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11.ご令息の放蕩
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オルゴールの音色がだんだんと間延びしてゆく。もう何回、発条を巻きなおしただろうか。
私は今度こそぱたりと蓋を閉じた。何度も聴いていても仕方がない。
「お嬢様……」
そんな私を、アルマが背後で見つめている。
——もう、二週間以上もソルディエントの訪れがない。こういう時、秘密の関係というのは連絡手段がなくて辛いな、と思う。
私はため息をつくと、抽斗から読み止しの本を取り出した。とりあえず、気を紛らわすしかない。
アルマは気の毒そうな眼差しで私を見つめていたが、やがて部屋を出て行った。
私は本を開き、頁に目線を滑らせる。だが……
——ちっとも、内容が頭に入ってこない。私は読書を諦め立ち上がり、ぽすりとベッドに寝ころんだ。
そのままごろごろしていると、アルマがティーセットを手にして戻ってきた。
「アルマ?」
「お嬢様、お茶にいたしましょう」
アルマは自分のぶんのティーカップも用意していた。彼女は使用人ではあるが、お茶するときは付き合ってくれと頼んであるのだ。
私がはのろのろと立ち上がり、ソファに腰かけた。
アルマがカカオ入りの茶葉を使ったミルクティーを淹れてくれ、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「お話があるんです」
「え?」
私がカップに口をつけると、アルマはそう切り出した。だが、アルマはなかなか次の言葉を言わない。
「アルマ?」
「お嬢様……ソルディエント様の事なんですが」
言いにくそうに話すアルマに、私は先を促す。
「隠し子が出てきたんです」
「……は?」
「正確にはまだご出産前なんですが……、ソルディエント様のお子を妊娠されている方がいらっしゃるんです」
「…………」
いや待て。ソルディエントは童貞ではないのか。
「アダルベルト男爵家のご令嬢で、ミカエラ様という女性です」
「アダルベルト……」
聞いたことのない名前だ。売買の激しい男爵位を持つ家を、伯爵令嬢である私が知らないのも無理はない。
「それは確かなことなの? 彼は……ソルディエントは認めているの?」
「そこまではわかりかねますが……」
「……そう」
私はソーサーにティーカップを置いた。じっと、中の紅茶を見つめる。水面は揺れていたが、やがてその振動も何事もなかったかのように収まった。
——私の心も、このように静かだったらいいのに。
「話してくれてありがとう、アルマ」
「お嬢様……」
「大丈夫よ。彼とは、恋人でもなんでもなかったのだもの」
「…………」
私はため息を吐くと、アルマに背を向けて立ち上がった。
「悪いけれど、少し一人にして頂戴」
アルマがそっと部屋を出て行って、私は。
ひと筋、ふた筋と涙が頬を伝ってゆく。涙はやがて鎖骨のあたりまで流れ、そして胸元を濡らした。
——私は立ち尽くしたまま、声を殺して静かに泣き続けたのだった。
私は今度こそぱたりと蓋を閉じた。何度も聴いていても仕方がない。
「お嬢様……」
そんな私を、アルマが背後で見つめている。
——もう、二週間以上もソルディエントの訪れがない。こういう時、秘密の関係というのは連絡手段がなくて辛いな、と思う。
私はため息をつくと、抽斗から読み止しの本を取り出した。とりあえず、気を紛らわすしかない。
アルマは気の毒そうな眼差しで私を見つめていたが、やがて部屋を出て行った。
私は本を開き、頁に目線を滑らせる。だが……
——ちっとも、内容が頭に入ってこない。私は読書を諦め立ち上がり、ぽすりとベッドに寝ころんだ。
そのままごろごろしていると、アルマがティーセットを手にして戻ってきた。
「アルマ?」
「お嬢様、お茶にいたしましょう」
アルマは自分のぶんのティーカップも用意していた。彼女は使用人ではあるが、お茶するときは付き合ってくれと頼んであるのだ。
私がはのろのろと立ち上がり、ソファに腰かけた。
アルマがカカオ入りの茶葉を使ったミルクティーを淹れてくれ、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「お話があるんです」
「え?」
私がカップに口をつけると、アルマはそう切り出した。だが、アルマはなかなか次の言葉を言わない。
「アルマ?」
「お嬢様……ソルディエント様の事なんですが」
言いにくそうに話すアルマに、私は先を促す。
「隠し子が出てきたんです」
「……は?」
「正確にはまだご出産前なんですが……、ソルディエント様のお子を妊娠されている方がいらっしゃるんです」
「…………」
いや待て。ソルディエントは童貞ではないのか。
「アダルベルト男爵家のご令嬢で、ミカエラ様という女性です」
「アダルベルト……」
聞いたことのない名前だ。売買の激しい男爵位を持つ家を、伯爵令嬢である私が知らないのも無理はない。
「それは確かなことなの? 彼は……ソルディエントは認めているの?」
「そこまではわかりかねますが……」
「……そう」
私はソーサーにティーカップを置いた。じっと、中の紅茶を見つめる。水面は揺れていたが、やがてその振動も何事もなかったかのように収まった。
——私の心も、このように静かだったらいいのに。
「話してくれてありがとう、アルマ」
「お嬢様……」
「大丈夫よ。彼とは、恋人でもなんでもなかったのだもの」
「…………」
私はため息を吐くと、アルマに背を向けて立ち上がった。
「悪いけれど、少し一人にして頂戴」
アルマがそっと部屋を出て行って、私は。
ひと筋、ふた筋と涙が頬を伝ってゆく。涙はやがて鎖骨のあたりまで流れ、そして胸元を濡らした。
——私は立ち尽くしたまま、声を殺して静かに泣き続けたのだった。
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