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9.信じる気持ち
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わたしは眠れないままに朝を迎えた。
(夕謡と顔、合わせづらいな……)
だけど、そういうわけにもいかない。重い体を叱咤し、わたしは朝の支度を開始した。
ダイニングに足を踏み入れたわたしが目にしたのは、伯母さまと夢芽ちゃんの言い争いだった。
「お母さま、ひどいわ! わたしは真と清以外のクリフェラ係だなんて、ぜったいに嫌だって言っておいたのに!」
いつも温和な夢芽ちゃんが、肩をいからせ声を荒げている。
「夢芽。あなたは九重家の次期当主なのよ。もっと色んな人と経験を積まなければならないわ。それに、結婚したらそうもいかなくなるでしょう。のびのびと楽しめるのは、今のうちなのよ」
「知らない人からのクリフェラ奉仕だなんて、なんにも楽しくないわ!」
「知らない仲ではないでしょう。四年前パーティーでお会いしたことがある筈よ。それに、彼はあなたの伴侶候補でもあるのだから」
「そんなの知らないわ! わたしの専属クリフェラ係は、真と清のふたりだけなんだから……!」
そこで、ふたりはわたしの存在に気づいたようだった。
夢芽ちゃんがふわふわの髪を揺らして駆けてきて、わたしに抱きついた。
「詩菜お姉さま……!」
「夢芽ちゃん」
「聞いていたでしょう、お姉さま。お母さまったらひどいんだから」
「夢芽!」
伯母さまの声が怒気をはらむ。夢芽ちゃんはびくっとしたが、わたしに抱きつく腕にぎゅっと力を込めて、言った。
「ね、詩菜お姉さま。お姉さまだって、夕謡お兄さま以外の人からクリフェラを受けるなんて嫌でしょう!?」
「……っ」
「それなのに、お母さまったら……っ!」
「夢芽、いい加減にしなさい」
伯母さまが声を低くして言う。そこへ、夕謡がやってきた。
夢芽ちゃんは今度は夕謡の元へ駆けてゆき、訴えを繰り返した。
「夕謡、あなたからも何か言ってあげて頂戴」
「……母さん」
夕謡は夢芽ちゃんの背中に手を回し、伯母さまを見据えて言った。
「僕は男だけど、夢芽の気持ち、わかるよ」
そして夕謡は、こう続けたのだ。
「僕だって、詩菜以外のクリフェラ係はしたくないし、詩菜にも僕以外からのクリフェラ奉仕を受けてほしくない。それは――そんなに我儘なことかな。母さん」
わたしは、息を止めて夕謡を見つめた。
夕謡のゆるぎない口調に、伯母さまもたじろぎを見せる。
「夕謡、あなた……」
「夢芽は次期当主だから、結婚相手を見定める必要があるのもわかる。だけど今は、夢芽の気持ちを尊重してやってほしい」
「……」
わたしは静かに語る夕謡を食い入るように見つめた。
夕謡にとってクリフェラ係契約とは、もしかしたら恋人関係以上に重要なものなのかもしれない――その可能性に思い至った。
「とりあえず、朝っぱらからこんな争いをするのはやめようよ。みんな、学校遅刻しちゃうよ」
夕謡の言葉に伯母さまは逡巡するように瞳を巡らせたが、やがてこう言った。
「……そう、ね」
とりあえずこの話は打ち切りとなり、わたしたちはテーブルに着き朝食を摂ったのだった。
その日の昼、わたしは何も言わず、いつものように夕謡からのクリフェラ奉仕を受けた。そして夜も、次の日も、また次の日も。
――僕だって、詩菜以外のクリフェラ係はしたくないし、詩菜にも僕以外からのクリフェラ奉仕を受けてほしくない――
相変わらずわたしには触れさせてはくれないし、キスもくれないけれど、伯母さまに言い切った夕謡の心を信じてみよう――そう思ったのだった。
(夕謡と顔、合わせづらいな……)
だけど、そういうわけにもいかない。重い体を叱咤し、わたしは朝の支度を開始した。
ダイニングに足を踏み入れたわたしが目にしたのは、伯母さまと夢芽ちゃんの言い争いだった。
「お母さま、ひどいわ! わたしは真と清以外のクリフェラ係だなんて、ぜったいに嫌だって言っておいたのに!」
いつも温和な夢芽ちゃんが、肩をいからせ声を荒げている。
「夢芽。あなたは九重家の次期当主なのよ。もっと色んな人と経験を積まなければならないわ。それに、結婚したらそうもいかなくなるでしょう。のびのびと楽しめるのは、今のうちなのよ」
「知らない人からのクリフェラ奉仕だなんて、なんにも楽しくないわ!」
「知らない仲ではないでしょう。四年前パーティーでお会いしたことがある筈よ。それに、彼はあなたの伴侶候補でもあるのだから」
「そんなの知らないわ! わたしの専属クリフェラ係は、真と清のふたりだけなんだから……!」
そこで、ふたりはわたしの存在に気づいたようだった。
夢芽ちゃんがふわふわの髪を揺らして駆けてきて、わたしに抱きついた。
「詩菜お姉さま……!」
「夢芽ちゃん」
「聞いていたでしょう、お姉さま。お母さまったらひどいんだから」
「夢芽!」
伯母さまの声が怒気をはらむ。夢芽ちゃんはびくっとしたが、わたしに抱きつく腕にぎゅっと力を込めて、言った。
「ね、詩菜お姉さま。お姉さまだって、夕謡お兄さま以外の人からクリフェラを受けるなんて嫌でしょう!?」
「……っ」
「それなのに、お母さまったら……っ!」
「夢芽、いい加減にしなさい」
伯母さまが声を低くして言う。そこへ、夕謡がやってきた。
夢芽ちゃんは今度は夕謡の元へ駆けてゆき、訴えを繰り返した。
「夕謡、あなたからも何か言ってあげて頂戴」
「……母さん」
夕謡は夢芽ちゃんの背中に手を回し、伯母さまを見据えて言った。
「僕は男だけど、夢芽の気持ち、わかるよ」
そして夕謡は、こう続けたのだ。
「僕だって、詩菜以外のクリフェラ係はしたくないし、詩菜にも僕以外からのクリフェラ奉仕を受けてほしくない。それは――そんなに我儘なことかな。母さん」
わたしは、息を止めて夕謡を見つめた。
夕謡のゆるぎない口調に、伯母さまもたじろぎを見せる。
「夕謡、あなた……」
「夢芽は次期当主だから、結婚相手を見定める必要があるのもわかる。だけど今は、夢芽の気持ちを尊重してやってほしい」
「……」
わたしは静かに語る夕謡を食い入るように見つめた。
夕謡にとってクリフェラ係契約とは、もしかしたら恋人関係以上に重要なものなのかもしれない――その可能性に思い至った。
「とりあえず、朝っぱらからこんな争いをするのはやめようよ。みんな、学校遅刻しちゃうよ」
夕謡の言葉に伯母さまは逡巡するように瞳を巡らせたが、やがてこう言った。
「……そう、ね」
とりあえずこの話は打ち切りとなり、わたしたちはテーブルに着き朝食を摂ったのだった。
その日の昼、わたしは何も言わず、いつものように夕謡からのクリフェラ奉仕を受けた。そして夜も、次の日も、また次の日も。
――僕だって、詩菜以外のクリフェラ係はしたくないし、詩菜にも僕以外からのクリフェラ奉仕を受けてほしくない――
相変わらずわたしには触れさせてはくれないし、キスもくれないけれど、伯母さまに言い切った夕謡の心を信じてみよう――そう思ったのだった。
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