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第四章 秋、離宮にて

╰U╯ⅩⅦ.秋、離宮にて(2)

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「……!!」
「な……っ」

 さすがのリュートも動揺し、大きく目を見開いた。ミオリも膝から折れそうになり、慌てて脚に力を込める。
 彼らの前に立つ将軍はミオリに向かって向き直り、頭を下げた。

「申し訳ございません、聖女。手の者が御両親をお連れする手筈だったのですが、道中、神殿側の刺客に襲われ……」
「……そう、ですか……」

 ミオリはくずおれてしまわないよう、全身に気を配った。

「神殿側は、聖女を差し出さねば御尊父、御母堂の命はない、と……」
「……くそっ」

 リュートが柄にもなく乱暴に吐き棄てる。

「それで、期限は」

 続いてリュートは唸るような声で将軍を問いただした。

「三日後までに、とのことでございます」
「……っ」

 ミオリは息を呑み、リュートはぎり、と奥歯を噛み締めた。あまりにも性急である。

「……わかった。後ほど軍議を開く。ご苦労だった、将軍」
「御意」

 将軍が部屋を辞していったのち、リュートは再び長椅子に腰掛けた。膝の上で手を組み、難しい顔をしている。

 しばらく彼は、そのまま考え込んでいた。ミオリもまたリュートのかたわらに佇み、静かに考えを纏める。

「……ミオリ」

 やがてリュートが顔を上げ、ミオリを見据えて言った。

「きみは、どうしたい? なんとしてでもご両親を助けたいか?」

 ミオリはリュートをしっかりと見つめ、彼の問いに答える。

「はい」

 その声音には、まったく淀みがない。すでに心は、決めていたのだ。

「……そうか」

 リュートは俯き、何かをこらえるようにくちびるを噛み締める。そして、こう続けた。

「それがミオリの望みならば、私はきみの意思を尊重しよう」
「リュート様」

 ミオリはリュートに一歩近づき、彼の手をとった。

「ありがとう、ございます」

 だがリュートは目を伏せ、ミオリに謝った。

「……ご両親を神殿側に奪われたのは、私の不手際だ。すまない、ミオリ」
「そんな」

 リュートはどこか遠くを見るように瞳を逸らし、そしてこう言う。

「こんなことなら、きみをマ・クバス=イオスから連れ帰らないほうが良かったのかもしれないね。――ミオリは……」
「リュート様?」

 リュートが言葉を切ったので、ミオリは怪訝そうに尋ねる。リュートは少し間を置いて、絞り出すように言葉にした。

「ミオリは淫魔王を……ウォルフス王を愛しているんだろう?」

 リュートの声は震えていた。今までずっと口に出せずにいたことをようやく吐き出した――そんな口ぶりだった。

「リュート様……そんなこと」
「いいやミオリ、私にはわかる。ミオリがどれだけ彼を愛しているのか、そして、彼もきっと……」
「リュート様……」
「――いつか」

 リュートは彼の名を呼ぶミオリの声に被せて言った。

「いつか、ミオリが望むものを与えてやれるのは私だと思っていた。ミオリを抱いて、慰めるのは私だと……そう信じてきたんだ」
「……」

 ミオリは少し上体を屈め、彼の両手を取った。リュートの指先は氷のように冷たく、わずかに震えている。
 ミオリはそのままリュートの手を握りしめ、暖めるように包み込んだ。

 リュートはそれからしばらくの間、黙っていた。そして。

 やがて口を開けたとき、彼はミオリにこう命じたのだった。

「ミオリ――いや、聖女。サウラ=ウルの王太子として命ずる。今宵、私の寝室にはべれ」
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