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7-2.もうひとりの転生者(?)〈承前〉

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「まずは手当てをしないといけないわね。馬車までは少しあるし、どうしましょう」
「……仕方ありませんね。琥珀亭——知り合いの店です——に運びましょう」
「いいの? アルマ」
「女将は情に厚い人ですからね。あたしの頼みなら聞いてくれるし、行き倒れを見捨てるようなことはしません」

 私たちは力を合わせ、彼の体を仰向けにした。そして水筒を傾け、口に近づけた。
 一滴の水滴が、彼の乾いたくちびるを濡らす。

「う……ん……」

 私とアルマは固唾を飲んで、彼が瞳を開くのを待った。黒く長い睫毛が上下したのち、彼は瞳を見開いた。

「気がつかれましたか?」

 私が声をかけるも、彼は瞳を大きく見開いたまま動かない。その視線は、ぴったりと私に据えられている。

「えぇと……」
「はい、起きられるなら起きてくださいね」

 ひたすらに見つめられ居心地が悪くなった私をよそに、アルマが彼の背に手を添えて上体を起こした。

「……あの、あなた、お名前は? この先の宿屋まで歩けるかしら?」
「みつけた……」
「はい?」

 彼は戸惑う私の両手をすばやく掴み、ぎゅっと握りしめた。そして、陶然とこう囁いたのだ。

「見つけた……ルミリエ……!」

 私は驚愕に目を見開いた。彼の顔に見覚えはない。先日のお茶会で見かけた顔でもない筈だ。

「……どこかでお目にかかったことが?」

 私が慎重に尋ねると、彼はその瞳を輝かせたまま急き込んで言った。

「な、ないけどっ、でも僕は知ってたんだ! ルミリエが僕の恋人だって……彼女の生まれ変わりだって……!」
「えっ」

 驚いて手を引こうとする私だったが、彼は私の手をしっかりと握りしめて離さない。

「あぁルミリエ、やっと会えた。何度も手紙を出したんだよ。この間は……げほっ、げえっほっ、ごほ……っ」
「だ、大丈夫ですか?」

 彼は大きく咳き込んだ。目覚めたばかりなのに早口で喋ったからだろう。

「の、喉が、乾いて……けほっ」
「それだけ喋れるなら、歩けますよね。さぁ、行きましょう」

 若干冷たい声でアルマが言い、彼を立たせた。彼はおとなしく立ち上がり、アルマの差し出すまま彼女に肩を預けた。
 その様子から、人に世話されるのに慣れているのだろうと想像がつく。

「お嬢様、こちらです」
「……ええ」

 私はわずかに深呼吸をした。彼はとんでもないことを言った。私が自分の恋人だと——自らの恋人の生まれ変わりなのだと。
 彼も、転生者なのだろうか? そして彼の言う、恋人の生まれ変わりとは本当のことなのだろうか……?
 思考の海に沈みそうになりながらも、私はアルマについて彼女の知り合いの宿屋——琥珀亭へと向かったのだった。
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