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リル・クーロのホワイト&ホワイト

8話

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 そのまま宿の近くの飲み屋に入り、夕食を食べた。
明日に響かない程度に酒も呑む。
リル・クーロの地酒はとにかく度数が高くて量は飲めないが、なかなか美味かった。
夜の寒さを少しでも温かくやり過ごすために、強い酒が多いそうだ。
おれは部屋に戻ったときの事を考えてあまり集中できずに酒を飲み干して、店を出た。
ケイジュは味見程度にしか酒を飲まなかったので、顔色にも足取りにも変化はない。
ただ、穴を開けたばかりの左耳が若干赤くなっていた。
おれもまだ右の耳たぶがじんじんしている。
意識しなければ感じないほどの鈍い痛みなので不都合はないが、思い出すと照れてしまう。
というか、こんな風にあからさまにお揃いの耳飾りをして、他の人にはどんな風に見えるんだろうか。
魔人同士の婚姻の証、ってことは、おれたちは結婚しているように見えるのだろうか。
おれ個人としては気にならないけど、ケイジュは、いいんだろうか。

「なぁ、ケイジュ……この耳飾り、人に見られても構わないのか?」

ケイジュは不思議そうに首を傾げて、見られないと意味がないだろう、とあっけらかんと言った。

「そ、そうなのか?」

「ああ。セオドアに近付いてくる輩に見せつけるためにわざわざ揃いの耳飾りにしたんだ。とはいえ、おれは顔を隠していることも多いし、耳飾りに意味を持たせているのは魔人独自の風習だから、他の亜人にはあまり意味がないかもしれないな……」

ケイジュは顎に手を当てると、少し考える仕草をした。

「やはり指輪も買うべきだったか……」

「大丈夫だ!おれに言い寄るやつなんてそうそう居ないし、ちゃんと恋人が居るって言うから!」

おれは独占欲を隠そうともしないケイジュにどぎまぎしながら慌てて言い含める。
昨日から、ケイジュの愛は結構重いかもしれない、と思っていたが確定だ。
それが嬉しくて仕方ないので問題はないが、そうか、ケイジュも見せつけたかったのか。
ケイジュはちょっと怪訝な顔でおれを見ていたが、おれがニヤけた顔を隠せなかったのですぐに機嫌を直してくれた。

 部屋に戻って、外套を脱ぐといよいよ動悸が激しくなってきた。
昨日の夜と同じ状況だ。
明日の朝は早いので、昨日みたいに時間も気にせず睦みあえる訳じゃないけど、それでも期待してしまうのは止められない。
しかしケイジュは部屋に戻るなりフロントにお湯を頼んで、待っている間に服に浄化魔法をかけた。
部屋にお湯が届くと、それに布を浸しておれを呼ぶ。

「耳の消毒をするから少し来てくれ」

おれが大人しくケイジュに歩み寄ると、椅子に座らされた。
そして温かい布巾で右耳を拭かれる。
その後傷薬を塗られた。
耳をやわやわ触られておれの背中はぞわぞわと甘い震えに襲われていたが、ケイジュは手早く処置を終わらせる。

「今の所血も出ていないし膿も出ていないが、傷口が塞がるまではあまり無理に外したり動かしたりしないでくれ」

「ああ、ありがとう。ケイジュは?おれがしていいか?」

今度は交代して、ケイジュを椅子に座らせる。
穏やかな表情で無防備に頭を差し出すケイジュに愛おしさが募った。
入れ墨の入った左耳に、おれのもの、と主張する灰色の石が揺れている。
おれはそれを引っ張ったりしないよう注意しながら消毒した。
その後は持ってきてもらったお湯でついでに体を拭いておくことにした。
流石に目の前でやるのは恥ずかしかったので、洗面室で服を脱ぐ。
浄化魔法を使えばすぐに身体は綺麗になるのだが、やっぱり気持ち的にはこちらの方がスッキリする。
ふと鏡を見ると、朝は気付かなかったけど、鎖骨に近い所に鬱血した痕が残っていた。
おれは昨日あんなにやったのにむらむらしてきて頭を振る。
明日は早いし、ケイジュも昨日みたいなことはしないはずだ。
けど、ちょっとはするかも?
もしくは、勢い余って昨日以上のことも?
おれは腰をケイジュに掴まれる感触を思い出して赤面し、期待を隠せないまま寝巻きに着替えて部屋に戻った。

 ケイジュは特に変わった様子はなく、もう寝巻きに着替えて水を飲んでいた。
おれは一人でソワソワしていたことが恥ずかしくなって、先にベッドに腰掛ける。
まぁ、そりゃあな。
明日からまた野宿が続くから、今日のうちにしっかり寝ておかないとな。
おやすみのキスをしたら寝よう。
おれの隣にケイジュもやって来て、もぞもぞと布団の中に入る。
おれは魔力灯を消そうと壁際のランプに手を伸ばしたのだが、急に手を掴まれてベッドに押し付けられる。

「もう少し待て。顔を見たい」

ケイジュにのし掛かられて、おれはあからさまに期待して顔を見上げてしまった。
ケイジュは楽しげに目を細めて、おれにキスをする。
ふんわり重ねるだけの、柔らかいキス。
安心すると同時に、胸が締め付けられる。
手を伸ばしてケイジュの後頭部を撫でると、おれの頬も温かい指先で触られた。
その指が輪郭を辿り、首筋を伝って胸に下りていく。
おれが期待で心臓をバクバクさせているのも伝わっているだろうな。
おれが早くもぼんやりしながら天井を見上げていると、ケイジュがおれの顔を覗き込む。

「核に魔力を充填するには、どうしたらいい?」

おれはしばらくぽかんとして、それから思い出して慌てる。
そうだった。頼んでたんだった。

「わ、忘れてた……えっと、核に触れるか?」

「核は取り出さなくてもいいのか?」

「ああ、まぁ、取り出したほうがやりやすいけど、別にこのままでも大丈夫だ」

おれの胸にケイジュの手が押し当てられて、手のひらが核に触れる。

「このまま魔力を込めていいんだな?」

ケイジュが真剣な顔つきでおれを見る。
全くいやらしいことなんてない、ただの魔導具に魔力を込めているだけなのに、おれは変な想像をしてぎこちなく頷いた。
なんだか、まるで、ケイジュの魔力を身体に直接注ぎ込まれるみたいで、動悸が治まらない。
ケイジュが目を閉じ、集中するように深呼吸した。
おれには魔力を感じる能力がないので、本当に魔力が注がれているかはわからない。
けど、ケイジュの手のひらを熱く感じた。
しばらくの沈黙のあと、ケイジュが目を開けた。

「ようやくこの魔石の容量の限界が見えてきた……本当に凄まじい量の魔力をため込めるように作られているな、これは」

「無理して充填しなくていいからな、半分くらい魔力が残ってれば充分だ」

ケイジュは胸から手を離し、人肌に温もった核を指でなぞる。

「ほぼほぼ満タンに出来たと思う。また減ったらおれに充填させてくれ。セオドアがおれ以外の魔力をここに溜め込んでいるのは、気に入らない」

おれはケイジュの鋭い眼光に貫かれて固まった。
するとケイジュが、いいな?と念を押してくるのでかくんと頷く。
核はおれ自身ではなく、ただの物なのに、そんな所までケイジュにとってはおれの一部に入るらしい。
たった一回で半分ほど減っていた核の魔力を満タンに出来るのなら、さほど時間もかからずにおれの核はケイジュの魔力に満たされるようになるだろう。
ケイジュは魔力が増えたとは言っていたけど、もはや竜人並みと言っていい魔力量なんじゃないだろうか。
けど、ケイジュは流石に怠そうにおれの隣に横たわった。

「ケイジュ、大丈夫か?満タンにしなくても良かったのに……」

「……一時的なものだ。一晩寝れば回復する」

ケイジュは仰向けになったままおれを横目で見て、少し笑ってみせる。
少し憔悴しているケイジュの色気におれはくらりとした。
衝動を抑えきれずに、おれはケイジュにのしかかってキスをした。
精一杯の労りを込めて、柔く唇を食む。
ケイジュの腕がやんわりとおれの背中を抱きしめて、深いキスに変わっていく。
昨日からリードされっぱなしだったので、おれも少しは頑張ってみようとしたのだが、あっという間にケイジュの舌使いに翻弄されてしまった。
巧すぎる。
そのテクニックが経験によるものなのか、それとも淫魔には生まれつきその才能があるのかわからないけど、おれじゃあとても太刀打ちできない。
上顎の敏感な粘膜をなぞられておれの背中が震えて丸くなる。
いつの間にかケイジュの手が服の中に入ってきて、背中から腰を直接触られていた。
背中のくぼみをケイジュの指がつるりと撫でて、そのまま下へ。
ごく控えめな力ではあるが尻を揉まれたおれは、思わずキスを中断して顔を離す。

「け、いじゅ、その、今夜、するのか?」

おれとしてはケイジュに抱かれることに異論はないが、流石に昨日と同じ熱量で求められたらまた出発が遅れてしまう。
少し手加減してほしい、と頼むつもりで聞いたのだが、ケイジュは苦笑しながら首を横に振った。

「最後まではしない」

しかし、ケイジュの手は確かな意思を持っておれの尻を撫で回している。

「フォリオに戻って、ゆっくり時間を取れる目処が立ってからにする。だが……負担にならない程度に、慣らしていくつもりだ」

おれはひゅっと息を呑んだ。
いきなり抱かれるより、そうして予告された方が緊張してくる。
フォリオに戻るまでは最低でも2週間はかかるのに、その間おれは我慢できるんだろうか。
おれが不安に駆られてケイジュを見つめると、額にキスをされた。

「そんな顔をするな、セオドア。何もかもどうでも良くなって、このまま抱いてしまいたくなる……今夜は早めに終わらせるから、安心しろ」

おれが上にのしかかっているのに、ケイジュは不敵に微笑んでいた。
おれは抵抗を諦めて、ケイジュの胸に額をくっつけて身体を預ける。
お手柔らかに頼むぜ、とおれが言うと、ケイジュの手が本格的におれを愛撫しはじめた。



 翌朝、半身がひやりと冷気に触れて目が覚めた。
まだ薄暗い部屋の中で、ケイジュが上半身を起こしているのが薄っすら見える。
今までおれを温めてくれていた肌が離れていくのが寂しかったけど、おれも布団の中で伸びをした。
身体も怠くないし、気分も穏やかな幸福感で満たされている。
すごくいい目覚めだ。
ケイジュはおれが目を開けていることに気付くと、愛おしげに一度頬擦りをして、おはよう、と囁いて先にベッドから出ていく。
お手柔らかに、というお願いの通り、昨夜はひたすら甘やかされているうちに寝てしまった。
一応性的な行為だったはずなのだが、切羽詰まった記憶がない。
ゆるゆると高められて、ぬるま湯に浸かったような心地よさの中でそのまま意識は途切れている。
その幸せな感覚がまだ抜けていない。
けど、気分を切り替えないと。
おれはもう一度ぎゅっと目を閉じて思い切って体を起こした。
今日からまた旅が始まる。
往路はなんだかんだ波乱続きだったから、復路はもう少し平和な旅ができるといいが。
まぁ、今の時点でもスラヤ村に立ち寄ることは決まっているし、何事もなく終わることはないだろう。
無事に家に帰り着くまでが仕事だ。
おれは気合を入れ直し、まずは服を着るところから始めた。





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