします」
ジェラルド様はきょとんとした顔をして、それから僕と同じように頭を下げた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
いつもと違う改まった雰囲気になぜか笑いが込み上げてきて、ジェラルド様もつられて笑った。
ひとしきり笑った後、どちらからともなく抱きしめ合う。その温もりが愛おしくて、僕はジェラルド様の背中に回す手に力を込めた。
今朝アルチュールからベッドが搬入されたと気まずそうに伝えられた。意識しすぎてついジェラルド様の部屋に繋がる扉に目を向けてしまう。
今日は仕事を早く終わらせるとジェラル様が約束してくれた。合図をするから自分の部屋で待っていてほしいと言われてここで待機しているけど、何も手につかない。
さすがに、あるよね。お風呂で隅々まで、それはもう普段意識すらしない場所まで綺麗にしたけどやっぱり不安だ。
少しでも綺麗だと思ってもらいたくて気合を入れすぎてしまった。
結婚してから約半年。今日初夜を迎えなかったら次の機会はいつになるんだという話だ。
ジェラルド様とそのようなやり取りはしていないけれどあると思う。たぶん、ほぼ確実に。
部屋を周り続けてどれくらいの時間が経っただろうか。十周目に突入してから数えるのをやめた。
いっそのこと執務室に突入してしまおうかと思った瞬間、力強いノック音が響いた。
この扉を叩くのは一人しかいない。僕が返事をすると、予想通りジェラルド様が姿を現した。
「早めに切り上げてきた」
「お疲れ様です」
いつものきちんとした格好と違い、部屋着のジェラルド様はラフな装いだ。何回か見ているはずなのに、意識してしまうと緊張で鼓動が高まる。
「では、あの、こちらに」
「あ、はい。お邪魔します」
二人とも無言ままベッドの前で立ち尽くす。まずい、何か言わなければ。
「わ、新しいベッド大きいなー。これなら二人で寝ても余裕がありますね」
「ああ」
もっといつも通りにお話ししたいのに、どうしてもぎこちなくなってしまう。心なしかジェラルド様も返事が単調だ。
「あっ、あのっ!」
「ん?」
小首をかしげたジェラルド様の顔に髪がかかる。
今さら気づいたけど、ジェラルド様が髪を下ろしているのを初めて見た。色気がすごい。大人の男性って感じだ。僕には一生かかっても出せない種類の魅力がある。
「足が疲れたので、その、座りたいかなと思いまして」
「別に構わないが、昼に運動でもしたのか?」
「いえ、先ほど少し」
まさか緊張しすぎて室内を歩き回っていました、なんて言えるわけがないので言葉を濁す。
ジェラルド様はよくわからないという顔をしながら、特に追及することなく僕の隣に腰掛けた。
ベッドが軋む音が耳に通る。何気ない仕草も全てこの音に反映される気がして、うまく身体を動かせない。
「ノア」
ふとジェラルド様が僕の名前を呼んだ。弾かれたように顔を上げると、熱い視線が僕を貫いた。
「ジェラルド、様」
呼び慣れたはずの名前なのに、囁くような声量しか出てこない。どうにか声を絞り出そうとしても、出てくるのは熱がこもった吐息だけだ。
ジェラルド様の手が僕の頬に触れる。思わず目を閉じたら、唇に柔らかいものが押し当てられてすぐに離れた。
「緊張しすぎだ」
「初めてなのでよくわからなくて……すみません」
「謝ることはない。私も似たようなものだから、そこまで硬くならなくていい」
「えっ?」
思わずジェラルド様の顔を見ると、暗い顔で俯いた。
「そんなに意外か?」
「だって、過去に五人と婚姻を……」
ジェラルド様がさらに暗い顔になった。
「泣き叫ばれたから途中でやめて、それきりだ」
「それは、その、なんと言ったらいいか」
「この話は終わりにしよう。雰囲気を悪くした。すまない」
ジェラルド様は気まずそうに頬をかいて「ここからどう巻き返せばいいんだ?」と呟いている。
僕と同じようにジェラルド様も緊張していることがわかって、自然と肩の力が抜けた。
「ジェラルド様」
膝の上に置かれた手の上に、そっと自分の手を重ねる。
「僕、すごく緊張していて今日は何も手につかなかったんです。先ほどまで部屋の中をひたすら歩き回っていました」
「部屋を?」
「はい。でもそれ以上に嬉しかったんです。大好きな人と結ばれるなんて夢みたいだって。僕は今、すごく幸せな気分です」
ジェラルド様が一瞬泣きそうな顔になって、それから僕を抱きしめた。
「私は幸せ者だ。本当に……」
「ジェラルド様?」
「ノア、愛してる」
唇が重なり、ジェラルド様の舌が口の中に入ってきた。僕の舌を絡め取るように動き回る。
「ふっ……ん」
頭がぼうっとしてきたところで唇が離された。
「君が欲しい」
「はい。あのっ、よろしくお願いします」
真っ直ぐな言葉に恥ずかしさを覚えたが、僕も素直に頷いた。
服に手が掛かり、あっという間に服を脱がされる。気がついたら優しくベッドに押し倒されていた。
「ノア……」
ジェラルド様の手が僕の頬に触れる。唇が重なり、また舌が絡み合った。僕は必死に応えるが、キスだけで頭が蕩けそうだ。
粘膜が絡み合うぬるぬるとした感触が気持ちいい。ああ、そうだ。鼻で息をするんだった。
「んっ……ふっ」
「好きだ」
耳元で囁かれた言葉に身体が震える。そのまま耳を舐められ、首筋を舌でなぞられた。
「んぅ、あっ」
くすぐったいような、ぞくぞくした感覚に思わず声が出る。
首筋をなぞっていた舌はやがて鎖骨の下に辿り着き、強く吸われた。
「んっ!」
「痛かったか?」
「いえ、ちょっと驚いただけです」
「すまない、どうしても痕跡を残したかった」
ジェラルド様は満足そうに微笑む。きっと鎖骨辺りには赤い痕がついているのだろう。
「ずるい。僕もやりたいです」
「後でな」
ジェラルド様の手は僕の胸に触れ、優しく揉み始めた。骨張った手の繊細な動きに思わず身を捩ってしまう。
「くすぐったいのか?」
「なんか、むずむずします」
「そうか」
やめてくれるのかと思ったら、ジェラルド様は再び胸に触れた。今度は円を描くように乳輪を刺激される。
どことなく、むずむずした感覚が胸の中央に集まっている気がする。
胸への愛撫はしばらく続き、汗ばんだ肌にジェラルド様の熱い手が吸い付く。
「んっ、もうっ……だめです」
「どうして?」
「なんか変な感じするから……っあ!」
胸の尖りを指の腹で摘まれた瞬間、全身に快感が走った。
「感じるようになったな」
「っ……や、ちがっ……」
「違わないだろう? ほら」
「ああっ!」
両方の乳首を同時に摘まれて、あられもない声を上げてしまった。
ジェラルド様の言う通り、そこはもう触れられると感じる器官となっていた。
「可愛い。もっと聞かせてほしい」
そう言うとジェラルド様は僕の胸に顔を近づけた。そして舌先でつつくように乳首を刺激される。
「あっ、あっ……これ、やだっ」
自分の身体が作り変えられていくようで、思わず拒絶の言葉が出てしまう。
ジェラルド様は一度胸から口を離し、優しい手付きで頭を撫でてくれた。
「大丈夫。君はただ身を任せてくれればいい」
「……はい」
ジェラルド様の目を見て頷くと、彼は安心したように笑って再び僕の胸へと吸いついた。
「んっ……ふ、ぁっ」
ねっとりと、舌の裏側まで使って舐め上げられ、声が抑えられなくなった。
同時にもう片方の突起も指で摘まれ、転がされるように弄られた。
初めての感覚に喘いでいると、ジェラルド様が空いた手で僕の陰茎を擦った。
「ああぁっ!」
直接的な刺激に声が大きくなる。僕の陰茎はすでに先走りで濡れていて、上下に擦られるとかすかに水音が響いた。
「あっ、んっ……ゃ、んんっ」
だめと言いかけた口を無理やり閉じる。でもすぐにジェラルド様の手が速くなって、意味のない言葉が口から漏れてしまう。
「ふっ、ぁ……あぁっ」
「イきそうか?」
問われてこくこくと頷いた。ジェラルド様は愛おしげに微笑んだ後、さらに手の動きを速めた。
「ひ、ぁっ……イくっ! イッちゃ、ぁあっ!」
身体が震え、強烈な快楽の波に飲み込まれる。
「はあっ、はぁ……っ」
「気持ちよかったか?」
「……はい」
素直に頷くとジェラルド様は嬉しそうに笑った。そして、僕の頭を優しく撫でて額にキスをしてくれた。
絶頂の余韻が抜けきらないまま、ジェラルド様に四つん這いになるよう言われた。布の擦れる音が聞こえて、ジェラルド様が服を脱いでいることがわかった。
振り返ることができないままドキドキしながら待っていると「触るぞ」と声がかかり、ジェラルド様の指が後孔の縁にあてがわれた。
「ひゃっ」
「冷たかったか?」
「大丈夫です。少しびっくりしちゃって」
「痛くしないから、力を抜いて」
いつもより低い、官能的な声に心臓がどきりと跳ねる。
ジェラルド様はマッサージするように穴の周りをなぞった。同時に会陰も絶妙な力で押され、身体の力が抜けていくのを感じる。
「んっ、あ……んんっ」
「指、入れるから」
「は、い」
深呼吸をして受け入れる態勢を整える。息を吐いたタイミングでジェラルド様の指がゆっくりと挿入された。
「痛くないか?」
「へい、きです」
痛みはないものの、圧迫感がすごい。ごつごつとした指が一本入るだけで、中がいっぱいになった。
「んっ、ぐっ……ぁ」
「ゆっくりでいい、息を吐いて」
「はー、はー」
「上手だ」
止まっていた指が再び動き出した。抜き差しのたびに香油が注ぎ足され、ぐちょぐちょと水音が響く。
「あっ、ン、ぅあ」
指の動きに合わせて声が漏れる。その間もジェラルド様は僕に気遣うように声をかけてくれた。
しばらく単調な抜き差しが続き、気が付けば指が二本入るようになった。抜く時の気持ちよさがなんとなく掴めるようになって、自然と声が出てしまう。
「ここか」
「えっ、あっ! なに、これっ!」
ジェラルド様の指が内壁を押し込む。すると、先ほどまでと比べものにならないくらいの快感が全身を突き抜けた。
「よかった。気持ちよさそうだ」
「あぁああ……あぅぅ」
たしかに気持ちいいけど、絶頂に至るには少し遠くて、気がついたら腰が揺れていた。
僕の様子に気づいたのか、ジェラルド様が中から指を引き抜く。
「あっ」
「ノア、そろそろ……」
ジェラルド様の指がそっと腰をなぞる。
「んっ、待ってください」
「どうした?」
「顔を見ながらしたいです。だめですか?」
「だめではないが、怖がらせてしまうかも」
歯切れの悪い返答に戸惑い、身体を反転させてみる。
まず目に入るのは思わず見惚れてしまうくらい鍛えられた肉体だ。それから目線は下にずれていき、完全に勃ち上がったものが視界に入った。
「わ……」
家族のもの以外見たことはないけど、ジェラルド様のものは明らかに大きいとわかる。唖然としていると、頬に口付けられた。
「痛くしない。約束する」
「びっくりしたけど、ジェラルド様のだから怖くはないです」
「ありがとう」
ジェラルド様はそう言って、仰向けになった僕に覆い被さった。
ゆっくりと後孔に腰が沈んでいく。指の時よりも圧迫感があって、浅く息を吐いた。
「ふ、ぅ……っ」
「痛いか?」
首を横に振って必死で否定する。実際、ジェラルド様が慣らしてくれたおかげで痛みよりも異物感の方が強い。
ジェラルド様は僕の様子を窺いながら腰を進めてくれた。
「あっ! ゃ、あ……んッ」
奥へと進んでいくと、先端が前立腺を掠めた。身体はここが気持ちいいと覚えていて、奥へ誘い込むように内壁が収縮する。
「ノア」
ふとジェラルド様が僕の名前を呼んだ。あれ、こんなに顔近かったっけ。
ジェラルド様は額から汗を流し、興奮からか頬が紅潮していた。
「ジェラルド、様……気持ちいい、ですか?」
期待を込めた問いかけに、ジェラルド様は目を細めてさらに顔を近づけた。
「ああ、気持ちいいよ」
「よかったぁ」
力の抜けた笑顔を見せると、ジェラルド様が唇を重ねてきた。
「んんッ……ん、ン」
深く舌が絡まりあって、身体の熱が更に上がる。もうお互いの唾液でぐちゃぐちゃだ。唇同士が離れると銀色の糸が引いて、ぷつりと切れた。
「は……っ、ぁ……ジェラルドさま……」
「……ノア」
ジェラルド様は僕の名前を呼ぶと、再び唇を塞いだ。そしてゆっくりと腰を動かし始めた。
「んっ、んぅ……んん~~っ」
奥まで埋め込まれた陰茎がギリギリのところまで抜け、また押し込まれる。その度に大きく張った先端が前立腺を抉り、塞がった口から喘ぎ声が漏れる。
結合部からはグチャグチャと水音が響き、興奮を煽られた。
苦しくなってきたタイミングで唇が離れ、荒い息が溢れる。ジェラルド様は呼吸が整うまで腰の動きを止めてくれた。
しかしそれによって抽挿に悦んでいた中が疼き、求めるように内襞が蠢いた。
「少しだけ、激しくしてもいいか?」
「はい。たくさんしてください」
ジェラルド様の絶頂が近いことに胸が高鳴り、彼の首に腕を回して抱きついた。ジェラルド様の匂いを強く感じてドキドキする。
腰を掴む手に力が込められ、硬い亀頭が膨らんだしこりを捏ね回す。蕩けた声を出していると、勢いよく腰を打ちつけられた。
「んっ、ふ……ぁ、あッ! ああっ!」
「好きだ」
耳元で囁かれる愛の言葉に反応して、ジェラルド様のものを締めつける。
「僕も、すき。大好き」
ジェラルド様は嬉しそうに笑うと、僕の頬にキスをした。
そして腰の動きをさらに速め、右手で僕の陰茎を扱き始めた。
「あ、あ、ああッ! だめっ、も……イっちゃう……!」
「ああ、一緒にイこう」
ジェラルド様は僕の陰茎を扱く手を速めると、先端に爪を立てた。その刺激でもう何も考えられなくなる。
「ああああッ!」
「くっ……」
絶頂に達した瞬間、中がきゅっと締まり、ジェラルド様のものがどくんと脈打ったのを感じた。そして熱い飛沫がお腹の中に注がれるのを感じて、僕は夢心地に微笑んだ。
朝起きて目を開けると、ジェラルド様が僕の髪を愛おしげに撫でていた。
「おはよう、ノア」
「おはようございます。いつから起きていたのですか?」
「つい先ほどだ。君があまりにも気持ちよさそうに寝ているから、起こすのが忍びなくてな」
ジェラルド様はふっと微笑むと、その端整な顔を近づけて、唇に軽くキスを落とした。
昨夜の情事を思い起こすようなその行動に顔が熱くなり、思わず身体を起こす。
「どうした?」
ジェラルド様も起こして、僕の方に身体を向ける。
どうしよう、何か言ったほうがいいよね。
「あのっ! これからもよろしくお願いします」
ジェラルド様はきょとんとした顔をして、それから僕と同じように頭を下げた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
いつもと違う改まった雰囲気になぜか笑いが込み上げてきて、ジェラルド様もつられて笑った。
ひとしきり笑った後、どちらからともなく抱きしめ合う。その温もりが愛おしくて、僕はジェラルド様の背中に回す手に力を込めた。
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髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

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