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7-1.もうひとりの転生者(?)

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 その日私は街に出ていた。じつに五年ぶりの街への外出である。
 というのも、ソルディエントへのお返しの品を探しに来たのである。母は品物を取り寄せると言ったが、私は自分の目で選びたかったのだ。

 私は辺りを見渡した。道幅が狭く、人通りの少ない通りではあるが綺麗に整えられている。

「この辺りも、綺麗になったわね」
「旦那さまがご尽力されましたから」

 私の父・ヘイゼラード伯爵はあれでなかなかの傑物なのである。
 ノブレス・オブリージュを座右の銘とする父は、事業で成した財を公共の福祉に注ぎ込んでいるのだ。

「石畳の水捌けをよくしましたし、下水道も整備しました。環境が整ったことで、お店もできてきましたし!」

 供として付いて来てくれたアルマが誇らしげに語る。アルマは娼館育ちの孤児だった自分を使用人として引き取った父に、とても感謝しているのである。

「もう少し行くと知り合いの宿屋があります。パン屋も兼ねていて、女将さんの焼くシュトーレンは絶品なんです。お嬢様、休憩しませんか?」

 アルマはかなり興奮している。彼女は時おり街に出ているが、私を連れ出せたことが嬉しいのだと思う。

「そうね、わたくしもお腹が空いたわ。アルマのお知り合いにもご挨拶しなきゃね」
「では行きましょう、お嬢様!」

「パ、パン……」

 その時、何やら声がした気がして、私たちはあたりを見渡した。
 声が聞こえたと思われる方向には、大きなゴミ箱があるのみだ。

 首を傾げつつ、私たちが立ち去ろうとした瞬間だった。

「シュトーレン……!」

 がたんと音がすると同時に、何者かが叫びながら飛び出して来た。ゴミ箱の中からである。

「ひっ……っ」
「お嬢様!」

 そのゴミまみれの人物は、私に向かって手を伸ばし——私は——。
 私は、なんともなかった。
 その人物は派手な音をたててすっ転んだのである。どうやら、ゴミ箱の縁に足を引っ掛けたようだ。

「…………」

 頭から転んだその人物は、うつ伏せの状態で伸びている。汚れたシャツとズボン——背は高くないが男性のようだ。

「あの、あなた、大丈夫?」

 私はしゃがみこんで声をかけた。とても大丈夫とは思えないが、そう言うしかない。

「お嬢様、いけません!」
「いいのよ。見たところ衰弱してるようだし、危険はないと思うわ」
「ですが……」

 アルマを押しとどめ、私はさらに彼を観察した。
 シャツはけして安物ではないが、所々破れ、血が滲んでいる。痩せた体は元からなのか、食べていないのか……。
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