20 / 52
第十九話 しない理由
しおりを挟む
先日の嵐が温もりを連れてやって来た。未だ雲はどんよりと重いが、日増しに春の訪れを感じる。
少し前の僕なら春が待ち遠しくて仕方なかっただろう。しかし、気持ちは晴れないままだ。
春になったら大規模な魔物討伐が行われる。当然、フロンドル家当主であるジェラルド様は前線に立つことになる。そのことを思うと気が重かった。
そしてもう一つ、僕の頭を悩ませることがある。
「それで、アルチュールなら解決策がわかると思って相談してみたんだ」
「存じません。ご自身でなんとかなさってください」
「アルチュールさん。ノア様のご相談から逃げたら、またレジスさんに怒られますよ」
新しくなった自室で僕はアルチュールに相談を持ちかけていた。彼の横ではジョゼフがお茶の用意をしている。
頭を抱えていたアルチュールが、ジョゼフに言われて僕の方に顔を向けた。
「大体ですね、乳兄弟に相談する内容じゃないでしょう。ノア様だってお兄様の奥方から恋愛相談をされたらどう思いますか?」
「え、頼りにされたらすごく嬉しいけど。昔、義理の姉にお願いされてデートに付き添ったことあるよ。長兄も嬉しそうだったし」
僕の話を聞いた途端、アルチュールが真顔になった。
「なるほど。オラーヌ家の次期当主様は相当なブラコ……失礼、愛情深い方なのですね」
「普通だと思うけどなぁ。ジョゼフはたしか五人兄弟の長男だったよね? どう思う?」
ジョゼフに視線を向けると、彼は落ち着かない様子で答えてくれた。
「あー、えーっと。僕は平民なので、兄弟の接し方はお貴族様と少し違うかもしれません」
「ずるいぞジョゼフ。返答から逃げるな」
ジョゼフはアルチュールを無視して、全員分のお茶のおかわりを淹れている。
「それより今は僕の相談に答えて」
「申し訳ございません。もう一度内容をおっしゃっていただけますでしょうか」
アルチュールが覚悟を決めたような顔で姿勢を正す。
「ジェラルド様が告白以来、キスしてくれないんだよ。僕のことそういう対象として見れないのかな」
「ないない、それはない。絶対にありえません」
「なんで即答できるの?」
「それは、旦那様から散々惚気を聞かされるので」
「えっ! 本当? 嬉しいな……ジェラルド様は何て言ってた?」
「私の口からは申し上げられません。直接ご本人に聞いてみてください」
気になるけど、アルチュールは話してくれそうにない。
「それならなんでキスしてくれないのかな」
「私からは何も申し上げられませんが、一思いに押し倒してみてはいかがでしょうか」
「なんか投げやりになってない?」
「いえ、そんなことは。誠に申し訳ございません」
「なんで謝るの?」
「そういった相談事には向いていないと痛感いたしまして」
アルチュールがあからさまに目を逸らした。ますます理由がわからなくなった僕は、とりあえずジョゼフが淹れてくれた紅茶を楽しむことにした。
しばらくして、アルチュールは仕事があるからと退室していった。
少しでも情報が欲しい僕は、ジョゼフを連れて家政婦長に話を聞きに行くことにした。
結果、レジスは意外にも惜しみなく愛情表現をするタイプだったので全く参考にならなかった。
お風呂上がりのふやけた手でドアノブに触れる。三日前に取り付けられたばかりの扉は主寝室と僕の部屋を繋ぐものだ。
主人がいない部屋は最低限の灯りが点っていた。
深みのある茶色で揃えた質のいい調度品が並んでいて心が安らぐ。
この前僕がジェラルド様に贈った、革靴を履いたコカトリスの置物が目に留まり、つい口元が緩んだ。尻尾の蛇がつぶらな瞳でかわいい。
主人の性格を表したような飾り気のないベッドに腰掛ける。シーツは寝転んで頬擦りしたくなるほど手触りがいい。
ぼんやりと天井を眺めていたら、ふとジェラルド様の匂いを感じて顔が熱くなった。
こんな何気ない瞬間に彼が好きなのだと実感する。
早く会いたいなと思っていたら廊下に繋がる扉が開いた。
「驚いた、君か」
どうやら僕の願いが届いたようだ。
「ごめんなさい。勝手にベッドに座ってしまって」
「それは構わないが……」
「そろそろ見納めだと思うとつい気になってしまって。二日後に新しいものが届くと家政婦長から聞いたので」
僕の言葉にジェラルド様はくすりと笑って横に座った。
「当主になる前から使っていたからな」
懐かしそうな顔をしたジェラルド様がシーツをなぞる。二人で座るとスペースにほとんどゆとりがない。
「思い入れがあるんですね。そういえば、ご当主になる前は何をされていたのですか?」
「私兵団に所属していた。まさか率いる立場になるとは思ってもいなかった」
「なんだか不思議ですね。それなら当時からのお知り合いがいらっしゃるのでは?」
ジェラルド様が窓の外をみながら遠くを見て目を細める。
「今の団長が当時の上官だから、たまにすごく気まずい」
「そうなんですか?」
「ああ。指揮は問題ないが、雑談が難しい。あの人は昔から私のことを気にかけてくれたから余計に」
「それは複雑ですね」
ジェラルド様は一度頷いてから無言になった。
何回か話したことあるけど、団長は俺についてこいってタイプだからそこまで気にしていない可能性がある。今度さりげなく聞いてみよう。
ジェラルド様には悪いけど、僕に弱音を吐いてくれるのはちょっと嬉しい。
「ところで、君はこういうことをしたことがあるのか?」
「こういう、というのは」
「誰かのベッドに、その、上がるような」
「するわけないじゃないですか! ジェラルド様だけですよ!」
びっくりしてつい食い気味に否定してしまった。
「そうか。私だけか」
ジェラルド様は安心したように笑ってから、照れた感じで髪を弄った。その様子に背中を押されて、悩みを打ち明けようと決めた。姿勢を正して深呼吸する。
「僕も聞きたいことがあります」
「どうした?」
ジェラルド様も膝の上に手を置いて身を固くしている。僕の緊張が伝わってしまったのかもしれない。
なるべく責めた口調にならないように、ゆっくりと話す。
「どうして、あの日以来キスしてくれないんですか?」
ジェラルド様が唾を飲み、かすかに喉仏が動いた。
「それは……」
何かを言いかけて再び黙り込む。
「僕に魅力を感じないとか、そういうことなのかなと思って」
「それは違う」
僕の言葉をジェラルド様が遮る。
「なら、どうしてですか? 僕に悪いところがあれば直しますから、教えてください」
頭の中が疑問でいっぱいになって、思わずジェラルド様の服の裾をつかんでしまった。
ジェラルド様は短く唸った後、こわばった表情で口を開いた。
「君を傷つけてしまいそうで」
「傷つく、ですか?」
どういうことかわからず、ジェラルド様をじっと見つめる。
「私はほら、人より力が強いだろう?」
「はい」
怪力スキルの影響で、普段から力が強いことは知っている。
「君の前だと緊張して頭が真っ白になるから調整が難しいというか」
「調整?」
「抱きしめたり、引き寄せる時に、うっかり骨を砕きそうで怖いんだ」
ジェラルド様は叱られた犬みたいにうなだれて、しょんぼりした声で言った。
まさかの理由に呆気にとられ、言葉が止まってしまった。
もしかして僕、ものすごく大切にされているのではないだろうか。
目の前にいる彼が愛おしくて、こみ上げてくる笑いをどうしても抑えられなくなった。
「なーんだ。そういう理由だったんですね」
「笑いすぎだ」
ジェラルド様がムッとした顔で僕を見る。僕は軽く謝りながら立ち上がった。
「ノア?」
突然の行動に驚いたジェラルド様が僕の名前を呼ぶ。
「ジェラルド様が怖くて動けないなら、こうしたら解決ですね」
ジェラルド様の肩に手を置いて、彼の唇に自分の唇を合わせる。
「僕も協力しますから、二人でゆっくり慣れていきましょう」
恥ずかしくて顔が熱くなる。偉そうなことを言ったけど、僕だって経験がないからこれ以上はどうしたらいいかわからない。
不測の事態だったのか、ジェラルド様は珍しくぽかんと口を開けて固まっている。
その様子を静かに見守っていたら、ジェラルド様も立ち上がって不意に抱きしめられた。
「ジェラ……んっ」
優しくベッドに押し倒されて、唇を奪われる。さっき僕がしたものよりも深くて激しいキスだ。
ジェラルド様の舌が口内に入ってきて、思わず引っ込める。でも、すぐに捕まって絡められた。
「んっ……は、ぁ」
舌と舌が合わさる初めての感触に変な声が漏れる。だけど不快感はなくて、徐々にこれが気持ちいいことだと自覚していく。
「ふ……あっ」
上顎を擦られるとぞくぞくする。頭の中ではもっと欲しいと求めているのに、息苦しくなってきてジェラルド様の背中を叩いた。
口が離れてからゆっくりと息を整える。
「ごめんなさい。息が続かなくて」
「気にしないでいい。次からは鼻で息をするんだ」
夫婦だから当然だけど、次もあるんだと思うと鼓動が速くなる。
ジェラルド様は僕に覆い被さったままだ。慈しむような目を見つめていたら、ふとあることに気づいた。
「痛くなかった」
「ん?」
「抱きしめられても全然痛くなかったです! 一歩前進ですね!」
「あ、ああ。そうだな」
嬉しくて笑いかけたのに、ジェラルド様はなぜか視線を逸らす。
こっちを見てほしくて、僕はジェラルド様に向かって腕を伸ばした。
「むしろ物足りなかったので、もっとぎゅーってしてください」
僕の言葉にジェラルド様はみるみる顔が赤くなって、やがて手で顔を覆ってしまった。
「もう勘弁してくれ……」
「へ?」
その後、耳まで真っ赤になったジェラルド様はしばらく身悶えていた。僕はそんなジェラルド様を見守りながら、寝る時間になるまで彼の腕をさすり続けた。
少し前の僕なら春が待ち遠しくて仕方なかっただろう。しかし、気持ちは晴れないままだ。
春になったら大規模な魔物討伐が行われる。当然、フロンドル家当主であるジェラルド様は前線に立つことになる。そのことを思うと気が重かった。
そしてもう一つ、僕の頭を悩ませることがある。
「それで、アルチュールなら解決策がわかると思って相談してみたんだ」
「存じません。ご自身でなんとかなさってください」
「アルチュールさん。ノア様のご相談から逃げたら、またレジスさんに怒られますよ」
新しくなった自室で僕はアルチュールに相談を持ちかけていた。彼の横ではジョゼフがお茶の用意をしている。
頭を抱えていたアルチュールが、ジョゼフに言われて僕の方に顔を向けた。
「大体ですね、乳兄弟に相談する内容じゃないでしょう。ノア様だってお兄様の奥方から恋愛相談をされたらどう思いますか?」
「え、頼りにされたらすごく嬉しいけど。昔、義理の姉にお願いされてデートに付き添ったことあるよ。長兄も嬉しそうだったし」
僕の話を聞いた途端、アルチュールが真顔になった。
「なるほど。オラーヌ家の次期当主様は相当なブラコ……失礼、愛情深い方なのですね」
「普通だと思うけどなぁ。ジョゼフはたしか五人兄弟の長男だったよね? どう思う?」
ジョゼフに視線を向けると、彼は落ち着かない様子で答えてくれた。
「あー、えーっと。僕は平民なので、兄弟の接し方はお貴族様と少し違うかもしれません」
「ずるいぞジョゼフ。返答から逃げるな」
ジョゼフはアルチュールを無視して、全員分のお茶のおかわりを淹れている。
「それより今は僕の相談に答えて」
「申し訳ございません。もう一度内容をおっしゃっていただけますでしょうか」
アルチュールが覚悟を決めたような顔で姿勢を正す。
「ジェラルド様が告白以来、キスしてくれないんだよ。僕のことそういう対象として見れないのかな」
「ないない、それはない。絶対にありえません」
「なんで即答できるの?」
「それは、旦那様から散々惚気を聞かされるので」
「えっ! 本当? 嬉しいな……ジェラルド様は何て言ってた?」
「私の口からは申し上げられません。直接ご本人に聞いてみてください」
気になるけど、アルチュールは話してくれそうにない。
「それならなんでキスしてくれないのかな」
「私からは何も申し上げられませんが、一思いに押し倒してみてはいかがでしょうか」
「なんか投げやりになってない?」
「いえ、そんなことは。誠に申し訳ございません」
「なんで謝るの?」
「そういった相談事には向いていないと痛感いたしまして」
アルチュールがあからさまに目を逸らした。ますます理由がわからなくなった僕は、とりあえずジョゼフが淹れてくれた紅茶を楽しむことにした。
しばらくして、アルチュールは仕事があるからと退室していった。
少しでも情報が欲しい僕は、ジョゼフを連れて家政婦長に話を聞きに行くことにした。
結果、レジスは意外にも惜しみなく愛情表現をするタイプだったので全く参考にならなかった。
お風呂上がりのふやけた手でドアノブに触れる。三日前に取り付けられたばかりの扉は主寝室と僕の部屋を繋ぐものだ。
主人がいない部屋は最低限の灯りが点っていた。
深みのある茶色で揃えた質のいい調度品が並んでいて心が安らぐ。
この前僕がジェラルド様に贈った、革靴を履いたコカトリスの置物が目に留まり、つい口元が緩んだ。尻尾の蛇がつぶらな瞳でかわいい。
主人の性格を表したような飾り気のないベッドに腰掛ける。シーツは寝転んで頬擦りしたくなるほど手触りがいい。
ぼんやりと天井を眺めていたら、ふとジェラルド様の匂いを感じて顔が熱くなった。
こんな何気ない瞬間に彼が好きなのだと実感する。
早く会いたいなと思っていたら廊下に繋がる扉が開いた。
「驚いた、君か」
どうやら僕の願いが届いたようだ。
「ごめんなさい。勝手にベッドに座ってしまって」
「それは構わないが……」
「そろそろ見納めだと思うとつい気になってしまって。二日後に新しいものが届くと家政婦長から聞いたので」
僕の言葉にジェラルド様はくすりと笑って横に座った。
「当主になる前から使っていたからな」
懐かしそうな顔をしたジェラルド様がシーツをなぞる。二人で座るとスペースにほとんどゆとりがない。
「思い入れがあるんですね。そういえば、ご当主になる前は何をされていたのですか?」
「私兵団に所属していた。まさか率いる立場になるとは思ってもいなかった」
「なんだか不思議ですね。それなら当時からのお知り合いがいらっしゃるのでは?」
ジェラルド様が窓の外をみながら遠くを見て目を細める。
「今の団長が当時の上官だから、たまにすごく気まずい」
「そうなんですか?」
「ああ。指揮は問題ないが、雑談が難しい。あの人は昔から私のことを気にかけてくれたから余計に」
「それは複雑ですね」
ジェラルド様は一度頷いてから無言になった。
何回か話したことあるけど、団長は俺についてこいってタイプだからそこまで気にしていない可能性がある。今度さりげなく聞いてみよう。
ジェラルド様には悪いけど、僕に弱音を吐いてくれるのはちょっと嬉しい。
「ところで、君はこういうことをしたことがあるのか?」
「こういう、というのは」
「誰かのベッドに、その、上がるような」
「するわけないじゃないですか! ジェラルド様だけですよ!」
びっくりしてつい食い気味に否定してしまった。
「そうか。私だけか」
ジェラルド様は安心したように笑ってから、照れた感じで髪を弄った。その様子に背中を押されて、悩みを打ち明けようと決めた。姿勢を正して深呼吸する。
「僕も聞きたいことがあります」
「どうした?」
ジェラルド様も膝の上に手を置いて身を固くしている。僕の緊張が伝わってしまったのかもしれない。
なるべく責めた口調にならないように、ゆっくりと話す。
「どうして、あの日以来キスしてくれないんですか?」
ジェラルド様が唾を飲み、かすかに喉仏が動いた。
「それは……」
何かを言いかけて再び黙り込む。
「僕に魅力を感じないとか、そういうことなのかなと思って」
「それは違う」
僕の言葉をジェラルド様が遮る。
「なら、どうしてですか? 僕に悪いところがあれば直しますから、教えてください」
頭の中が疑問でいっぱいになって、思わずジェラルド様の服の裾をつかんでしまった。
ジェラルド様は短く唸った後、こわばった表情で口を開いた。
「君を傷つけてしまいそうで」
「傷つく、ですか?」
どういうことかわからず、ジェラルド様をじっと見つめる。
「私はほら、人より力が強いだろう?」
「はい」
怪力スキルの影響で、普段から力が強いことは知っている。
「君の前だと緊張して頭が真っ白になるから調整が難しいというか」
「調整?」
「抱きしめたり、引き寄せる時に、うっかり骨を砕きそうで怖いんだ」
ジェラルド様は叱られた犬みたいにうなだれて、しょんぼりした声で言った。
まさかの理由に呆気にとられ、言葉が止まってしまった。
もしかして僕、ものすごく大切にされているのではないだろうか。
目の前にいる彼が愛おしくて、こみ上げてくる笑いをどうしても抑えられなくなった。
「なーんだ。そういう理由だったんですね」
「笑いすぎだ」
ジェラルド様がムッとした顔で僕を見る。僕は軽く謝りながら立ち上がった。
「ノア?」
突然の行動に驚いたジェラルド様が僕の名前を呼ぶ。
「ジェラルド様が怖くて動けないなら、こうしたら解決ですね」
ジェラルド様の肩に手を置いて、彼の唇に自分の唇を合わせる。
「僕も協力しますから、二人でゆっくり慣れていきましょう」
恥ずかしくて顔が熱くなる。偉そうなことを言ったけど、僕だって経験がないからこれ以上はどうしたらいいかわからない。
不測の事態だったのか、ジェラルド様は珍しくぽかんと口を開けて固まっている。
その様子を静かに見守っていたら、ジェラルド様も立ち上がって不意に抱きしめられた。
「ジェラ……んっ」
優しくベッドに押し倒されて、唇を奪われる。さっき僕がしたものよりも深くて激しいキスだ。
ジェラルド様の舌が口内に入ってきて、思わず引っ込める。でも、すぐに捕まって絡められた。
「んっ……は、ぁ」
舌と舌が合わさる初めての感触に変な声が漏れる。だけど不快感はなくて、徐々にこれが気持ちいいことだと自覚していく。
「ふ……あっ」
上顎を擦られるとぞくぞくする。頭の中ではもっと欲しいと求めているのに、息苦しくなってきてジェラルド様の背中を叩いた。
口が離れてからゆっくりと息を整える。
「ごめんなさい。息が続かなくて」
「気にしないでいい。次からは鼻で息をするんだ」
夫婦だから当然だけど、次もあるんだと思うと鼓動が速くなる。
ジェラルド様は僕に覆い被さったままだ。慈しむような目を見つめていたら、ふとあることに気づいた。
「痛くなかった」
「ん?」
「抱きしめられても全然痛くなかったです! 一歩前進ですね!」
「あ、ああ。そうだな」
嬉しくて笑いかけたのに、ジェラルド様はなぜか視線を逸らす。
こっちを見てほしくて、僕はジェラルド様に向かって腕を伸ばした。
「むしろ物足りなかったので、もっとぎゅーってしてください」
僕の言葉にジェラルド様はみるみる顔が赤くなって、やがて手で顔を覆ってしまった。
「もう勘弁してくれ……」
「へ?」
その後、耳まで真っ赤になったジェラルド様はしばらく身悶えていた。僕はそんなジェラルド様を見守りながら、寝る時間になるまで彼の腕をさすり続けた。
602
お気に入りに追加
936
あなたにおすすめの小説
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
[完結]嫁に出される俺、政略結婚ですがなんかイイ感じに収まりそうです。
BBやっこ
BL
実家は商家。
3男坊の実家の手伝いもほどほど、のんべんだらりと暮らしていた。
趣味の料理、読書と交友関係も少ない。独り身を満喫していた。
そのうち、結婚するかもしれないが大した理由もないんだろうなあ。
そんなおれに両親が持ってきた結婚話。というか、政略結婚だろ?!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる