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4.蓮路の過去・1

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 蓮路れんじに告白されたのちも、依里子よりこは毎日放課後に、彼から濃厚な奉仕を受けた。体はますます感じやすくなり、心はともすれば蓮路に依存しそうになる。
 恋をしないと誓っていてもなお、行為の際に熱っぽく愛を囁かれると、つい「私もよ」と答えそうになってしまう――。

 それと同時に、「自分は蓮路の好意を利用しクリフェラ係を務めてもらっているのではないか」という後ろめたさを感じるようにもなってきた。クリフェラ係など、女の子なら誰でも持つものだから、そんな感情を覚える必要などないというのに。

(駄目ね、こんなことばかり考えて……)

 依里子は今日も、中等部3-Aの教室で蓮路を待っていた。
 だが、いくら何でも来るのが遅い。今日は高等部の蓮路のクラスも五限までだと言ってはいなかったか。もう、六限が始まりそうな時刻だ。SNSメッセージを送っても返信がない。
 依里子は不審に思い、自ら高等部を訪ねることにしたのだった。



 高等部1-Cの教室に近づくと、男女の言い争う声が聞こえてきた。蓮路だろうか。

「どうしても、私とヨリを戻す気はないってことね……!」
「ヨリも何も、アンタとは付き合ってねぇだろーが。アンタも承知の上で、俺のクリフェラを受けたんだろう」

 一人の女生徒が、蓮路に詰め寄っていた。

「……中等部の女子のクリフェラ係になって、付き合ってるんですって? その子と付き合えるなら……」
「まだ付き合っちゃいねーよ。俺の片思いだ」

 女生徒が間をおいて、意味あり気に相槌をうつ。

「ふぅん、そう……」
「なんだよ」

 蓮路が声をかけると、女生徒は憎々し気に蓮路を睨みつけて、言い放った。

「あなたみたいな男が、まともな恋愛なんてできるわけないでしょう! あなた、ひとまわり以上年上の教師のクリフェラ係だったんですってね。彼女に捨てられて、流しになった……」
「――どこでそれを」
「知ってる子は知ってるわよ。学園内の出来事ですもの」
「……っ」

 蓮路が動揺したとみて、女生徒はさらに言い募る。

「クリフェラ師として不特定多数の女を相手にするようになったあなたは、対価を要求した。女に奉仕するべき、男でありながら」

 女生徒はぞっとするような響きを載せて言う。

「あなたの好きだっていう中等部の女子だって、あなたの本性を知ったら逃げ出すんじゃないかしら」
「依里子はそんなヤツじゃねーよ」
「ふん、どうだか」
「……依里子とはヤッてねーからな」

 女生徒が息を呑む。

「なんですって!?」
「SEXしてねーんだよ。本気で惚れたんだ、ヤるヤらねーなんて些細な問題に感じるほどにな」
「な……っ」

 女生徒は肩を震わせ、すばやく平手を振りかぶった。
 蓮路が叩かれてしまう。教室の入り口で依里子は思わず声を張り上げた。

「蓮路さん!」
「!?」

 女生徒の張り手はまず蓮路に避けられないようなものではなかった。だが、依里子に声をかけられたことにより行動が遅れ、女生徒のてのひらは見事に蓮路の頬を打ったのだった。

「……つ」
「ふん。……どうやらあなたの想い人が来たようね。せいぜい、恋愛ごっこを楽しむといいわ」

 そう言い棄てて、彼女は依里子の隣をすり抜け教室を出て行った。

「蓮路さん! 大丈夫!?」

 頬を撫でる蓮路に走り寄り、依里子は声をかけた。

「女の力だ。こんなもん大したことねーよ」
「でも……」
「気にするこたねぇ。それより……話、聞いてたんだよな」

 依里子はこくりと頷いた。

「……時間あるなら、どっかで話せねぇか。ルームはゆっくりできねぇだろう」

 放課後に利用しているレンタルクリフェラルームはストゥプラ生の多い繁華街にあり、放課後から夜にかけては非常に混雑する。よって、滞在時間の延長がきかないのだ。

「しょーがねーな。ウチに来るか?」
「蓮路さんの家?」
「そうだ。狭くて汚ねーけどな」

 蓮路はたしか由緒ある和菓子屋の長男ではなかったか。それが狭くて汚い、とはどういうことだろう。
 依里子は疑問に思ったが、そのまま彼に付いて下校したのだった。
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