淫魔王と堕ちた聖女 あなたの肉の棒をください

空廻ロジカ

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第三章 王子の覚悟、聖女の決意

╰U╯ⅩⅣ.王子の覚悟、聖女の決意(1)

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「サウラ=ウルの王子が行方不明?」

 ウォルフスの許に、サウラ=ウルへと潜ませた間諜からの報告が届いたのは、ミオリがマ・クバス=イオスに身を寄せてひと月後のことだった。

 ウォルフスは驚いたのち、苦虫を噛み潰したような表情をする。

「ついに神殿が王家までも粛清を始めたのか?」
「わかりません。ですが旗印たる王子を失ったことで、王家の力はますます弱まったようです」

 報告書を手に、エルシオが答えた。

 サウラ=ウル第一王子たるリュートの父母、王と正妃は健在だ。だが、神殿に対抗すべく元帥として軍を率いていたのは王子であるし、人心も王子に集まっていた。
 サウラ=ウルにはリュートと腹違いの弟王子もいるが、そちらは神殿がかいらいとして担ぎ上げていると言う。

「聖女にお伝えになりますか」
「……」

 エルシオの問いに、ウォルフスは押し黙った。
 ミオリとて神殿の関係者だから、いつまでも知らせないでおくわけにはいかない。だが――……。

 その時、ばたばたと足音がして執務室の前で止まった。入室許可をすると同時に駆け込んできたのは、侍従武官をさせている軍人だった。

「ただいま憲兵からの報告があり、城下で保護した男が陛下に拝謁願いたいとのことです!」
「誰なんだ、そいつは」
「サウラ=ウルの第一王子と名乗っているそうです!」
「……!! わかった、すぐに行く」

 急ぎ部屋を出たウォルフスに、軍人が声をかける。

「王子は、聖女の名をしきりに呼んでいるそうですが……」
「ミオリの?」
「はい」
「……」

 どうやらマ・クバス=イオスで聖女を匿っていることは、サウラ=ウルにも嗅ぎつけられていたらしい。

「お連れになりますか?」
「そうだな……」

 ウォルフスは一瞬の思案ののち、ミオリの元へ――自らの寝室へと足を急がせたのだった。

   † † †

「ウォルフス、リュート様がここに?」
「ああ、お前を呼んでいるそうだ」

 ミオリが連れてこられたのは、憲兵の詰所だった。
 簡素な石積みの建物に入ると、くすんだ金髪の男が簡易的に作られた寝台に横たわっている。

「リュート……様?」

 ミオリは驚きに目を見開いた。元々のリュートの髪は、お日様のように輝くハニーブロンドだ。だがしかし、今は汚れ、輝きは見る影もない。

「この臭い……」

 ウォルフスが何かに気づいたように顔をしかめる。
 リュートに付き添っていた憲兵が告げたのは、ウォルフスの想像どおりの現実だった。

「城下に潜んでいたところを柄の悪い連中に見つかり、拘束され、人間を物珍しがる女たちの玩具おもちやになっていたようです」
「……!」

 ミオリは驚いてリュートを見た。その美しい顔は薄汚れ、目の下には隈ができている。

 玩具おもちやというのは言葉以上の意味だと察せられた。きっと、自分がエルシオに襲われたときのような――否、それ以上のことをされたのだ。

「ミオリ……」

 リュートが乾いた唇を動かして、ミオリを呼んだ。

「よかった……やっと会えたね。本当なら、私がミオリを助け出したかった。だけど、反神殿派の決起が思ったより早くて……」

 リュートが弱弱しく微笑む。ミオリはこんなリュートの姿は見たことがなかった。彼は第一王子として、いつも輝くような笑顔を振りまいていたのに……。
 ミオリはリュートの手を取り、両手で包み込む。

「リュート様、わたしの為にここへ?」

 それには答えず彼は、ウォルフスのほうへと視線を向けた。

「彼が淫魔王かな。どうやら酷いことはされていないようだね」
「もちろんよ」
「よかった……ミオリが泣いていたら、私は彼を殺さなければならなかった」
「そんな」

 きれのようになりながらも、リュートはそんなことを言う。

「おい、俺は黙って殺されはしねぇぞ」

 ウォルフスが憮然として会話に加わった。

「そのようですね」

 リュートはミオリの助けを借りて上半身を起こした。そして、簡易ではあるが礼をとる。

「お初にお目にかかります、マ・クバス=イオスの王。私はサウラ=ウルの第一王子リュート。我が国の聖女を……ミオリを助けていただいて感謝します」
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