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第三章 初デート
9 浅井の家
しおりを挟むその日私たちは別れると、少しメッセージをやり取りした以外はなにも連絡しなかったが、二日後に彼女の『明日か明後日時間がある?』とメッセージが来た。彼女のお母さんは私に会いたがっているらしいと母に説明すると彼女はもらった電話番号にかけて美月のお母さんと長く話した。そして切ると私を見つめた。「なぜお母さんになにも言わなかったの?」
「ただ大切なことじゃないと思いましたが」
「そう?」
次の日の夕方、私たちは車で美月の家に行った。地海駅近くの国道から小さな脇道まで、迷わずに運転できる母はどうやって場所がわかるのか謎だった。田んぼや林にかこまれた家は、私の家より二倍くらい大きく見え、車から降りてしばらく周りの景色を眺めていると家から人が出てきた。美月と一緒に歩いてきた女の人は若そうで、なんか年齢が近い親戚かと思うと、彼女は美月の母と自己紹介した。「来てくれてありがとうございます。まずは入ってお茶を飲みませんか」
「はい、どうぞ」
そのときTシャツと短パン姿の美月も横に立って、前みたいに腕のギプスと顔と足のガーゼがまだあった。だけどなにも言わずに彼女はお母さんの後ろについていって家に戻った。
玄関からゆったりしたリビングに入ると、私の家とは違う雰囲気だった。私の家はちょっと洋風で一般だけど、ここは古い……でも古いと言うより、家具やいろんなものも特徴があって日本風というかな。壁にモノクロ写真、男たちは頭になんか巻いて、労働者?いいえ、昔の祭りからかな。そしてあの箪笥は、木の色が赤くて恐ろしさがあって、鉄の部分の変な柄も、最近読んでいた紗季のおすすめの漫画みたいで、こんなものはお化けが入れられるところじゃないか。でも現実は、多分遺骨を置くところかもしれない、先祖のとか。
遺骨?
「彰、なに見てるの?」母は呼んだ。
「はい!なんでもないです」
そして私たちはソファにすわると母はここが素敵な家だと言った。それは外見と周囲の環境のことか、家のなかの珍しさという意味か、私は長く考えた。そして母は言った。「この辺に通ったことがありましたが、浅井さんの家とは知らなかったんです。えっと、ここには美月ちゃんとご主人とでお住まいですか」
「あ、いえ!私たちは六人です」
「そうですか?」
浅井さんは微笑むと答えた。「祖父母、息子、あと旦那は海外で働いていてたまに帰りますが。えっと、ちょっと待ってくださいね、今からお茶を入れます」
「はい」
祖父母はここにいると聞くと、玄関の靴の数を思い出して、だが今だれも見えないので彼らはほかの部屋にいるかと思った。しばらく待つとお茶と共においしそうなロールケーキも出て来た。出雲の有名な店からと浅井さんは言って、その話からほかのカフェ、そして最近セールで買った帽子のことをしばらく話すと彼女は急に止めた。「……あ、くだらないことをごめんなさい!実は今日ですね、私は彰くんにお礼を言いたかったんです。うちの子を何回も助けてくださって本当にありがとうございました」
母は会釈をすると言った。「もう息子から話しを聞きましたが、本当に偶然でしたね」
母に伝えたのは山の森ではなく、美月と出会ったのはこの周辺の道端で、美月の体調がよくなさそうだったので助けた話にした。そして浅井さんは答えた。「そうですね、彼女はあまり健康ではないから。彰くんはレストランで冷たい飲み物を彼女に買ってくれたのはとても優しいと思うし、最初から私に言わなかったのは、ただ彰くんが男の子なので恥ずかしがったのね」
「……レストラン、と言いましたか」
「はい。その日、プリンも食べたでしょう、みーちゃん」
レストラン?
しばらく美月と浅井さんを見ると、私は曖昧にわかってきた。多分、私みたいに森の話の代わりに、レストランに行ったから遅く帰った口実にした……でもプリンのことまではちょっとやりすぎたじゃないか。気づいたら私は母に冷たく一瞥された。
でもさっき、みーちゃん?
美月の体調の話を続くと、また数回みーちゃんの呼び方を聞いた。そのとき美月を見ると、なぜか彼女は目を逸らして床を眺めていた。そして会話は美月の通う病院のことになると、母が先生の名前を知っているので浅井さんは母も医師かと聞いた。「いえ、心理学者です。笠戸病院で働いていて、セミナーとかで交流があるので、それで知り合いです」
「えー、本当にキャリアウーマンですね!」
「普通の仕事ですよ」
言葉だけではなく、感動したように言った浅井さんは、目を大きく見開いていた。私はそんなに面白いかと思った。「本当にすごいです……あ、だから今泉さんは仕事が終わったばかりですか。すみません」
「いえいえ、ここに来て浅井さんはこんなに待遇してくれて私も嬉しいですよ」
浅井さんは深く会釈して、顔を上げると微笑みが見えた。「みーちゃんもね、今度から早く帰った方がいいよ。みんなを心配させるからね」
そして浅井さんは美月にお礼を言うよう促して、『ありがとうございました』と言った美月の声を聞くと私は恥ずかしいと感じた。すると浅井さんは私の名字は『松島』かと母に聞いた。「はい、松島です」
「……そうですか。えっと、確かじゃないですけど、この前テレビで評論家の松島博士が出ていて、彼もデンマークに住んでいたそうで、彰くんもデンマークから来たので、なにか関係があるのかなと思いました」
「彼は彰くんの父です」
「本当ですか?」
母はうなずいた。「一緒に五、六年間くらいデンマークに住んでいたんです」
「あー、だから彼も彰くんと一緒に帰国したんですね。もしかして彰くんを日本の生活に馴染ませたいということですか。日本、又渡は外国と違うところが多いですね」
「いいえ、彼はもうなくなりました」
「え?」
母は冷静に答えた。「それは去年です、だから彰くんはここに戻りました。彰くんにはまだここのいろんなことが難しいですけど」
「すみませんでした!」
「大丈夫です」
「……松島博士の本は読んだことがないですが、テレビで彼の言動は素晴らしいと思ったので、私ははっきりと覚えていました。まだこんなに若かくて本当に残念なことですね」
まだしばらくここにいて、帰る前に美月のお兄さんが上の階から降りてきて、リビングを通ったときに初めて私は彼と会った。彼は高校二年生と聞いていたけど、背が高いのでそれより年上に見えて、私たちに会釈すると彼は電話で話し続けて玄関の方に歩いた。カナちゃんという電話の相手は彼女かと思っていると、もう家を出たのか彼の声が聞こえないと私の母は言った。「息子さんも元気そうですね」
浅井さんは笑うと答えた。「のんちゃんは実は勉強好きで、あまりそう見えないですけどね」
のんちゃん?
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