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§ メスお兄さんのひみつの気持ち【5】
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「写真?」
るり花の疑問に答えたのは、あまねだった。
「チェキだよ。たっちゃんが持ってたのを拝借して」
「掠め盗ったのよね」
未椰子が意地悪な言い方をするが、あまねは否定しなかった。
女友達と撮ったチェキを分け合っていたら、たつるが欲しがったことがあったのをるり花は思い出した。
「それから」
あまねが未椰子を見据える。
「まさか、ぼくたちのキューピッドをするためだけに、地下室に閉じ込めたわけじゃないよね。いくら教授に気に入られてるきみでも、研究棟をあそこまで自由に使うのは大変だろうし」
「……」
未椰子は口を開かない。あまねはしばらく未椰子を見つめてから、やがて切り出した。
「すぐくんのことだね」
すぐるの名を聞いて、わずかに未椰子が肩を震わせる。どうやら図星らしかった。
未椰子とすぐるはるり花の大学の院生で、同じ数学研究会に所属しているのだという。
しばらくののち、未椰子は大きく息をついてから語り出した。
「……あんたと手を切ろうと思ったのよ。いい加減セフレなんてどうしようもない関係、精算したほうがいいでしょ。でもあんたはセックス依存だし、恋人を作ってあげないと」
「すぐくんのことが好きだから、ぼくと切れたかったんだね」
「……」
「でも、どうしてこのタイミングだったの。きみがすぐくんを好きなことは、ぼくは前から気づいてた。でもきみは、恋の成就よりも気軽に寝られる相手がいることを選んでるんだと思ってたよ。……ぼくと同じように、ね」
わずかに自嘲を滲ませたあまねの声に、るり花は拳で胸を押さえた。
あまねと未椰子のような、恋よりもセフレを選ぶ感覚はわからない。だけど、本気で恋した相手には臆病になってしまう――そんな感情は、るり花にだって理解できる。
るり花はくちびるを引き結び、俯いて自らの爪先を見つめた。
(保留にしたの……正しかったのかな。未椰子さんとの関係を解消して、あまねさんはこれからどうするんだろう。セックスしないで、いられるんだろうか)
つい先ほど出した結論に自信が持てなくなってしまう。
「すぐるさんが女に告白されてたのよ。断ってたけど……あれは好みの筈よ、相手が押してきたらきっと落ちる」
「それで焦っちゃったんだ。すぐくん童貞だし、色仕掛けされたらヤバイかもね」
あまねの言葉を受けて、未椰子はキッと目をつり上げた。
「あたしが! すぐるさんの童貞はあたしが貰うのよ!! 他の女になんて、奪わせない」
瞳に強い光を宿す未椰子を見つめ、あまねは言った。
「ぼくと不毛な関係を続けてるのが、すぐくんに不実だと思ったんだね」
「……っ、そう、よ」
あまねは大きくため息をつき、微笑を浮かべた。
「未椰子も結構、乙女だったんだ」
「……」
ばつが悪そうに瞳を逸らす未椰子から目線を外すと、あまねはるり花に向き直った。
「ぼくは帰るよ。るり花さんも、送っていくから」
るり花はあまねに促されるまま未椰子の部屋を出る。そしてふたり連れだってエレベーターに乗り込んだ。
沈黙を破って口を開いたのは、るり花だった。
「……あまねさんは、私に言ってくれました。えっちが好きなのは、悪いことじゃないって」
「うん?」
『セックスしたいなら、していいんだ。気持ちいいことも、えっちが好きなのも……悪いことじゃないから』
あの密室で、あまねがるり花にかけた言葉を思い返す。
「私、セックスでイけないくせにひとりHは大好きだなんて、いけないことだって自分を責めてた。欲求に正直になって、快楽に耽る……、そんな時間が大好きだけど、でもどこかで自分を許せないでいたんです」
「うん」
「……でも、あまねさんは」
エレベーターが一階に停まり、るり花たちは無人のエントランスに降り立った。
「自慰もセックスも、真っ向から肯定して、全身で快楽を愉しんでて」
「うん、そうだね」
「私はそれに、救われたのかもしれません。私もあまねさんみたいに、正直になりたいって思いました」
「るり花さん……」
るり花は立ち止まり、あまねを見上げて言った。
「だから私……やっぱり正直になります」
あまねの明るい色の瞳を見つめて、そして。
「あまねさんと、付き合いたいです。セックスだって……もっといっぱいしたい。何度も身体を繋げたら、お互いを隅々まで知り尽くしたら……」
「……そしたら?」
「心まで同じカタチになって、いつだって繋がってるみたいに共鳴しあう――……。ねぇ、そうでしょう、あまねさん?」
未椰子の部屋であまねに囁かれた睦言を、今度はるり花があまねに返す。
「るり花さん……」
るり花はあまねに向かって、左手をすっと伸ばした。
「私と、恋人になってください。……好きです、あまねさん」
るり花は真摯な目をしてあまねを見つめる。その視線の先で、あまねの瞳にじわりと涙が浮かんだ。
「ありがとう、るり花さん」
あまねはどこまでも澄みきって翳りのない、心に染み入るような笑みを浮かべる。そうして。
るり花の掌に、そっとあまねの手が重ねられたのだった。
るり花の疑問に答えたのは、あまねだった。
「チェキだよ。たっちゃんが持ってたのを拝借して」
「掠め盗ったのよね」
未椰子が意地悪な言い方をするが、あまねは否定しなかった。
女友達と撮ったチェキを分け合っていたら、たつるが欲しがったことがあったのをるり花は思い出した。
「それから」
あまねが未椰子を見据える。
「まさか、ぼくたちのキューピッドをするためだけに、地下室に閉じ込めたわけじゃないよね。いくら教授に気に入られてるきみでも、研究棟をあそこまで自由に使うのは大変だろうし」
「……」
未椰子は口を開かない。あまねはしばらく未椰子を見つめてから、やがて切り出した。
「すぐくんのことだね」
すぐるの名を聞いて、わずかに未椰子が肩を震わせる。どうやら図星らしかった。
未椰子とすぐるはるり花の大学の院生で、同じ数学研究会に所属しているのだという。
しばらくののち、未椰子は大きく息をついてから語り出した。
「……あんたと手を切ろうと思ったのよ。いい加減セフレなんてどうしようもない関係、精算したほうがいいでしょ。でもあんたはセックス依存だし、恋人を作ってあげないと」
「すぐくんのことが好きだから、ぼくと切れたかったんだね」
「……」
「でも、どうしてこのタイミングだったの。きみがすぐくんを好きなことは、ぼくは前から気づいてた。でもきみは、恋の成就よりも気軽に寝られる相手がいることを選んでるんだと思ってたよ。……ぼくと同じように、ね」
わずかに自嘲を滲ませたあまねの声に、るり花は拳で胸を押さえた。
あまねと未椰子のような、恋よりもセフレを選ぶ感覚はわからない。だけど、本気で恋した相手には臆病になってしまう――そんな感情は、るり花にだって理解できる。
るり花はくちびるを引き結び、俯いて自らの爪先を見つめた。
(保留にしたの……正しかったのかな。未椰子さんとの関係を解消して、あまねさんはこれからどうするんだろう。セックスしないで、いられるんだろうか)
つい先ほど出した結論に自信が持てなくなってしまう。
「すぐるさんが女に告白されてたのよ。断ってたけど……あれは好みの筈よ、相手が押してきたらきっと落ちる」
「それで焦っちゃったんだ。すぐくん童貞だし、色仕掛けされたらヤバイかもね」
あまねの言葉を受けて、未椰子はキッと目をつり上げた。
「あたしが! すぐるさんの童貞はあたしが貰うのよ!! 他の女になんて、奪わせない」
瞳に強い光を宿す未椰子を見つめ、あまねは言った。
「ぼくと不毛な関係を続けてるのが、すぐくんに不実だと思ったんだね」
「……っ、そう、よ」
あまねは大きくため息をつき、微笑を浮かべた。
「未椰子も結構、乙女だったんだ」
「……」
ばつが悪そうに瞳を逸らす未椰子から目線を外すと、あまねはるり花に向き直った。
「ぼくは帰るよ。るり花さんも、送っていくから」
るり花はあまねに促されるまま未椰子の部屋を出る。そしてふたり連れだってエレベーターに乗り込んだ。
沈黙を破って口を開いたのは、るり花だった。
「……あまねさんは、私に言ってくれました。えっちが好きなのは、悪いことじゃないって」
「うん?」
『セックスしたいなら、していいんだ。気持ちいいことも、えっちが好きなのも……悪いことじゃないから』
あの密室で、あまねがるり花にかけた言葉を思い返す。
「私、セックスでイけないくせにひとりHは大好きだなんて、いけないことだって自分を責めてた。欲求に正直になって、快楽に耽る……、そんな時間が大好きだけど、でもどこかで自分を許せないでいたんです」
「うん」
「……でも、あまねさんは」
エレベーターが一階に停まり、るり花たちは無人のエントランスに降り立った。
「自慰もセックスも、真っ向から肯定して、全身で快楽を愉しんでて」
「うん、そうだね」
「私はそれに、救われたのかもしれません。私もあまねさんみたいに、正直になりたいって思いました」
「るり花さん……」
るり花は立ち止まり、あまねを見上げて言った。
「だから私……やっぱり正直になります」
あまねの明るい色の瞳を見つめて、そして。
「あまねさんと、付き合いたいです。セックスだって……もっといっぱいしたい。何度も身体を繋げたら、お互いを隅々まで知り尽くしたら……」
「……そしたら?」
「心まで同じカタチになって、いつだって繋がってるみたいに共鳴しあう――……。ねぇ、そうでしょう、あまねさん?」
未椰子の部屋であまねに囁かれた睦言を、今度はるり花があまねに返す。
「るり花さん……」
るり花はあまねに向かって、左手をすっと伸ばした。
「私と、恋人になってください。……好きです、あまねさん」
るり花は真摯な目をしてあまねを見つめる。その視線の先で、あまねの瞳にじわりと涙が浮かんだ。
「ありがとう、るり花さん」
あまねはどこまでも澄みきって翳りのない、心に染み入るような笑みを浮かべる。そうして。
るり花の掌に、そっとあまねの手が重ねられたのだった。
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