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第五章 聖都の夜、淫魔王の真実
╰U╯ⅩⅩ.聖都の夜、淫魔王の真実(3)
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リュートは振り向いたウォルフスの瞳をしっかりと見つめ、静かに問いかける。
「私はこの後王宮に凱旋する。そして近いうちに譲位がなされるでしょう。……我が国は正式に、マ・クバス=イオスと友好関係を結びたい。貴殿はどうお考えか?」
「勿論そのつもりだ。そうでなきゃ、手を貸したりはしねぇ」
ウォルフスもまた、リュートの問いに淀みなく答える。
それを受けてリュートは、さらにこう言った。
「それまで貴殿に、我が国に滞在してもらいたい」
ウォルフスは不可解に思い、眉を顰める。
「何故だ? ミオリとの婚礼を見せつけるつもりなのか?」
「そうではありません」
リュートは兵士に命じ、場から人払いをさせた。そして声を落とし、こう告げたのだ。
「私では、ミオリを幸せにはできない」
瞳を伏せたリュートの言葉に、ウォルフスは訝った。
「今更何言って――」
だがその次にリュートが言葉にしたことは、ウォルフスを動揺させるには充分すぎる内容だった。
「今の私は、男として役に立たないんだ」
リュートはあくまで静かに語ったが、ウォルフスは驚きに瞠目し、やがてリュートからわずかに目を逸らした。
「……すまねぇ」
リュートはマ・クバス=イオスに侵入した際、柄の悪い連中に弄ばれ、女淫魔たちに代わる代わる犯されたのだ。
「いや、そちらを責めるつもりはない。だが私には、ミオリの望みを叶えてやることができないのです」
「……」
そのまま、二人とも押し黙ってしまう。ミオリはわけがわからず、二人を交互に見た。
「あー……なんだ、それくらい……いや、それくらいってこともねぇけど……。それでお前は、ミオリを諦めるのか?」
ウォルフスの歯切れの悪い言葉に、リュートは鋭く言い返す。
「その言葉、そっくりそのまま貴殿に返そう」
「あ?」
リュートは瞳に強い光を宿し、ウォルフスを睨み付け、そして言った。
「淫魔王たる貴殿は、役立たずの恋敵がいるというくらいで、愛した女を諦めるのか!?」
「……っ」
ウォルフスは息を呑み、瞳を揺らした。彼は今、はるか年下の人間に気圧され、たじろいでいた。
「俺は……」
「ミオリが望む肉の棒は、貴殿だ。愛する女の望みを叶えられないほど、器の小さいのが淫魔王なのか!」
穏やかなリュートが常になく声を張り上げ、ウォルフスに詰め寄る。
ウォルフスは拳を握りしめ、彼らしくもなく俯き、足元を見つめた。
リュートの隣で成り行きを見守っていたミオリだったが、やがてきゅっとくちびるを噛むと、ウォルフスのほうを見遣った。
そして、静かに彼の決断を待つ。
「――」
しばしの沈黙ののち、ウォルフスは顔を上げた。次いでミオリを見つめ、彼は問うた。
「……ミオリ。お前は今でも、俺の肉の棒を望むか?」
「ウォルフス……」
ミオリは裸足の足を一歩踏み出し、ウォルフスに近づいた。
一歩、また一歩と彼に向かって歩いて行く。
「ウォルフス、わたし」
ウォルフスの眼前まで足を進めたミオリは、瞳を伏せ、すっと息を吸った。
そして吐き出すとともに、ウォルフスに語りかける。
「最後の夜、わたし――あなたに抱かれたかった」
ミオリがマ・クバス=イオスで過ごした最後の夜、二人は衝動に突き動かされ、求めあった。お互いを慰めあい、官能の夜を過ごした。
だがウォルフスは、ミオリに挿入しなかった。ミオリもまた、それをねだることはしなかった。
だけど今は。
ミオリは顎を持ち上げ、ウォルフスをしっかりと見上げた。そして。
「わたしに、あなたの肉の棒をください」
堕ちた聖女は静かに、愛する淫魔王に自らの望みを告げたのだった。
「私はこの後王宮に凱旋する。そして近いうちに譲位がなされるでしょう。……我が国は正式に、マ・クバス=イオスと友好関係を結びたい。貴殿はどうお考えか?」
「勿論そのつもりだ。そうでなきゃ、手を貸したりはしねぇ」
ウォルフスもまた、リュートの問いに淀みなく答える。
それを受けてリュートは、さらにこう言った。
「それまで貴殿に、我が国に滞在してもらいたい」
ウォルフスは不可解に思い、眉を顰める。
「何故だ? ミオリとの婚礼を見せつけるつもりなのか?」
「そうではありません」
リュートは兵士に命じ、場から人払いをさせた。そして声を落とし、こう告げたのだ。
「私では、ミオリを幸せにはできない」
瞳を伏せたリュートの言葉に、ウォルフスは訝った。
「今更何言って――」
だがその次にリュートが言葉にしたことは、ウォルフスを動揺させるには充分すぎる内容だった。
「今の私は、男として役に立たないんだ」
リュートはあくまで静かに語ったが、ウォルフスは驚きに瞠目し、やがてリュートからわずかに目を逸らした。
「……すまねぇ」
リュートはマ・クバス=イオスに侵入した際、柄の悪い連中に弄ばれ、女淫魔たちに代わる代わる犯されたのだ。
「いや、そちらを責めるつもりはない。だが私には、ミオリの望みを叶えてやることができないのです」
「……」
そのまま、二人とも押し黙ってしまう。ミオリはわけがわからず、二人を交互に見た。
「あー……なんだ、それくらい……いや、それくらいってこともねぇけど……。それでお前は、ミオリを諦めるのか?」
ウォルフスの歯切れの悪い言葉に、リュートは鋭く言い返す。
「その言葉、そっくりそのまま貴殿に返そう」
「あ?」
リュートは瞳に強い光を宿し、ウォルフスを睨み付け、そして言った。
「淫魔王たる貴殿は、役立たずの恋敵がいるというくらいで、愛した女を諦めるのか!?」
「……っ」
ウォルフスは息を呑み、瞳を揺らした。彼は今、はるか年下の人間に気圧され、たじろいでいた。
「俺は……」
「ミオリが望む肉の棒は、貴殿だ。愛する女の望みを叶えられないほど、器の小さいのが淫魔王なのか!」
穏やかなリュートが常になく声を張り上げ、ウォルフスに詰め寄る。
ウォルフスは拳を握りしめ、彼らしくもなく俯き、足元を見つめた。
リュートの隣で成り行きを見守っていたミオリだったが、やがてきゅっとくちびるを噛むと、ウォルフスのほうを見遣った。
そして、静かに彼の決断を待つ。
「――」
しばしの沈黙ののち、ウォルフスは顔を上げた。次いでミオリを見つめ、彼は問うた。
「……ミオリ。お前は今でも、俺の肉の棒を望むか?」
「ウォルフス……」
ミオリは裸足の足を一歩踏み出し、ウォルフスに近づいた。
一歩、また一歩と彼に向かって歩いて行く。
「ウォルフス、わたし」
ウォルフスの眼前まで足を進めたミオリは、瞳を伏せ、すっと息を吸った。
そして吐き出すとともに、ウォルフスに語りかける。
「最後の夜、わたし――あなたに抱かれたかった」
ミオリがマ・クバス=イオスで過ごした最後の夜、二人は衝動に突き動かされ、求めあった。お互いを慰めあい、官能の夜を過ごした。
だがウォルフスは、ミオリに挿入しなかった。ミオリもまた、それをねだることはしなかった。
だけど今は。
ミオリは顎を持ち上げ、ウォルフスをしっかりと見上げた。そして。
「わたしに、あなたの肉の棒をください」
堕ちた聖女は静かに、愛する淫魔王に自らの望みを告げたのだった。
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