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§ メスお兄さんのひみつの気持ち【1】
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「るり花! どこ行ってたんだよ!? 昼の後も戻ってこないで……って、あま兄ぃ!?」
揃って戻ったふたりに、たつるが驚いて目を見開く。
「ごめん、たっちゃん。ちょっと色々とあってね」
あまねは申し訳なさそうに謝る。だが追求がそれだけで済む筈はなかった。
「一体ふたりで、何処で何してたんだ?」
「……っ」
たつるに問われ、るり花は答えに窮してしまう。だが、あまねはるり花に意味ありげな目線を送った。
(あまねさん……?)
「ごめんね。たっちゃんには申し訳ないんだけど……」
あまねは手を伸ばし、るり花の肩を引き寄せた。
「るり花さんと恋人になりました」
「……!」
「――っ!?」
息を呑んだのはたつるだけではなかった。るり花もまた大きく息を呑み、目を丸くしてあまねを見上げる。
「え? ……え? ……いや、いやいやいや」
たつるが落ち着こうとするようにかぶりを振る。そして前髪を押さえながら、しどろもどろになって言った。
「いや、て、ていうか……あま兄ぃどうして俺に謝って……」
「だってたっちゃん、るり花さんのこと好きじゃない」
たつるは大きく目を瞠ってから、やがて顔を真っ赤に染めた。
「え、いやいや、いや……なんであま兄ぃ知って……っ」
「そりゃーわかるでしょ。あれだけ楽しそうに、何回もるり花さんの話をされたら」
「――っ」
呆れたように告げるあまねと、頭を抱えるたつるをよそに、るり花は呆然と佇んでいた。
(私たち、恋人同士って……)
そんなるり花を気にも留めず、あまねがたつるに尋ねた。
「ところでたっちゃん。未椰子を知らない?」
「未椰子さん? さあ……」
「絶対、来てる筈なんだよね。でも……捕まえさせないだろうな」
後半ひとりごつように呟いたあまねは、今度はるり花の手をとり、しっかりと握った。
「ぼくたち、これから急用ができたから。この埋め合わせはまた今度、ね」
たつるにそう告げ、るり花の手を引いて足早に歩き出す。
「ちょ……ちょっと、あまねさん! 待ってくださいってば!」
あまねがようやく足を止めたのは、キャンパスの出入り口付近だった。
「なに? るり花さん」
「なにって……ええと……私たちが……」
るり花はそこで言いよどんだ。あまねが薄く微笑み、続きを促す。
「私たち……恋人、だって……」
消え入るような声だったが、あまねはきちんと聞き取ったようだった。
「ああ、そのこと? ……もしかしてるり花さんは、嫌……かな?」
眉尻を下げて、小首を傾げる。捨てられた仔犬のような仕草に、るり花はどきりとしてしまう。
「るり花さんがぼくを嫌ってないってわかったら、嬉しくて……。ぼくは初めから、そのつもりだったよ。るり花さんだってそうだから……」
あまねはそこで声を潜め、るり花の耳に口を近づけた。
「ぼくと、寝たんでしょう?」
「……っ」
「それに」
あまねは触れるほど近くにくちびるを寄せ、声のトーンを落とす。そして、耳もとで蠱惑的に囁いた。
「ぼくとまた、セックス……したくない?」
「……っ!!」
るり花は真っ赤になって身を引く。頬が、あまねに囁かれた耳が熱い。
あまねは少し離れると、晴れやかな笑みを浮かべて言った。
「ぼくはまた、るり花さんとしたいな。ううん、えっちなことだけじゃなくて……るり花さんと恋人同士になって、いっしょに時を過ごしたい」
そして、るり花に向かってそっと左手を差し出す。
「……あまねさん」
戸惑うるり花を見つめやさしく微笑むあまねは、ゆっくりとるり花の答えを待った。
(――この手をとれば)
差し出されたあまねの手。この手をとれば、るり花はまた、あまねと――……
「るり花さん、ぼくといっしょに来てほしい」
重ねて乞うあまねの言葉を受け、るり花はわずかに目を伏せる。そしてすっと息を吸い込んだ。
「はい……、あまねさん」
るり花は差し出された掌に、自らの右手をそっと重ねたのだった。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
あまねがボトムの後ろポケットから鍵を取り出す。あまねとるり花、ふたりは金属製の玄関ドアの前に立っていた。
(たしかにいっしょに来てほしいって言われたけど、ここは――)
ここはマンションの一室ではないのか。
(そんな、いきなりお家になんて)
大学を出たあまねはタクシーを拾い、るり花を比較的新しそうなマンションへと連れてきたのだ。
「どうぞ、るり花さん」
あまねがドアを開け、るり花を室内へと誘う。るり花はおずおずと足を踏み出し、部屋に上がった。
リノリウムの床に、壁は白い打ちっぱなしのコンクリート。まるで実験室のような一室だ。
だが物の少ない室内は適度に散らかっており、そしてどこか、女性的な匂いがする。
「適当に座って、今コーヒー入れるから。砂糖はいくつ?」
キッチンへ向かうあまねがるり花に問いかける。
「あ……、二つで」
質問に答えたるり花は、辺りを見渡し赤い布張りのソファに腰掛けた。
肘掛けには無造作にアウターがかけられていて、ユニセックスなデザインだがある一点がるり花の目を惹いた。
(この前合わせ……女物だよね)
あまねなら、サイズさえ合えば女物を着てもおかしくないのかもしれないが……。
揃って戻ったふたりに、たつるが驚いて目を見開く。
「ごめん、たっちゃん。ちょっと色々とあってね」
あまねは申し訳なさそうに謝る。だが追求がそれだけで済む筈はなかった。
「一体ふたりで、何処で何してたんだ?」
「……っ」
たつるに問われ、るり花は答えに窮してしまう。だが、あまねはるり花に意味ありげな目線を送った。
(あまねさん……?)
「ごめんね。たっちゃんには申し訳ないんだけど……」
あまねは手を伸ばし、るり花の肩を引き寄せた。
「るり花さんと恋人になりました」
「……!」
「――っ!?」
息を呑んだのはたつるだけではなかった。るり花もまた大きく息を呑み、目を丸くしてあまねを見上げる。
「え? ……え? ……いや、いやいやいや」
たつるが落ち着こうとするようにかぶりを振る。そして前髪を押さえながら、しどろもどろになって言った。
「いや、て、ていうか……あま兄ぃどうして俺に謝って……」
「だってたっちゃん、るり花さんのこと好きじゃない」
たつるは大きく目を瞠ってから、やがて顔を真っ赤に染めた。
「え、いやいや、いや……なんであま兄ぃ知って……っ」
「そりゃーわかるでしょ。あれだけ楽しそうに、何回もるり花さんの話をされたら」
「――っ」
呆れたように告げるあまねと、頭を抱えるたつるをよそに、るり花は呆然と佇んでいた。
(私たち、恋人同士って……)
そんなるり花を気にも留めず、あまねがたつるに尋ねた。
「ところでたっちゃん。未椰子を知らない?」
「未椰子さん? さあ……」
「絶対、来てる筈なんだよね。でも……捕まえさせないだろうな」
後半ひとりごつように呟いたあまねは、今度はるり花の手をとり、しっかりと握った。
「ぼくたち、これから急用ができたから。この埋め合わせはまた今度、ね」
たつるにそう告げ、るり花の手を引いて足早に歩き出す。
「ちょ……ちょっと、あまねさん! 待ってくださいってば!」
あまねがようやく足を止めたのは、キャンパスの出入り口付近だった。
「なに? るり花さん」
「なにって……ええと……私たちが……」
るり花はそこで言いよどんだ。あまねが薄く微笑み、続きを促す。
「私たち……恋人、だって……」
消え入るような声だったが、あまねはきちんと聞き取ったようだった。
「ああ、そのこと? ……もしかしてるり花さんは、嫌……かな?」
眉尻を下げて、小首を傾げる。捨てられた仔犬のような仕草に、るり花はどきりとしてしまう。
「るり花さんがぼくを嫌ってないってわかったら、嬉しくて……。ぼくは初めから、そのつもりだったよ。るり花さんだってそうだから……」
あまねはそこで声を潜め、るり花の耳に口を近づけた。
「ぼくと、寝たんでしょう?」
「……っ」
「それに」
あまねは触れるほど近くにくちびるを寄せ、声のトーンを落とす。そして、耳もとで蠱惑的に囁いた。
「ぼくとまた、セックス……したくない?」
「……っ!!」
るり花は真っ赤になって身を引く。頬が、あまねに囁かれた耳が熱い。
あまねは少し離れると、晴れやかな笑みを浮かべて言った。
「ぼくはまた、るり花さんとしたいな。ううん、えっちなことだけじゃなくて……るり花さんと恋人同士になって、いっしょに時を過ごしたい」
そして、るり花に向かってそっと左手を差し出す。
「……あまねさん」
戸惑うるり花を見つめやさしく微笑むあまねは、ゆっくりとるり花の答えを待った。
(――この手をとれば)
差し出されたあまねの手。この手をとれば、るり花はまた、あまねと――……
「るり花さん、ぼくといっしょに来てほしい」
重ねて乞うあまねの言葉を受け、るり花はわずかに目を伏せる。そしてすっと息を吸い込んだ。
「はい……、あまねさん」
るり花は差し出された掌に、自らの右手をそっと重ねたのだった。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
あまねがボトムの後ろポケットから鍵を取り出す。あまねとるり花、ふたりは金属製の玄関ドアの前に立っていた。
(たしかにいっしょに来てほしいって言われたけど、ここは――)
ここはマンションの一室ではないのか。
(そんな、いきなりお家になんて)
大学を出たあまねはタクシーを拾い、るり花を比較的新しそうなマンションへと連れてきたのだ。
「どうぞ、るり花さん」
あまねがドアを開け、るり花を室内へと誘う。るり花はおずおずと足を踏み出し、部屋に上がった。
リノリウムの床に、壁は白い打ちっぱなしのコンクリート。まるで実験室のような一室だ。
だが物の少ない室内は適度に散らかっており、そしてどこか、女性的な匂いがする。
「適当に座って、今コーヒー入れるから。砂糖はいくつ?」
キッチンへ向かうあまねがるり花に問いかける。
「あ……、二つで」
質問に答えたるり花は、辺りを見渡し赤い布張りのソファに腰掛けた。
肘掛けには無造作にアウターがかけられていて、ユニセックスなデザインだがある一点がるり花の目を惹いた。
(この前合わせ……女物だよね)
あまねなら、サイズさえ合えば女物を着てもおかしくないのかもしれないが……。
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