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第一章 淫魔の王と淫夢《ゆめ》みる聖女
╰U╯Ⅴ.淫魔王の甘い囁き
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サウラ=ウルの乾いた大地を、一頭の馬が往く。
石灰岩質の乾いた大地には河も湧き水もなく、緑を目にすることは少ない。
サウラ=ウルで水が豊富なのは、山脈からの地下水が流れ込む聖都チェレステ=ラクイアくらいなものなのだ。
聖女を鞍の前に載せたウォルフスは、ミオリが振り返ろうとする仕草を見せたので手綱を引き、馬脚を緩めた。
「どうした。危ないだろう」
儀式用の馬にしか乗ったことのないミオリを載せているため、大した速度は出していない。だが慣れないミオリだからこそ、馬上で身を捩るのは危ない。
「ごめんなさい。お願いがあるの」
ミオリは目を伏せ謝ったのち、ウォルフスを見上げて言った。
「何だ?」
「ヤヌアの村に寄れないかしら」
「ヤヌア?」
「わたしの故郷……聖都より南にあるから、方角は違わないと思うのだけど」
そういえば、そんな名前の村だったか。
「悪いがその提案には乗れねぇ。俺たちはあまり速く馬を駆けさせられないんだ。早馬は俺たちを追い越して、すでに情報が出回ってるかもしれないからな」
「そうね、……ごめんなさい」
ミオリは納得したようだが、ウォルフスは尋ねた。
「両親のことが気になるのか?」
「……」
ミオリは物知らずの箱入り聖女だが、神殿を追われまでしたのだ。さすがに、両親に累が及ぶ可能性に気づかないわけにはいかなかった。
「マ・クバス=イオスに着いたら、手の者を使って調べてやる。それまで待て」
「ありがとう、ウォルフス」
ミオリは弱々しく微笑んだ。
ウォルフスには迷惑をかけ通しだ。そもそも、彼にはミオリを助けることになんら利得はないのである。
「体は辛いか?」
「ううん、大丈夫」
ミオリは即座に否定したが、ウォルフスには彼女が相当疲労していることがわかっていた。
まったくと言っていい程出歩かない生活をしていた聖女が、慣れない馬上の旅で疲れない筈がないのだ。
ウォルフスはさきほどから逡巡していたことに結論を出すと、ミオリに尋ねた。
「ミオリ、昨晩淫夢を見たよな?」
「ええ。気づいてたの?」
「息が荒かったからな。熱でもあるのかと思って確認した」
「そう……」
ウォルフスはさらにミオリに尋ねる。
「なぁ、自慰をしないのは俺に遠慮してるのか?」
ミオリは僅かに小首を傾げた。初めて聞く言葉だ。
「自慰ってなに?」
ウォルフスは深いところから息を吐き出す。
やはり、そんなことだろうと思った。ミオリの知識は相当偏っている。
「……よくそれで耐えられるな、お前」
「肉の棒があれば、鎮められるって聞いたわ」
「欲情を鎮めるのは、何もそればかりじゃないぞ」
「そうなの?」
目を丸くしたミオリに、頷いてみせる。
「ああ」
ウォルフスは僅かに上体を屈め、ミオリの耳元にくちびるを近づけた。
「今晩は、俺がお前を慰めてやる」
「え?」
息のかかる耳たぶがこそばゆく、ミオリは肩を竦める。
「本当は疲れも取ってやりたいんだが、俺は指圧とかはできねぇからな」
「ウォルフス?」
ミオリは彼の意図がわからず、ただ耳がくすぐったくて身じろぎをした。
「頑張り屋のミオリに、ご褒美だ。満足するまでイかせてやるから、覚悟しとけよ?」
ウォルフスの声は深い低音だが、ぐっと甘さを滲ませた声音で囁かれ、ミオリの体がカッと熱くなる。
「う……ウォルフス」
耳たぶを熱い吐息がくすぐり、ミオリはぎゅっと目を閉じた。
「肉の棒はやらんぞ? だが、同じ部屋でハァハァされちゃこっちも堪らんからな」
「……っ」
ウォルフスの言うことはよくわからない。だが、肉の棒を欲しがるミオリに一歩、譲歩してくれたのだと察せられた。
二人はその後、黙って馬を進めた。
ミオリはウォルフスに預けた背中が殊更に意識されて、脳裡に淫夢が蘇りそうになるのを必死に堪えたのだった。
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