少女のこころは。

阿零

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記憶の断片 3 (終)

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私へのナツミたちのイジメは今考えたらしょうもないものだった。

靴箱に詰められる砂利や枯葉。

ゴミ箱から出てくる私の筆箱。

机に書かれたチョークの落書き。

黒板に書かれる私への悪口。

学年中に広められるありもしない私の噂話。

私は彼女達からされるイジメになんのアクションも起こさなかった。

当時はそれでイジメが終わるとかそんな考えでやっていたんじゃなかったけど。

ただ単に毎回反応するのが面倒だっただけだ。

嫌だったけど。

でもそのおかげでイジメはあっさりと終わった。
まあ、3ヶ月くらいは飽きずにやってたと思うけど。











つい先週のことだけど地元の映画館でその頃のクラスメイトにあった。

そのクラスメイトの名は茅村かやむらと言う。

茅村とはいわゆる幼なじみだった。

低学年の頃は一緒に泥まみれになって遊んでいたっけ。

結構仲が良かったように思う。

彼は私の顔を見て久しぶり、などという言葉の前にまっさきにこう言った。

「ごめん。あの時はごめん。何もできなかった」


私は突然のことに状況が飲み込めなかった。

しかし思い当たる節はあるのだ。

あの時はごめんという事は。

ああ、ナツミたちのことか。

「あの時って、私がナツミ達に嫌がらせを受けていた時のこと?」

「ああ。お前が転校する前のことだよ」

茅田は遥か遠くを見るような目をして言った。


「そんなのいいのに。気にしててくれたの?」

そんなの、で済むことではなかったが取り敢えずそう言った。

「ずっと気がかりで仕方がなかった。お前とは連絡が取れなくなっちまうし。住所くらい残していってくれてもいいんじゃねえの」

どことなく照れくさそうに目をそらしながら言った。

「ごめんね、迷惑をかけたね」

ああ、うん…まあ。みたいな曖昧な言葉で誤魔化した。

しばらく俯いていた茅村はまっすぐ私を見据える。

その目には後ろめたいものが一切ないような気がした。
ずっと私のことを気にかけてくれていたということは〝後悔〟はあったのだろうが彼の瞳からはそのようなものは感じられなかった。
真摯、という言葉が合うのだろうか。


「俺、ずっとお前のこと救ってやりたかった。でもイジメを止めることができなかった。何もしてやれなくてごめん」

私の眉はぴくりと反応した。

救う   だって?

「救うって言葉は私に使うべきではないよ。もっと救わなきゃいけなかった人がいたでしょ」

「理恵子のことか」

「そう」


理恵子は私の次にいじめられてた子。

繊細な彼女は私の何倍も脆く儚く傷つきやすかった。

鈍かった私にはナツミたちのイジメは特に心に響いたことがない。

でも理恵子はそういうのがダメだったんだ。

「理恵子、今どうしてる?」

「お前が転校してしばらくした後、保健室登校になった。今は普通の高校に行ってるよ。まあ、元気みたいだ。理恵子がクラスからいなくなった後は戸村がいじめられてた」

戸村、というのはナツミのことだ。

私をいじめていた戸村ナツミがミキやナナコ、レイ、メイからいじめられていたということだろうか。

「ミキたちに?」

「ああ。クラス全員ざまあみろって思ってた」

不思議とそのとき、ずしりと重いものが心にのしかかってきたような気がした。
なんで?ナツミは私をイジメてた本人なのに。
自分の気持ちなのに自分ではわからない。
心にわだかまりを抱えたまま私は茅村と別れた。
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