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【芸能界 デビュタント編】 第五章 ツバサプリンセス
34 Tsubasa Town
しおりを挟む八月末、二学期がはじまる前に美月はラグーン芸能事務所と契約した。
その日、美月は両親と東京にあるラグーンの本社に行ったそうだ。ラグーンは大手事務所の一つで、所属する有名な俳優とタレントも多くて、一般的な『スカウトされた』とは同じと思わなかった。もう私は日本に二、三年間いて芸能ニュースで、各芸能事務所やいろんな機構が毎年新人オーディションを開催して、いずれも数千人、たまに数万人の若者が応募していて、芸能界に出入りする手続きがあるとよく読んだ。合格するのは難しいが、芸能人のプロフィールを検索してみたら彼らはそんなオーディションで選抜された人である確率が高かった。スカウトされた場合ならドラマと映画で活躍して有名になる人の例もあるけど、日本ではなぜかオーディションからじゃないといけないという意識がありそうで、スカウトされてからそういうオーディションを受けた人も多かった。美月もその一人かもしれない。
事務所の薦めに従って、美月は池袋のショッピングモールにある遊園地のイメージモデルのすぐに行われるオーディションを受けた。『ツバサタウン』という遊園地で、『ツバサプリンセス』の役で、八百人近くの応募者がいたが美月は合格して、急に九月から東京へ通う生活がはじまった。
アイドルっぽく衣装を着て、ショッピングモール、とくにそのなかの遊園地に流れる動画のモデルとして勤めて、イベントがあったらステージで歌ったり踊ったりもするのは『ツバサプリンセス』の役目だった。本番までの二ヶ月近く、まだ美月は人目が恥ずかしかったので、当時松江でレッスンを受けた歌の先生のアドバイスで、美月は大勢の人に慣れるため、松江駅にあるうなぎ屋の呼び込みのバイトをすることを提案した。店のオーナーは先生の知り合いで、先生は美月のお母さんを説得すると、土日の歌とダンスのレッスンのあと美月はそこでバイトをしはじめた。三、四時間働くときもあって、日に焼けるのを避けるため彼女はよく店の屋根の下に立っていたけど。
東京みたいに見知らぬ大勢の人ではなく、ここを通る人は少なくて近所の人なので、彼女の存在を気にしていた。彼女のことを店の人に聞いたり、直接彼女に話しかけたりしなくても彼らはもともと見覚えがあるらしいし。ある夜、電話で美月は私に言った。「多分ぎこちないから私にいろいろ聞いて、芸能活動をしたいとわかると応援してくれそう。まだ私はなにもはじめてないのに」
「いっぱいしたでしょ?美月はこんなに頑張ってて、前は想像できなかったよ」
「そうなの?」
「だって君は体調がよくないし、でも家で歌とダンスのレッスンを自主練してるね。偉いんだ」
「……普通だよ、みんな頑張ってるからさ」
「そんなことないよ。私はただ学校に通うだけで、なにもはじめてないのは私の方だ」
美月が東京に住んでいないのは最初問題点だったけど、そのあとツバサタウンのスタッフは演技に必要な曲、または振り付けの動画を松江の先生たちに渡した。練習の内容を彼らは電話で話し合ったそうで、その結果、たまに演技を確認するため美月は東京でツバサタウンの先生と会うこととなった。
私は美月と一緒に松江に行ったことがあって、彼女の客引きのバイト中の姿をこっそり見て、写真を撮ると公開すると脅かす冗談もした。そして十二月、彼女のデビューステージがはじまった。
『ツバサタウン』があるショッピングモールは、ホテル、オフィスビルも複合的にある『池袋Glade』という場所で、十二月に美月のデビューステージを見るために初めてここに来て私も大きさに驚いた。晴れたその日は、昼食のあとしばらくそとを歩いてから『ガレリアセントラルビル』をぶらぶらすると、二時くらいに二階にある『ツバサタウン』の遊園地に行った。『ツバサタウン』の前のステージで珍しく大きな音楽が流れていたからかもしれない、いろんな家族連れの客が立ち止まって見ていた。
土曜日だった。私と美月のお母さんは一緒いて、二時ぴったりになると二体のマスコットと後ろにツバサプリンセスの姿で美月が登場した。
美月は数十人のなかに立っていた私たちに気づいたかと思うと、彼女は遊園地のテーマソング『みんなの空』を歌いはじめた。三、四分くらいの演技をすると彼女は視聴者に挨拶してから、ほかのスタッフもステージに参加してツバサプリンセスの彼女と遊園地の『スカイフロンティア』という新しいゾーンを説明した。そのゾーンに多くある動作センサを使うインタラクティブ・ゲームを一つひとつ紹介して、このゾーンのポイントはほかのゾーンのものと共に貯めて景品と交換できるとスタッフさんが追加説明した。
最後にツバサプリンセスが笑顔でみんなを新しいゾーンへ招待するとまた一つの曲を歌った。終わったあと彼女とマスコットの二体はステージを降りてしばらく客と写真を撮ると、ステージの裏から楽屋に戻った。そして私の隣の浅井さんが言った。「みーちゃん、本当に元気だよね」
「はい」私はうなずいた。
『ツバサプリンセス』の衣装は青色のトーンで、上半身は襟のあるベストらしく、下半身は膝丈のフリルっぽいスカートだからアイドルっぽい感じで、背中に小さな羽も付けていた。マスコットは『みらくちゃん』が雀だと見た目でわかったが、『すんすんくん』がペンギンみたいなのに羽があったせいで、演技を見ながら長く浅井さんとなんの動物かと憶測していて、あとで美月と会うとそれは飛べるペンギンだと彼女は説明した。「自由な空は、ペンギンでもつかめるみたいなコンセプトだよね」
下の階のカフェに一緒にすわっている美月は、もう私服に着替えていて遅くなったことを謝った。そしてお母さんは微笑んだ。「みーちゃんはよく頑張ったね。お疲れ!」
空いている席に美月は、初ステージなのでスタッフがくれたというカラフルな花束を置いた。休憩したいと美月が言ったから私たちは少し長くカフェにいて、ホテルに帰ったときに、お母さんと美月の部屋で私たちはさっき撮った『ツバサプリンセス』のステージの動画を見ていた。よく美月は変か悪いかと意見を聞いた。
夕食のあと、まだ七時くらいで美月と私は二人で周りのモールをぶらぶらしに行った。戻ると自分の部屋に別れる前に、廊下で私たちはキスした。監視カメラがないそこで、しばらく抱き合うと美月は言った。「こんな感じ、なんか懐かしいね」
「いつと?」
「えっと、旅館かな」
もう二年前だったかな。「あ、そっか。明日のステージに頑張ってね」
「うん!彰くん……ありがとう。いつもそばにいるって」
「え、いいよ。東京に来て私も楽しいから」
彼女は笑った。「私は面倒くさすぎるよ」
おやすみと言ったが、私たちはまだキスしていた。
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