美月 ~芸能界の物語~

鎌倉結希

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【島根編】第一章 縁じる

4 地元の又渡

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デンマークを飛び立ち、私たちはヘルシンキ空港で四時間くらい待ってから乗り継ぎ便で十時間、羽田空港に着いた。少し空港のそとの空気を感じて、それから夕方の出雲空港行きの便まで時間が空いた私たちは空港内のレストランで定食を食べた。四時頃にチェックインして、搭乗したあと、席に差し込まれた雑誌を読みながら、離陸するときに腕時計を見てもう五時だと思った。「一時間半ぐらいかかるね、そろそろ家に着くよ」
「島根はこれくらい暑いですか」
「同じかもしれないね。北海道なら今はもっと涼しいと思うけど」

機内の雑誌には国内旅行のことがカラフルに載っていて、北海道のページは花畑や自然、南の地域のページに捲ったらきれいな海が紹介されていてもっと晴れやかな印象だった。雑誌から窓のそとに目を移すと、眩しい夕日の下に都市は遠くなりながら、緊密の高層ビルが徐々に小さくなり見えなくなった。しばらくしてそとを覗くと空の景色が続いていて自分はどこにいるかもうわからなかった。

出雲空港に到着したのは六時半に近かった。バスはもうすぐ出発するので急いでと母に言われたが、空港内のエキシビションと大きな猫のマスコットの象を見ながら私はごみどりの国ってなにと聞いた。「え、どこ?」
「あれ、『ようこそ、ごみどりの国しまね』って。みどりが多いですか」
「あれはみどりじゃなくて、えん」
近くにいた空港のスタッフが私たちの会話をふと耳にしたからか、にっこり微笑んだ。恥ずかしそうに母はただ歩き続けた。そして私たちはバスに乗ると母は券の裏に『緑』と『縁』の漢字を書いていた。私も書いてみながら縁ってなにとまた聞いた。「……運命ですか?」
「運命かな、似てるね。でも縁といったら、人と人のこととか、例えば、男性と女性が出会うことは縁があるという表現も使うし。偶然に見えても、実は意味がある。さっき空港内に書かれていたのは島根に来た方々は縁、運命があるということね」
「でもそう言ったら、さっき私たちは羽田空港に行ったことも縁じゃないですか」
「ただ県のPRよ、気にしないで」

バスで私たちは出雲空港から出雲市駅へ向かい、そこから西方面の電車に乗った。この電車は一時間二十分くらいかかるけど、もっと遅くて二時間近くかかる電車もあると母は言った。飛行機に乗ったとき本を読んだからか疲れて私はただ席にもたれ、そとの暗闇を眺めていた。

出雲市は島根の中でも都会らしい。この町にはいろいろあったが、電車が走り出すとまばらに見える住宅以外、景色は田んぼや山々しか見えなかった。携帯で時間を見るともう七時半だとわかって、この地へ着陸して一時間と経たずにそのときに抱いた楽しみな気持ちがなんだか急にあせて、自分はここでなにをしているのか、今から本当にここに住むのか、という気持ちに変わっていった。

ここのことは覚えていなくて、懐かしさより違和感しかなかった。大田市を通ったときに静かな町で、街並みを見ると畑ばかりの田舎ではないとわかったが、まだ私はなにかわからない心配があった。まどろんだりしゃべったりするほかの乗客を見て彼らにとっての日常を感じ、不安と感じるのは私だけかなと思った。「彰くん」
「はい」
母は言い続けた。「着いたら私たちはちょっとおばあちゃんの店に寄るね。そこで夕食を食べたい?」
「どんな料理ですか」
「一般的なもの。でもおばあちゃんは八時くらい閉めるから、今はもう片付けてるかもしれない」

この夜景が永遠に続くように思っていると、そろそろ家に着くと母は言った。列車には出雲からの乗客がまだ半分くらい残り、もうこんなに遠くへ来たのに、どこに向かっているだろう。電車のゆっくりとした揺れで眠くなってきた私は母に呼ばれて起きた。彼女は窓のそとを指差していた。

この夜景が永遠に続くように思っていると、そろそろ家に着くと母は言った。列車には出雲からの乗客がまだ半分くらい残り、もうこんなに遠くへ来たのに、どこに向かっているだろう。電車のゆっくりとした揺れで眠くなってきた私は母に呼ばれて起きた。彼女は窓のそとを指差していた。

私は指差した方に目をやると、列車の右手に灯りが見えた。多くに現れていたほかの灯りとも最初ただ途中の小さな村の建物からだと思ったが、前の川に近づくと風景がはっきりとした。闇に黒くなった広い川から対岸に住宅地があって、高い建物がないので川沿いに薄暗い二本の聳えた煙突が見えた。この建物はなんの工場か確かじゃないが、煙突の周りには砂の山以外に、近くの川で止まっている船があった。私はそれを眺めながら川を渡りはじまると住宅はまだ長く続いていると見えた。この規模だと人は少なくないだろうと思った。

『ご乗車ありがとうございました。まもなく又渡こうとに到着です、落とし物、忘れ物にご注意ください』

と車掌のアナウンスが流れた。彼は次の駅への到着時間を伝えているうちに私たちは対岸に着き、そして電車の速度が徐々に落ちると又渡こうと駅に停まった。

小さい駅なので、ただ両側のプラットホームを渡る橋と小さなオフィス以外なにもなさそうで、私たちは改札口を通るとすぐにそとに出られた。母が近くに駐車した車を取りに行っている間、私は駅でスーツケースの見張りをしながら周りを見た。一緒に降りた四、五人の乗客は急に姿が見えなくなって、ここでみんながどうやって移動するのかわからなかった。

静かで辺りがすっかり暗くなった街は、もう九時だからか母の車に乗っているときにだれも見なかった。ネットでよく見た日本の動画にきれいな地方の風景より、今見えている建物は一般的な白いセメントの二、三階建ての建物が多かった。きれいな地方のイメージ通りに作りが整っているわけではなく、少しぼろぼろだと感じて、それは夜のせいかわからなかった。「……明日お母さんは仕事だから、週末又渡こうとの周りに連れていくね」
母は運転しながらそう言った。そして私は聞いた。「なにがありますか」
「いろいろ。公園とか、浜辺もあるよ」
「いいですね。え、あれはスーパーですか」
私は左にある場所に指差すと、母はうなずいた。「うん、でももう閉まったね。二十四時間営業のコンビニがあるけど。なにが買っておく?飲み物とか」
「あとでいいです」

走っていたのは県道の大通りだとそのあとでわかった。二車線の道には、ガソリンスタンドやほかのスーパーもあっても、商店らしい建物はもうほとんどシャッターを引いて閉店していた。あまり街灯がないのでどんな店か私にはわからなかった。

県道から小道に入り少し走るとおばあちゃんのレストランがあった。もう店は閉めたが、おばあちゃんはコロッケとハンバーグ、そしてカレーも作って私たちをまってくれた。母とそれらを食べながらおばあちゃんと話していて、長らく会っていなかったが、おばあちゃんのさりげない態度だからかあまり違和感がなかった……だけど、そう感じた理由は彼女がよく私が格好いいと言ってくれたことかもしれない。「彰くんは俳優になれるね!」
母は私に振り向いて見ると言った。「そう?」
「そうよ。十二歳くらいなんてオーディションを受けられるわよ。志緒、彼を受けさせてみて」
「まあ、彼次第ね、お母さん……彰くんはどう?芸能界、興味ある?」
私はコロッケを食べながら答えた。「う、うぇ……いやかな」

私はおばあちゃんと店にもっと長くいたらいいと思うけど、もう遅いから母と私は先に帰った。車で五、六分走ると山の麓の傾斜に私たちの家に着き、この周りに空き地があってたまにあって、繁茂した木々が小さい森のように見えた。

明日母は早く出勤しなければならず、おばあちゃんも十時にはもう家にいないので、母は家のことをいろいろ教えた。二階の私のベッドルームとほかの部屋から、一階のキッチンやバースルームなど家のなかをまわってから、施錠のやり方を見せると私たちはそとの物置に行って、家に戻るときに自転車を見かけると母は言った。「あ、これね。出かけるときにこの二台のどちらを使ってもいいけど、灰色の方が乗りやすいと思うね」
「お母さんの自転車ですか」
「そう。この周辺サイクリングしても楽しいと思うよ。コンビニも行けるし、あとは美味しいものを食べたいならおばあちゃんの店も行ける。デンマークでよく乗っていたそうだから大丈夫ね」
「はい」

そう言ったが、夜に来たせいか私はあまり道を覚えていないと気づいた。明日またネットで道をチェックするつもりだった。

シャワーを浴びてベッドルームにいるともう十二時すぎだった。ノートパソコンを出して少し起動してみて、スーツケースのものはまだ整えないままに私はライトを消して寝た。明日なにしたらいいか、そのときいろんな思いがあったけど、疲れたからかもしれないがこの周辺を自転車でまわる姿しか頭に浮かなかった。景色、店、人、そとが明るい昼ならなんと出会うか私は想像した。

だけど数日後、山の道を調べながら木々に踏み込んで入った私は、花々が咲く茂みのなかになぜ少女がいたのか、彼女との出会いは予想していなかった。
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