美月 ~芸能界の物語~

鎌倉結希

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【芸能界 デビュタント編】 第五章 ツバサプリンセス

41 自由の意味

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いつもは宇都宮さんとただメッセージのやり取りをしたが、その夜居酒屋で彼女は一人で飲んでいて、空いているかと聞かれると私の携帯が鳴った。島根で自分の部屋にいた私は初めて彼女と電話した。私は聞いた。「居酒屋って、一人で行くところですか」
  地方で居酒屋は酒を飲むところだけど、海外のパブみたいで料理屋の雰囲気もあって、いろんなおつまみも頼めて賑やかな店のイメージだ。賑やかだと言うと、そのとき隣のテーブルからか声が聞こえた。「今夜いい穴があったら入りたいね!」
  そして笑い声だった。「いい穴っていっぱいありますよ!」
  それは恥ずかしいときにダチョウみたいに土に頭を隠したいという日本の表現の一つだけど。少し黙ると、私は言った。「宇都宮さん?」
  「あ、いいよ。今日意外と客がいるね。さっきの話、うん、居酒屋ってそんなには一人で来る店じゃないけど、穴があったら二人とかで入った方が楽しいね」
  「……ハロー?」
  「……違う違う!え、穴なんて私は言わなかったでしょ。ちょっと酔っ払ったかな。私ね、ここのおつまみが好きなんだ、こんな小皿でいろいろ頼めて便利ね。チーズをかけるものも好きだし、あと彰は多分好きじゃないかな、私は味噌モヤシが大好きなんだ」
  「そうですか。こっちのスーパーでたこわさびを見たことあるけど、売ってますか」
  「売ってる!おいしいよ。彰はお酒飲めないけど、今度来たらここで食べてみる?」
  二日後、自分の家でビールを飲んでいた宇都宮さんは、酔ったかもしれない、撮った天井とスリッパの写真を送った。そして彼女は映画を観ると言うと長くメッセージが来なくて、一時くらい彼女はもうそろそろ寝ると言った。『彰は寝ないの?まだ勉強してる?』
  勉強したときもあるけど、なぜか毎回彼女がそう聞くとき、私はいつも変なサイトを見ていた。『いいえ、ただだらだらしています』
  『大人より遅く寝て、健康に良くないよ。おやすみ』
  『おやすみなさい』

  二月に知り合ってから、約三ヶ月がたち五月になると親しくなったからかメッセージのやり取りが軽くなって、たまにただ昼食の写真を交換することもあった。ある日彼女は彼氏と江の島旅行をして美しい写真を送ってきて、私は美月のことを思い出した。恋人と言ったら彼氏といたいかと私は聞くと、宇都宮さんは答えた。『でしょ、だれが彼氏といたくないの』
  『そろそろ東京に引っ越すか考えているけど、来なくてもいいと彼女が言ったので』
  『会いたいよ、ただ彰のことを心配して言っただけだよ』
  『そうですか』
  そのときも美月と電話して、長く学校の友だちのことから彼女はマネージャーの工藤さんのことも言った。いろんなことを教えた以外、彼女は日本人は芸能界を勘違いしていると言った。「勘違いって、工藤さんはセンター試験だと言ったね」
  「センター試験?」私は聞いた。
  美月は続けた。「うん、今までテレビ、ドラマに出ている人たちが最適で、センター試験を受かった人みたいということね。実はすべて勝手なことが多くて、事務所やプロヂューサーの推しとか、そんなに平等じゃないと工藤さんは言ったの」
  「本当に……」
  美月がまだちゃんと説明していなかったから、次の日このことを私はメッセージで宇都宮さんに聞いてみて、あとは電話で話すと、彼女は言った。「芸能界だよね、美月ちゃんの伝えたいことはわかるよ……彰は聞いたことある?私たちはよく同じこと、同じ人を長くいっぱい見たら、馴染んで気づいたら好きになってることって」
  「う、うん」
  「そんな感じ……ニュースのコメント見たことあるかな?最近見かけた美人女優のランキングの記事にはね、ある女優が一位にランクインして、でもコメント欄に『全然知らない』と意見が多くて、ちょっと冷たすぎるでしょ……実はほかの有名な国民的女優ってさ、ただコンタクトの色を変えるとコメントが殺到する風貌でそんなにその子と違うと思わないの。基本的に、受ける感じって、ただ私たちは何回もテレビやCMに見たことがあるわけだ。ほかの人はいいと言ったら自分も乗る、それは芸能界のことだけじゃないかもしれないね」
  
  宇都宮さんはいろんなことを知っていそうだが、なにを読んでいるとか彼女はあまり言わなくて、いつもただ私のことを話した。だけど彼女のことなら、前にもらった動画かな。その日彼女はバイオリンを練習したときのクリップを初めて送って、クラシック音楽は、再生して見て私がすごいと褒めると、彼女はまだよくないと言った。『なんでですか』
  メッセージで聞くと、彼女は答えた。『クラシック音楽だけじゃないね、一般に音楽ってただ楽譜のままに演奏することに見えても、それだと硬いの……演奏者なんて操り人形と変わらないみたいけど、音楽は作曲家の心から出たものだから。その心が表記されていても、それはすべてじゃなくて、従うだけだと空しいだけじゃないかなって。心を表現できないってさ、もしこれは自由だと言ったら、さわれないじゃない。私はただの演奏者だけど、もしその自由さがわからないと、美しく演奏できないよ』
  『自由?』
  『うん。彰はわかるかな』
  そのとき彼女は夏に放送がはじまる『大将ロマン』というアニメの音楽の仕事をしていて、送られてきた録音したときの動画は同僚が撮ったと聞いた。動画で背がデカい人が後ろに立っていて、それは彼女の彼氏じゃないかと私は聞いた。『顔も似てますが……』
  わかったのは前にもらった宇都宮さんの旅行の写真に、多分ほかの人に撮ってもらって、遠いショットだけど二人がいたから。彼女は答えた。『うん、彼もここで働いてるんだ。サウンドの担当ね』
  五月中旬、自転車に乗って帰宅していると携帯の振動があって気のせいかと思ったが、出して見ると宇都宮さんからのメッセージだった。道端に止めて返事をすると、夏に彼女は五日間の休みがあって、島根にあそびに行くか考えているそうだ。『え、全然ここにはなにもないですよ』
  『そう?島根って私は行ったことないね。しかもいつも彰は東京に来てくれるから』
  『いいんです、それは』
  『彰は私に島根を案内できる?』
  『田舎ですよ』
  『大丈夫、ご両親に挨拶しないといけないし』




―――――――――――――――――――――
ノート

宇都宮が彰の親に挨拶したいのはどういう意味……?

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