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6.休日の邂逅

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 依里子よりこはその休日、ひとりで街に出ていた。目当ての買い物を済ませ、帰宅のためタクシーを呼ぼうとした、その時だった。

蓮路れんじさん?)

 反対側の歩道の、道行く通行人に蓮路の姿を見つけた。依里子は取り出したスマホを仕舞い、彼を追った。すると彼はドラッグストアに入っていったので、依里子も追って店に入ったのだった。



「蓮路さん!」

 突如かけられた声に、蓮路はびくりとして手にした食器用洗剤を取り落としそうになった。

「ごめんなさい、そんなに驚いた?」

 そこで申し訳なさそうに謝るのは、依里子だったのだ。

「あー、まぁ、な……」
「お買い物、ついていてもいい?」
「いいけど……今日はこの店でしか買わねーぞ」

 蓮路が承諾すると、何がそんなに嬉しいのか依里子は顔を輝かせた。
 その後、歯ブラシ、浴室用洗剤などを選んで買い物かごに放り込むが、依里子はにこにこして付いてくる。

(トイペは、また今度にするか……)

 かさばるものを今回は保留にし、会計をすませる。そして店を出ると、依里子がやはり嬉しそうに言った。

「蓮路さんは、こういうお店で買い物するのね!」
「いや……、この店だけじゃねぇけど……」

 なんとなく、生活くさい自分を見られるのは恥ずかしい。すでにアパートの部屋を見られているし、自分でも妙な気がするが。

「依里子も買いモンか?」
「ええ。帰ろうとしたらあなたを見かけて……」
「何買ったんだ?」

 依里子はハンドバッグのほかに、サブバッグの手提げを下げていた。買ったものが入ってるのだろうが、中身が見えず蓮路はつい質問した。
 すると依里子は頬を染め、視線を逸らしたのだ。

(うん?)

「なに、エロいおもちゃでも買ったのか?」

 依里子はますます顔を赤くした。肯定しているも同然だった。

「へぇ。さすがエロ処女」

 蓮路はからかうつもりもなくそう言った。だが、依里子はそうはとらなかったようだ。

「あ、あなたが……あなたが私を世界一エロい処女にするっていうから……っ」
「言うから?」

 依里子はくちびるを噛んで言った。

「私も、応えなくちゃって思って」
「……」

 蓮路は沈黙したが、内心では悶えていた。なんて可愛いことを言うのだ、この女は。

「そ、か。……なぁ依里子、この後時間あるか?」
「え?」
「昼メシまだなら、一緒にどうだ?」

 蓮路が誘うと、依里子は少し遠慮がちに言った。

「……いいの?」
「何がだ? ま、大したもんは奢れねーが」
「そうじゃなくて。せっかくの休日でしょう?」

 蓮路は逡巡した。これは――遠回しな断り文句なのだろうか。

「依里子はせっかくの休日、俺と過ごすのは嫌か?」
「そうじゃないわ! むしろ嬉しくて……。でも、蓮路さんには蓮路さんの生活があると思ったの」
「……俺が依里子と過ごしたい、それじゃ駄目か?」

 依里子はわずかに頬を染める。

「……駄目じゃない」
「じゃ、決まりな」

 蓮路は――内心では勇気が要ったが、ごくさりげなく依里子の手をとり、そして歩き出したのだった。



 蓮路は依里子を連れて、サンドイッチショップに入った。少し前この国に初出店したという話題の店である。――とはいえ、そろそろ客足も引き始めたころで、ほぼ並ばずに入ることができた。

「何、こういう店はじめて?」

 蓮路は落ち着かない依里子に声をかけた。蓮路自身、実家に居た頃はファストフードショップの類には入ったことがなかったからだ。とはいえ、セルフサービスではない少々値の張る店を選んだのだが……。

「そうだけど……それより、家族以外と外食するのがはじめてで」
「へぇ。……じゃ、また依里子のはじめてを俺がもらっちまったな」

 蓮路が笑って言うと、依里子の耳が赤くなった。この反応は、喜んでいるのだろうか。

「なぁ依里子。おもちゃは何買ったんだ? 小声でいいから、教えてくれよ」
「……バイブ」

 蓮路は目を瞠いた。依里子には指でさえ一本しか挿入したことがないのだ。

「何、ナカにも欲しくなった?」

 そう問うと、依里子がますます赤くなった。

「あ、あなたと……使いたいの」
「……へぇ?」
「だ、駄目かしら?」

 不安げな表情の依里子だが、蓮路は「悪くない」と思った。いずれ依里子の処女をもらうつもりだが、痛みを与えないためまずはバイブで慣らすのも悪くはない。

「駄目じゃねーよ。……じゃ、この後俺んちで使ってみるか?」
「いいの?」
「いいに決まってんだろ。俺から誘ったんだ」

 ふたりは食事を会計をすませると、蓮路のアパートへと向かったのだった。



*前作(「え? 元アイドルで御曹司のお従兄ちゃんがわたしの専属クリフェラ係ですか!?」)をお読みになった方はおわかりかと思いますが、普通のファッションビルにアダルトグッズショップが入っていて、18歳未満でも入れる世界観です。
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