上 下
9 / 19

9.信じる気持ち

しおりを挟む
 わたしは眠れないままに朝を迎えた。

夕謡ゆうたと顔、合わせづらいな……)

 だけど、そういうわけにもいかない。重い体を叱咤し、わたしは朝の支度を開始した。



 ダイニングに足を踏み入れたわたしが目にしたのは、伯母さまと夢芽ゆめちゃんの言い争いだった。

「お母さま、ひどいわ! わたしはしんせい以外のクリフェラ係だなんて、ぜったいに嫌だって言っておいたのに!」

 いつも温和な夢芽ちゃんが、肩をいからせ声を荒げている。

「夢芽。あなたは九重くしげ家の次期当主なのよ。もっと色んな人と経験を積まなければならないわ。それに、結婚したらそうもいかなくなるでしょう。のびのびと楽しめるのは、今のうちなのよ」
「知らない人からのクリフェラ奉仕だなんて、なんにも楽しくないわ!」
「知らない仲ではないでしょう。四年前パーティーでお会いしたことがある筈よ。それに、彼はあなたの伴侶候補でもあるのだから」
「そんなの知らないわ! わたしの専属クリフェラ係は、真と清のふたりだけなんだから……!」

 そこで、ふたりはわたしの存在に気づいたようだった。
 夢芽ちゃんがふわふわの髪を揺らして駆けてきて、わたしに抱きついた。

詩菜しいなお姉さま……!」
「夢芽ちゃん」
「聞いていたでしょう、お姉さま。お母さまったらひどいんだから」
「夢芽!」

 伯母さまの声が怒気をはらむ。夢芽ちゃんはびくっとしたが、わたしに抱きつく腕にぎゅっと力を込めて、言った。

「ね、詩菜お姉さま。お姉さまだって、夕謡お兄さま以外の人からクリフェラを受けるなんて嫌でしょう!?」
「……っ」
「それなのに、お母さまったら……っ!」
「夢芽、いい加減にしなさい」

 伯母さまが声を低くして言う。そこへ、夕謡がやってきた。
 夢芽ちゃんは今度は夕謡の元へ駆けてゆき、訴えを繰り返した。

「夕謡、あなたからも何か言ってあげて頂戴」
「……母さん」

 夕謡は夢芽ちゃんの背中に手を回し、伯母さまを見据えて言った。

「僕は男だけど、夢芽の気持ち、わかるよ」

 そして夕謡は、こう続けたのだ。

「僕だって、詩菜以外のクリフェラ係はしたくないし、詩菜にも僕以外からのクリフェラ奉仕を受けてほしくない。それは――そんなに我儘なことかな。母さん」

 わたしは、息を止めて夕謡を見つめた。
 夕謡のゆるぎない口調に、伯母さまもたじろぎを見せる。

「夕謡、あなた……」
「夢芽は次期当主だから、結婚相手を見定める必要があるのもわかる。だけど今は、夢芽の気持ちを尊重してやってほしい」
「……」

 わたしは静かに語る夕謡を食い入るように見つめた。
 夕謡にとってクリフェラ係契約とは、もしかしたら恋人関係以上に重要なものなのかもしれない――その可能性に思い至った。

「とりあえず、朝っぱらからこんな争いをするのはやめようよ。みんな、学校遅刻しちゃうよ」

 夕謡の言葉に伯母さまは逡巡するように瞳を巡らせたが、やがてこう言った。

「……そう、ね」

 とりあえずこの話は打ち切りとなり、わたしたちはテーブルに着き朝食を摂ったのだった。



 その日の昼、わたしは何も言わず、いつものように夕謡からのクリフェラ奉仕を受けた。そして夜も、次の日も、また次の日も。

 ――僕だって、詩菜以外のクリフェラ係はしたくないし、詩菜にも僕以外からのクリフェラ奉仕を受けてほしくない――

 相変わらずわたしには触れさせてはくれないし、キスもくれないけれど、伯母さまに言い切った夕謡の心を信じてみよう――そう思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました

空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」 ――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。 今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって…… 気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?

【R18】自分でお尻に挿入しようとしていたら、初恋のハイスぺ幼馴染に「大丈夫?」と声をかけられ溺愛されました。

弓はあと
恋愛
タイトル通り、自分でお尻に挿入しようとしていた主人公が、憧れのスパダリ幼馴染にその現場を見られてしまうお話です。 ※『お尻に挿入』とありますが、BLではありません。 ※ヒロインが挿入したいものは、いやらしいものではありません。 ※少しだけ無理やりかも。 ※短めのお話です。 ※タイトルを微妙に変更しました。

同期の御曹司様は浮気がお嫌い

秋葉なな
恋愛
付き合っている恋人が他の女と結婚して、相手がまさかの妊娠!? 不倫扱いされて会社に居場所がなくなり、ボロボロになった私を助けてくれたのは同期入社の御曹司様。 「君が辛そうなのは見ていられない。俺が守るから、そばで笑ってほしい」 強引に同居が始まって甘やかされています。 人生ボロボロOL × 財閥御曹司 甘い生活に突然元カレ不倫男が現れて心が乱される生活に逆戻り。 「俺と浮気して。二番目の男でもいいから君が欲しい」 表紙イラスト ノーコピーライトガール様 @nocopyrightgirl

腹黒伯爵の甘く淫らな策謀

茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。 幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。 けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。 それからすぐ、私はレイディックと再会する。 美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。 『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』   そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。  ※R−18部分には、♪が付きます。 ※他サイトにも重複投稿しています。

【R18】スパダリ幼馴染みは溺愛ストーカー

湊未来
恋愛
大学生の安城美咲には忘れたい人がいる……… 年の離れた幼馴染みと三年ぶりに再会して回り出す恋心。 果たして美咲は過保護なスパダリ幼馴染みの魔の手から逃げる事が出来るのか? それとも囚われてしまうのか? 二人の切なくて甘いジレジレの恋…始まり始まり……… R18の話にはタグを付けます。 2020.7.9 話の内容から読者様の受け取り方によりハッピーエンドにならない可能性が出て参りましたのでタグを変更致します。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

溺愛彼氏と軟禁生活!?~助けてくれた彼に私が堕ちるまで~

すずなり。
恋愛
ある日、仕事をしてるときに急に現れた元カレ。 「お前を迎えに来た。一緒に帰るぞ。」 そんなことを言われるけど桃は帰る気なんてさらさらなかった。 なぜならその元カレは非道な人間だったから・・・。 「嫌っ・・!私は別れるって言った・・・!」 そう拒むものの無理矢理連れていかれそうになる桃。 そんな彼女を常連客である『結城』が助けに行った。 「もう大丈夫ですよ。」 助け出された桃は元カレがまだ近くにいることで家に帰れず、結城が用意したホテルで生活をすることに。 「ホテル代、時間はかかると思いますけど必ず返済しますから・・・。」 そんな大変な中で会社から言い渡された『1ヶ月の休養』。 これをチャンスだと思った結城は行動にでることに。 「ずっと気になってたんです。俺と・・付き合ってもらえませんか?」 「へっ!?」 「この1ヶ月で堕としにかかるから・・・覚悟しておいて?」 「!?!?」 ※お話は全て想像の世界のお話です。 ※誤字脱字、表現不足など多々あると思いますがご了承くださいませ。 ※メンタル薄氷につき、コメントは頂けません。申し訳ありません。 ※ただただ『すずなり。』の世界を楽しんでいただければ幸いにございます。

もちろん、どスケベ処女なご令嬢は流しのクリフェラ師に恋してしまったのです [再公開]

空廻ロジカ
恋愛
水瀬依里子(みなせ よりこ)15歳は、クリフェラ係――女の子のえっちな欲求を満たすための男性――に鷹司蓮路(たかつかさ れんじ)を選んだ。 自らの人一倍強い性欲をなだめるためには、流しのクリフェラ師として名を馳せる蓮路ほどのテクニックがなければ無理だと思ったのだ。 蓮路は流しをやめ、依里子の専属クリフェラ係となった。惹かれ合うふたりだが、依里子は恋なんてしないと決めていて――……。 *現実世界とは常識の異なる、別の世界線の物語としてお読みください。 *「え? 元アイドルで御曹司のお従兄ちゃんがわたしの専属クリフェラ係ですか!?」と同一世界観のシリーズものです。 【2020.04.15 : 非公開化】 【2022.02.04 : 再公開】

処理中です...