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フォリオのファストフード
◎8話
しおりを挟む夕方頃、ようやくおれはケイジュを自宅に迎え入れることができた。
夕飯の買い物したり、貴族街の検問所で許可書を受け取ったりしていたら案外時間を食ってしまったけど、なんとか明るいうちに帰宅できてよかった。
ケイジュはおれの家に入ると感心したように部屋を見回して、おれの倉庫みたいな家とは大違いだな、と少し照れ臭そうにしている。
「ここにあるものは何でも好きに使ってくれ。こっちは台所で、水も出るようになってる。それでこっちが風呂と便所、反対側の扉は寝室だ。で、こっちの客間は今使ってないから、ケイジュ専用にしようと思ってる。半分倉庫みたいになってるけど、一応軽く掃除はしてあるからすぐ使えるぜ」
「ありがとう。悪いが借りるぞ」
おれが家の中を案内すると、ケイジュも早速自分の荷物を広げて、すぐに使わないものは部屋の中に運び込んだり、今日手に入れた原動機付槍斧を布でくるみ直して壁に立て掛けたりしていた。
おれも洗濯屋から返ってきたシーツや浴布をそれぞれの場所に収納して、外套も脱ぐ。
すっかり清潔な状態になった寝室を眺めながら、深呼吸する。
ケイジュのベッドも用意しようと思えばできたけど、あえて考えないようにしてきた。
やっぱり今夜、だよなあ。
用事が終わるまでは思い出さないでおこう、と今日一日忘れたふりをしていたけどこうして夜が近付いてくるとどうしても緊張してきてしまう。
ケイジュもおれのそんな様子に気づいているのか、昼に再会した時以来、色っぽいことを思い出させるようなことは言わなかった。
けど、自宅に帰ってきてからのケイジュの視線が鋭く感じられるのはおれの気のせいじゃないはず。
その圧に負けて今すぐ寝室になだれ込んだって良かったけど、食事くらいは済ませておくべきだ。
おれは腕まくりをして買ってきた野菜を台所に並べて料理に取り掛かった。
温かいものが食べたい、というケイジュの要望に応えて今夜は煮込み料理を作った。
厚切りベーコンをトマトを潰したスープで煮込み、そこにジャガイモやら人参やらを投入しただけのシンプルなものだったけど、
ケイジュは美味しいと言っておかわりもしてくれた。
おれは味見をするうちに腹も膨れていたので、チーズをつまみに葡萄酒を少しずつ飲む。
緊張しているせいか、酒を飲んでも全く味がわからない。
おれはアルコールでリラックスすることを諦めて、杯を片付けた。
「もういいのか?」
ケイジュが穏やかな表情でおれに問いかける。
今更ケイジュの前でかっこつけようとしても無駄だな。
おれは照れくさくなりながらも正直に打ち明ける。
「その、なんていうか、落ち着かなくてさ。味もわかんないから、今日はこれでいいや。夜中に腹が減ったら、またその時に食うよ」
おれが皿を片付けるために立ち上がると、ケイジュも続いて席を立った。
流し台に皿を重ねていると、後ろからケイジュに抱きすくめられる。
「もう、我慢しなくて良いんだな……?」
耳元で囁かれる声は、押し殺したように低い。
おれの背中がぞくりと震えて、喉が勝手にごくりと鳴る。
「……ああ、おれも、これ以上待てない」
必死に絞り出した声は情けなく震えていて、耳の先がカッと熱を持ったような気がした。
おれの胸にまわされたケイジュの手が、するり、と腹から腰を撫でていく。
それだけでじんわりと気持ちよくて、おれは小さく息を吐いた。
ケイジュがおれの身体をくるんと回して、噛み付くように口付けてくる。
腰を撫でていた手はおれの背中を這い上り、指先が痛いくらい肉に食い込む。
その余裕の無さはキスも同じで、ケイジュは性急におれの唇を割り開くと舌をねじ込んできた。
みるみる理性が溶かされて、おれも夢中でケイジュの唇を貪る。
向かい合って抱き合っていたので、お互いの股間があっという間に熱を持って膨らんでいくのが感じられた。
ケイジュも今日一日ずっと待っていたんだ。
おれと同じように、気兼ねなく性欲に溺れる時が来るのを、ずっと待っていたんだ。
おれの頭の中は早くも思考を放棄していて、気がついたらおれの手もケイジュの背中を物欲しげに撫でていた。
まだ日が暮れて間もない台所で、こんな卑猥なキスをしていることにたまらなく興奮する。
おれがケイジュの服を引っ張って剥ぎ取ろうとすると、腕を引かれて寝室まで連れて行かれた。
おれが整えたベッドに突き飛ばされるように押し倒され、すぐさまケイジュも上にのしかかってくる。
おれを見下ろすケイジュの目は、知性を放棄する一歩手前のような凶暴さを湛えて爛々と輝いていた。
その視線が苛立たしげにおれの服を睨み、ケイジュの手がやや乱暴にクラバットを解いていく。
おれはその時間ももどかしくて自分でウエストコートのボタンを外し、脱いだ服はその辺に放り投げる。
ケイジュは最後に自分でシャツを脱ぎ捨てると、強く抱きしめてきた。
素肌を晒した胸が重なって、ケイジュの鼓動が伝わってくる。
その力強い振動が自分の鼓動と溶け合って一つになっていく。
その感覚が、泣きたいほど心地良い。
おれもケイジュを抱き返し、首元に顔を埋めてケイジュの匂いを吸い込む。
かすかな汗の匂いと植物の香りが混ざりあったケイジュの匂い。
それにうっとりして顔を擦り寄せていると、首筋にぬるりと触れる感触があって、その後肌を吸われるかすかな痛みが走った。
その後、ケイジュの満足げな小さな吐息が聞こえてくる。
「やっと、おれのものにできる」
おれもお返しにケイジュの左耳にきらめく灰色の石にキスを贈り、耳元で挑発の言葉を囁いた。
「とっくにおれはケイジュのものだけど、思い知らせて、くれるんだよな?」
ケイジュの喉の奥が恐ろしげな唸り声を漏らし、その後熱を持った手のひらがおれの腹に押し当てられた。
いつもより早口な詠唱の後、ひんやりしたものが腹の中に広がっていく。
奇妙な感覚はすぐに消え去り、太ももの内側を指先でくすぐられた。
「今日ばかりは、途中で止めてやれないからな……覚悟しておけ」
ケイジュが身体を離しておれを見下ろす。
白皙の美貌が欲にまみれた笑みを浮かべていた。
おれは今から食い尽くされる。
それを確信したおれは、自ら腕を絡めて身体を差し出した。
後ろの穴を触られるのは結構久しぶりだったのに、おれの体はまだ快楽を覚えていたらしい。
ケイジュの指をすんなりと飲み込んだアナルは、先程から痛みもなく順調に解されていた。
仰向けになって足をカエルのように開き、弄りやすいように腰の下にクッションを押し込まれて尻を持ち上げた格好になっているのでもちろん恥ずかしい。
けど、それよりも早く繋がりたい気持ちが強かった。
今までケイジュとしてきた行為、扱きあったり愛撫し合ったりももちろん気持ち良かったし満たされた気持ちにはなった。
でもやっぱり、おれはケイジュを出来るところまで受け入れてみたかったんだ。
雄としてのケイジュを。
一番本能に近いケイジュを。
おれのアナルはその願望を反映するように、くちくちと小さく水音を立てながらケイジュの指を素直に受け入れている。
腹の中に生成された潤滑剤や今までの経験、ケイジュの丁寧な動きのおかげもあって引き攣れるような感覚もない。
ケイジュの二本の指がぐいっと括約筋を押し広げても、ぞわぞわとした期待感ともどかしさがあるだけだ。
もう早くぶち込んで欲しい。
おれはケイジュの頬に手を伸ばして行為を急かそうとした。
けど、その手に優しい口付けをされてなだめられてしまう。
「もう、いいから、大丈夫、だから……!」
おれが懇願してもケイジュは目を細めて首を横に振るだけだ。
「……まだだ。セオドアに痛い思いをさせたくない」
ケイジュはおれに思い出させるように腰を押し付けてきた。
太ももに感じるその熱はケイジュの勃起したペニスだ。目で確かめなくてもわかる。
痛々しいくらい大きくなって、どく、どく、と脈動していた。指と太さを比べるまでもない。
けど、もう腹の奥が熱くて、切なくて仕方ないんだ。
おれの視界がゆらゆらと揺れ始める。
ケイジュはことさら丁寧におれの額に口付け、一度指をアナルから引き抜いた。
そしてすぐに指を増やして挿入し直す。
しっかりと潤滑剤をまとった指はすんなりと体内に入り込んで、肉壁を押し広げ始めた。
ケイジュは手を動かしながらおれに口付け、単なる拡張作業を快楽の伴う愛撫に変えていく。
興奮でぴんとたちあがった乳首にも唇を寄せ、舌先でころころと転がした。
それと同時にアナルに挿入した指を動かされ、とちゅ、とちゅ、と奥の肉壁を指先で叩かれると、腰がびくびくと痙攣する。
一切触られていないおれのペニスは勝手に勃起して、早く射精したいと我慢汁を垂れ流していた。
乳首も同時に責められると、アナルもきゅうっとケイジュの指を締め付けてしまう。
ちゅう、と乳首を吸い上げてその反応を確かめたケイジュは嬉しそうに鼻息を漏らした。
「け、いじゅ、それ、きもち、い、から、まって、いきそうに、なるから……ッ」
またじわりと体液が腹を伝っていくのを感じて、おれは慌ててケイジュの身体を押しのける。
精液を漏らしてしまったんじゃないかと思って焦ったけど、絶頂の感覚はない。
ただただ弱い快楽で身体をいたぶられて辛い。
おれはこれ以上触られたら本当にイってしまいそうで怖くなって、ケイジュの胸板に手を突っ張った。
ケイジュはおれの腹の上で苦しげにのたうっているペニスに気付くと、諦めてアナルの拡張に集中してくれた。
けど、すっかり性器に成り果ててしまったアナルは触られるだけで快感を産んでしまう。
特に腹の内側に指を折り曲げられて、前立腺と思しき場所を指の腹で擦られるとたまらなかった。
勝手に内ももに力が入って、背中が仰け反る。
「アッ、うう――――ッ」
体の内側から何かがこみ上げて、おれの頭を真っ白に染めていく。
これは、鮮烈な快感だ。
前にも一度感じたその波は、繰り返しおれの身体を襲ってくる。
でもこんなに簡単にイキそうになるなんて、おかしい。おれの体、どうしちまったんだろう。
「セオドア……深く呼吸しろ」
混乱するおれを、ケイジュの低い声が導いてくれた。
言われるがまま深く息を吸って、わけもわからず絶頂に駆け上ろうとしていた身体を落ち着ける。
目を開けてケイジュの方を見ると、ケイジュはいつの間にかアナルから指を引き抜いて、おれをじっと見下ろしていた。
槍の穂先のように鋭い視線が、おれを貫いている。
唇は薄く開いて、熱のこもった息を忙しなく吐いていた。
恐ろしいほどの色気を放つケイジュは、今、おれだけを見ている。
「いくぞ」
ケイジュはおれを見つめたまま短く言い、おれの足を開かせた。
おれは力んでしまいそうになる身体を必死に落ち着ける。
ついに尻の割れ目にケイジュの剛直が押し付けられ、アナルに照準を定める。
ケイジュの亀頭とおれのアナルが、何に隔たれることもなく触れ合った。
しっかりと潤滑剤を塗りこまれたアナルは、ようやく来てくれた雄の性器に歓喜してきゅんきゅんと蠢いて、キスより先を強請っている。
やっと、やっとだ。
おれはうっとりとケイジュの顔を見上げて頷いた。
ケイジュは苦しげに寄せていた眉を少し緩めて、おれに静かに口付ける。
唇が離れた直後、ず、とおれのアナルにケイジュのペニスが侵入し始めた。
わかっていたことだけど、やっぱりでかい。
しっかり解された括約筋は柔軟に伸びて、じわじわとケイジュが身体の中に入ってくる。
熱くて、硬い。おれは思わず息を止めていた。
「ッは、すごい、セオドアの中、あつ、い、」
ケイジュが声を漏らし、おれもやっと呼吸することを思い出した。
「っはぁ、ふ、けいじゅ……ッはいって、きて、」
おれが圧迫感に打ちのめされている間にも、ケイジュのペニスは侵攻を続け、ついに指では到底届かなかった腹の奥にまで到達してようやく止まった。
敏感な粘膜同士がぴったりと重なり合って、ずくん、ずくん、と脈動して擦れ合う。
多分全部は入ってないけど、それでも一番太い所は飲み込めたはずだ。
肉が引き伸ばされる鈍い痛みがあったけど、徐々に和らいでいく。
そうして痛みが引いていくと、ケイジュのペニスの熱や脈が鮮明に伝わってきて、おれは気が付いたら泣いていた。
「ケイジュ、ケイジュ……!」
「大丈夫か、セオドア、抜いたほうがいいか?」
ケイジュが腰を引こうとするので、おれは腕を掴んでそれを止めた。
「ちがう、ちがうんだ……うれしくて、」
ケイジュはペニスを挿入したまま身体をゆっくりと倒し、おれに覆い被さった。
目尻に溜まっていた涙をケイジュが吸い取って、そのまま唇にも何度もキスをしてくれる。
そうしていると、本当に身体が一つになってしまったかのような気持ちになった。
まぶたの裏で走馬灯のように今までのケイジュとの思い出が甦る。
顔を初めて見たときの冷たい表情、ドルトス鉄道で感じた掌の温かさ、熱を出したときに見せた涙、リル・クーロのあの夜のこと。
それはほんの1ヶ月で起きた出来事なのに、もう何十年も昔のことのようにも思えてくる。
おれはケイジュの背中に腕をまわして、きつく抱き締めた。
おれは、幸せだ。こうして一つになれて、ほんとうによかった。
まだ挿入しただけで動いてさえもいないのに、満ち足りた気分だ。
ケイジュもおれに合わせるように、額同士をくっつけてそのままじっとしている。
こうしているだけでも伝わることはたくさんある。
けど、おれはあえて口に出すことにした。
「ケイジュ、すきだ」
「ああ、おれもすきだ」
まるで小さい子どものような言葉のやり取りに、おれは少し笑った。
つられるようにケイジュも笑う。
そうしておれたちはしばらくお互いの体温を感じ合っていた。
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