6 / 57
【島根編】第一章 縁じる
4 地元の又渡
しおりを挟むデンマークを飛び立ち、私たちはヘルシンキ空港で四時間くらい待ってから乗り継ぎ便で十時間、羽田空港に着いた。少し空港のそとの空気を感じて、それから夕方の出雲空港行きの便まで時間が空いた私たちは空港内のレストランで定食を食べた。四時頃にチェックインして、搭乗したあと、席に差し込まれた雑誌を読みながら、離陸するときに腕時計を見てもう五時だと思った。「一時間半ぐらいかかるね、そろそろ家に着くよ」
「島根はこれくらい暑いですか」
「同じかもしれないね。北海道なら今はもっと涼しいと思うけど」
機内の雑誌には国内旅行のことがカラフルに載っていて、北海道のページは花畑や自然、南の地域のページに捲ったらきれいな海が紹介されていてもっと晴れやかな印象だった。雑誌から窓のそとに目を移すと、眩しい夕日の下に都市は遠くなりながら、緊密の高層ビルが徐々に小さくなり見えなくなった。しばらくしてそとを覗くと空の景色が続いていて自分はどこにいるかもうわからなかった。
出雲空港に到着したのは六時半に近かった。バスはもうすぐ出発するので急いでと母に言われたが、空港内のエキシビションと大きな猫のマスコットの象を見ながら私はごみどりの国ってなにと聞いた。「え、どこ?」
「あれ、『ようこそ、ごみどりの国しまね』って。みどりが多いですか」
「あれはみどりじゃなくて、えん」
近くにいた空港のスタッフが私たちの会話をふと耳にしたからか、にっこり微笑んだ。恥ずかしそうに母はただ歩き続けた。そして私たちはバスに乗ると母は券の裏に『緑』と『縁』の漢字を書いていた。私も書いてみながら縁ってなにとまた聞いた。「……運命ですか?」
「運命かな、似てるね。でも縁といったら、人と人のこととか、例えば、男性と女性が出会うことは縁があるという表現も使うし。偶然に見えても、実は意味がある。さっき空港内に書かれていたのは島根に来た方々は縁、運命があるということね」
「でもそう言ったら、さっき私たちは羽田空港に行ったことも縁じゃないですか」
「ただ県のPRよ、気にしないで」
バスで私たちは出雲空港から出雲市駅へ向かい、そこから西方面の電車に乗った。この電車は一時間二十分くらいかかるけど、もっと遅くて二時間近くかかる電車もあると母は言った。飛行機に乗ったとき本を読んだからか疲れて私はただ席にもたれ、そとの暗闇を眺めていた。
出雲市は島根の中でも都会らしい。この町にはいろいろあったが、電車が走り出すとまばらに見える住宅以外、景色は田んぼや山々しか見えなかった。携帯で時間を見るともう七時半だとわかって、この地へ着陸して一時間と経たずにそのときに抱いた楽しみな気持ちがなんだか急にあせて、自分はここでなにをしているのか、今から本当にここに住むのか、という気持ちに変わっていった。
ここのことは覚えていなくて、懐かしさより違和感しかなかった。大田市を通ったときに静かな町で、街並みを見ると畑ばかりの田舎ではないとわかったが、まだ私はなにかわからない心配があった。まどろんだりしゃべったりするほかの乗客を見て彼らにとっての日常を感じ、不安と感じるのは私だけかなと思った。「彰くん」
「はい」
母は言い続けた。「着いたら私たちはちょっとおばあちゃんの店に寄るね。そこで夕食を食べたい?」
「どんな料理ですか」
「一般的なもの。でもおばあちゃんは八時くらい閉めるから、今はもう片付けてるかもしれない」
この夜景が永遠に続くように思っていると、そろそろ家に着くと母は言った。列車には出雲からの乗客がまだ半分くらい残り、もうこんなに遠くへ来たのに、どこに向かっているだろう。電車のゆっくりとした揺れで眠くなってきた私は母に呼ばれて起きた。彼女は窓のそとを指差していた。
この夜景が永遠に続くように思っていると、そろそろ家に着くと母は言った。列車には出雲からの乗客がまだ半分くらい残り、もうこんなに遠くへ来たのに、どこに向かっているだろう。電車のゆっくりとした揺れで眠くなってきた私は母に呼ばれて起きた。彼女は窓のそとを指差していた。
私は指差した方に目をやると、列車の右手に灯りが見えた。多くに現れていたほかの灯りとも最初ただ途中の小さな村の建物からだと思ったが、前の川に近づくと風景がはっきりとした。闇に黒くなった広い川から対岸に住宅地があって、高い建物がないので川沿いに薄暗い二本の聳えた煙突が見えた。この建物はなんの工場か確かじゃないが、煙突の周りには砂の山以外に、近くの川で止まっている船があった。私はそれを眺めながら川を渡りはじまると住宅はまだ長く続いていると見えた。この規模だと人は少なくないだろうと思った。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく又渡に到着です、落とし物、忘れ物にご注意ください』
と車掌のアナウンスが流れた。彼は次の駅への到着時間を伝えているうちに私たちは対岸に着き、そして電車の速度が徐々に落ちると又渡駅に停まった。
小さい駅なので、ただ両側のプラットホームを渡る橋と小さなオフィス以外なにもなさそうで、私たちは改札口を通るとすぐにそとに出られた。母が近くに駐車した車を取りに行っている間、私は駅でスーツケースの見張りをしながら周りを見た。一緒に降りた四、五人の乗客は急に姿が見えなくなって、ここでみんながどうやって移動するのかわからなかった。
静かで辺りがすっかり暗くなった街は、もう九時だからか母の車に乗っているときにだれも見なかった。ネットでよく見た日本の動画にきれいな地方の風景より、今見えている建物は一般的な白いセメントの二、三階建ての建物が多かった。きれいな地方のイメージ通りに作りが整っているわけではなく、少しぼろぼろだと感じて、それは夜のせいかわからなかった。「……明日お母さんは仕事だから、週末又渡の周りに連れていくね」
母は運転しながらそう言った。そして私は聞いた。「なにがありますか」
「いろいろ。公園とか、浜辺もあるよ」
「いいですね。え、あれはスーパーですか」
私は左にある場所に指差すと、母はうなずいた。「うん、でももう閉まったね。二十四時間営業のコンビニがあるけど。なにが買っておく?飲み物とか」
「あとでいいです」
走っていたのは県道の大通りだとそのあとでわかった。二車線の道には、ガソリンスタンドやほかのスーパーもあっても、商店らしい建物はもうほとんどシャッターを引いて閉店していた。あまり街灯がないのでどんな店か私にはわからなかった。
県道から小道に入り少し走るとおばあちゃんのレストランがあった。もう店は閉めたが、おばあちゃんはコロッケとハンバーグ、そしてカレーも作って私たちをまってくれた。母とそれらを食べながらおばあちゃんと話していて、長らく会っていなかったが、おばあちゃんのさりげない態度だからかあまり違和感がなかった……だけど、そう感じた理由は彼女がよく私が格好いいと言ってくれたことかもしれない。「彰くんは俳優になれるね!」
母は私に振り向いて見ると言った。「そう?」
「そうよ。十二歳くらいなんてオーディションを受けられるわよ。志緒、彼を受けさせてみて」
「まあ、彼次第ね、お母さん……彰くんはどう?芸能界、興味ある?」
私はコロッケを食べながら答えた。「う、うぇ……いやかな」
私はおばあちゃんと店にもっと長くいたらいいと思うけど、もう遅いから母と私は先に帰った。車で五、六分走ると山の麓の傾斜に私たちの家に着き、この周りに空き地があってたまにあって、繁茂した木々が小さい森のように見えた。
明日母は早く出勤しなければならず、おばあちゃんも十時にはもう家にいないので、母は家のことをいろいろ教えた。二階の私のベッドルームとほかの部屋から、一階のキッチンやバースルームなど家のなかをまわってから、施錠のやり方を見せると私たちはそとの物置に行って、家に戻るときに自転車を見かけると母は言った。「あ、これね。出かけるときにこの二台のどちらを使ってもいいけど、灰色の方が乗りやすいと思うね」
「お母さんの自転車ですか」
「そう。この周辺サイクリングしても楽しいと思うよ。コンビニも行けるし、あとは美味しいものを食べたいならおばあちゃんの店も行ける。デンマークでよく乗っていたそうだから大丈夫ね」
「はい」
そう言ったが、夜に来たせいか私はあまり道を覚えていないと気づいた。明日またネットで道をチェックするつもりだった。
シャワーを浴びてベッドルームにいるともう十二時すぎだった。ノートパソコンを出して少し起動してみて、スーツケースのものはまだ整えないままに私はライトを消して寝た。明日なにしたらいいか、そのときいろんな思いがあったけど、疲れたからかもしれないがこの周辺を自転車でまわる姿しか頭に浮かなかった。景色、店、人、そとが明るい昼ならなんと出会うか私は想像した。
だけど数日後、山の道を調べながら木々に踏み込んで入った私は、花々が咲く茂みのなかになぜ少女がいたのか、彼女との出会いは予想していなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる