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13-2.うらなり令息の純愛〈承前〉

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「……まだそんなこと言うんだ」

 ゲラルトは肩をすくめた。先ほどまでとは打って変わり余裕のにじみ出るその仕草に、私は怒りを覚えた。

「誰が! ストーカーとなんて結婚するものですか!」
「確かに僕はストーカーだけど、誰よりも君を愛してるよ」
「私はあなたを愛してない! あなたと結婚したくないの!!」
「じゃあ」

 彼はそこで言葉を切った。

「ソルディエント・ヴァン・ホーヴェンを愛してる?」

「……それ、は」
「即答できないんだ」
「…………」

 私は押し黙った。
 だって、愛してると言ったとて仕方がないではないか。彼には、子まで設けた相手がいるのだ。

「ねぇルミリエ。僕だったらどんな君でも愛せる。君に十人も子どもが居たって、君が八十歳のおばあちゃんだって愛せるよ。ずっと前世から愛し続けてるんだ、そんなの些細な問題だよ」
「ゲラ……ルト」
「ねぇ、それが本当の愛ってものじゃない?」

 私はうつむいた。どんなソルディエントだろうと愛し抜けない私は、本当に彼を愛しているわけではない——ゲラルトが暗に示した指摘は、私の痛いところを突いた。
 ソルディエントは、私に都合良く快楽を与えてくれた。私を甘やかし、快楽だけを与え処女は奪わない。リスクがあるのは忍び込んでくるソルディエントだけだ。
 だから、いつ彼の気まぐれで関係が終わっても仕方が無かったし、私もそれ以上を求めるのは間違っていたのだ。

「……ルミリエ」

 向かいのソファに座るゲラルトが立ち上がる。そして、私の隣までやってきて腰掛けた。
 ゲラルトが腕を伸ばし私を抱き寄せる。私は身を硬くしたままだったが、抵抗はせず彼に引き寄せられた。

「君を大事にする。うんとうんと、大事にするよ。だから、僕のものになって……」

 いつになく切ない声音で囁かれた。そして、それだけでは足りないと思ったのか。

「これからは、父さんにだってもっと強く言えるように、頑張るから」

 そう付け足した。彼はきっと、相当父親に抑圧されてきたのだろう。
 私を手に入れるためのこの策略も、きっと彼にとっては一世一代の決心をして実行したことなのだろう。

 私の背を抱くゲラルトの指から、微かな震えが伝わってくる。自らをストーカーだと言い——事実ストーカーなのだが——愛を押しつけてくる彼であっても、私に受け入れられるか不安で怖いのだ……。

 私は、ゲラルトに頷き返すことができなかった。けれどその代わりに。
 そっと自らも腕を持ち上げ、彼の——ゲラルトの背中に回したのだった。
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