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5-2.遊び人の本懐〈承前〉☆
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「……何が目的ですか」
ついに部屋へ足を踏み入れたソルディエントに、私は低い声で唸るように問うた。答えなどわかりきっているというのに。
「君の体、かな」
やっぱり、ヤリ目的なのだ。私は観念した。
私はもともと、貞操自体を重んじているわけではない。ヒーローと恋に落ち、捨てられることを恐れているのだ。
——こんなやり方で恋になんて落ちるもんか。
「ならさっさとヤっちゃってくださいよ。でも、あなたを好きになることはありませんけど」
彼は若干目を身開き、そしておかしそうに笑った。
「何がおかしいんですか、このヤリ目!」
「やっぱり面白いな、ルミリエは」
「……夢小説書いてるからですか」
「ユメショウセツ? ああ、君と兄貴のいやらしい物語のこと?」
私は真っ赤になった。だが、今更否定しても仕方がない。彼には証拠を握られているのだ。
「ノート……返してください」
「嫌だよ。あれは俺のオカズにするから」
「は!?」
「相手が兄貴ってのは気にくわないけど、ルミリエがあんな物語を書いて、その体を濡らしてると思うと——極上の興奮材料だよね」
「やめてください! 早くノートを返して!!」
私は彼の服を剥ぎ取らん勢いで、ソルディエントに詰め寄った。
「いやぁ、積極的だね。あいにくノートは家に置いてきたんだ。厳重に隠したし、俺以外に知られることはないから安心して」
「あなたに知られたことが、一番安心できないんですが!」
「そうかもね。でも、貞操までは奪わないから大丈夫」
「は?」
さっきと言ってることが違うではないか。
「あれは冗談だよ。俺は君に好きになってもらいたいんだ。酷いことをするつもりはないよ」
私はまじまじとソルディエントを見つめた。本当だろうか。
「じゃあ、どうしてこんな泥棒まがいの真似を……」
「そうでもしないと、引きこもりの君とは会えないじゃないか」
「昼に会ったじゃないですか」
「二人きりで、会いたいんだ」
「…………」
彼は何が目的なのだろうか。遊び人なのは噂からもそのふるまいからも間違いないが、私に対しては(非常識ではあるものの)それなりに節度を持って接してくれている。
「……ねぇ、君のなかの兄貴を、俺で上書きさせて?」
彼はそう言うと、私の肩と腰に手を廻してきた。
「何するんですかっ」
「気持ちのいいこと」
そのまま強引に抱きかかえられ、ベッドまで運ばれる。言ってることが二転三転しているではないか。
ソルディエントはベッドに横たえた私に、難なく覆い被さった。
「貞操は奪わないけど、君を気持ちよくさせたいんだ。物語で兄貴にされたこと、全部俺がしてあげるから……」
「……っ」
そうして、前髪をわけて額にくちづけを落とされる。
私は、抵抗するべきか悩んでいた。
「あの、抵抗したらバラすんですよね?」
「うーん……そうかもね?」
彼の答えはなんとも曖昧だ。そうしている間にも体の上を手が這い廻り、やがて胸のふくらみを掌で覆われる。
「やわらかい……」
掠れた声で耳元にささやかれ、熱く湿った吐息がかかる。その色っぽさに、背筋がぞくぞくするのを感じた。
(これだから色男は……っ)
「ここ、尖ってきたね」
「……ん……っ」
夜着の上から指先で先端に触れられ、指先をくるくると回し押し付けられる。あきらかな快感に、私は吐息を漏らした。
(ヤらないなら、いいかなぁ……)
私は葛藤し始めた。恥ずかしながら体は快楽を欲している。私だって年頃の女なのだ。
最後までしないというのが嘘、あるいはなし崩しに進まれてしまう可能性もあるにはあるが——そこまで考えて、私はソルディエントを信じたがっている自分に気が付いた。
「……あなたのこと、信じていいの?」
「貞操を心配してる? それだったら安心して。俺は、君が気持ちよくなることしかしないよ」
そう断言され、胸がきゅんと高鳴った。
「もちろん、いずれは君と結ばれたいと思ってるけどね。それは、君が俺を好きになってくれてからだよ」
ついに部屋へ足を踏み入れたソルディエントに、私は低い声で唸るように問うた。答えなどわかりきっているというのに。
「君の体、かな」
やっぱり、ヤリ目的なのだ。私は観念した。
私はもともと、貞操自体を重んじているわけではない。ヒーローと恋に落ち、捨てられることを恐れているのだ。
——こんなやり方で恋になんて落ちるもんか。
「ならさっさとヤっちゃってくださいよ。でも、あなたを好きになることはありませんけど」
彼は若干目を身開き、そしておかしそうに笑った。
「何がおかしいんですか、このヤリ目!」
「やっぱり面白いな、ルミリエは」
「……夢小説書いてるからですか」
「ユメショウセツ? ああ、君と兄貴のいやらしい物語のこと?」
私は真っ赤になった。だが、今更否定しても仕方がない。彼には証拠を握られているのだ。
「ノート……返してください」
「嫌だよ。あれは俺のオカズにするから」
「は!?」
「相手が兄貴ってのは気にくわないけど、ルミリエがあんな物語を書いて、その体を濡らしてると思うと——極上の興奮材料だよね」
「やめてください! 早くノートを返して!!」
私は彼の服を剥ぎ取らん勢いで、ソルディエントに詰め寄った。
「いやぁ、積極的だね。あいにくノートは家に置いてきたんだ。厳重に隠したし、俺以外に知られることはないから安心して」
「あなたに知られたことが、一番安心できないんですが!」
「そうかもね。でも、貞操までは奪わないから大丈夫」
「は?」
さっきと言ってることが違うではないか。
「あれは冗談だよ。俺は君に好きになってもらいたいんだ。酷いことをするつもりはないよ」
私はまじまじとソルディエントを見つめた。本当だろうか。
「じゃあ、どうしてこんな泥棒まがいの真似を……」
「そうでもしないと、引きこもりの君とは会えないじゃないか」
「昼に会ったじゃないですか」
「二人きりで、会いたいんだ」
「…………」
彼は何が目的なのだろうか。遊び人なのは噂からもそのふるまいからも間違いないが、私に対しては(非常識ではあるものの)それなりに節度を持って接してくれている。
「……ねぇ、君のなかの兄貴を、俺で上書きさせて?」
彼はそう言うと、私の肩と腰に手を廻してきた。
「何するんですかっ」
「気持ちのいいこと」
そのまま強引に抱きかかえられ、ベッドまで運ばれる。言ってることが二転三転しているではないか。
ソルディエントはベッドに横たえた私に、難なく覆い被さった。
「貞操は奪わないけど、君を気持ちよくさせたいんだ。物語で兄貴にされたこと、全部俺がしてあげるから……」
「……っ」
そうして、前髪をわけて額にくちづけを落とされる。
私は、抵抗するべきか悩んでいた。
「あの、抵抗したらバラすんですよね?」
「うーん……そうかもね?」
彼の答えはなんとも曖昧だ。そうしている間にも体の上を手が這い廻り、やがて胸のふくらみを掌で覆われる。
「やわらかい……」
掠れた声で耳元にささやかれ、熱く湿った吐息がかかる。その色っぽさに、背筋がぞくぞくするのを感じた。
(これだから色男は……っ)
「ここ、尖ってきたね」
「……ん……っ」
夜着の上から指先で先端に触れられ、指先をくるくると回し押し付けられる。あきらかな快感に、私は吐息を漏らした。
(ヤらないなら、いいかなぁ……)
私は葛藤し始めた。恥ずかしながら体は快楽を欲している。私だって年頃の女なのだ。
最後までしないというのが嘘、あるいはなし崩しに進まれてしまう可能性もあるにはあるが——そこまで考えて、私はソルディエントを信じたがっている自分に気が付いた。
「……あなたのこと、信じていいの?」
「貞操を心配してる? それだったら安心して。俺は、君が気持ちよくなることしかしないよ」
そう断言され、胸がきゅんと高鳴った。
「もちろん、いずれは君と結ばれたいと思ってるけどね。それは、君が俺を好きになってくれてからだよ」
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