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4-1.ヤリチン?令息は一途な恋に落ちる
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私は引きこもりではあるが、体力には自信のあるほうだ。
最初の転生の前、現代日本で暮らしていた頃の不摂生を反省し、できる限り室内や敷地内でできる運動やエクササイズをしているのである。
だが、そんな私でも足首まであるドレスとブーツで塀を登ったものだから、ドレスの裾を踏んづけてしまった。
幸い塀は乗り越えたが、私はそのまま落下して——
「!!」
予想した痛みはやってこなかった。何かが私を体ごと受け止めたのだ。
衝撃が落ち着いてから私は、恐る恐る顔を上げる。そこにあったのは——ああ、なんてきれいな光輪。
茶色の髪を乱した美しい顔が、私を下から見つめている。
「ルミリエ……」
彼の薄い唇が私の名を呼んだ。
どうして名前を、と思う間もなく彼は私の背に手を廻す。そしてそのまま、抱きしめられた。
「?」
その時。私はお腹に何か、温かくて質量のあるものが当たっていることに気が付いた。
私と彼の体は密着している。ということはつまり、これは彼の体の一部ということで——
「!!!」
私はとっさに彼から離れようとした。その時だった。
「ルミリエ嬢……!」
「ルミリエ様ー!」
声が近づいてきた。かなり近くまで来ているようだ。
「静かにしないと見つかっちゃうよ?」
私の下敷きになったままの彼は腕に力を込め、ぎゅっと私を抱きしめた。
離れていても静かにはできる筈なんですが——!?!?
「そ、そんなこと言ったって……っ」
「しっ」
お腹に当たるモノがどんどん大きくなってるんですけど……!!
免疫はないわけではないが、男性に抱きしめられるなどこの人生では初めてで、私は心臓の音を抑えられない。
私を両腕で抱きしめる彼からは、香水でもつけているのかかすかにジャスミンの香りがした。
「……行ったかな」
しばらくして、彼はようやく私を離してくれた。
「ごめんね、急に抱きしめたりして」
身を起こした彼はわずかに目じりを下げて、申し訳なさそうに微笑む。そのさまは紳士と言えなくもない。
だが。
「…………るなんて」
「ん?」
彼は小首を傾げる。そんな男性ながらに可愛らしいといえるようなしぐさでさえ、色気がにじみ出ている。
「初めて会った女におっ勃てるなんて、どんだけヤリチンなんですか……」
「いや、ヤリチンじゃないからでしょ」
彼は私のあけすけな言葉をものともせず、涼しい顔をして言う。
「あなた、ソルディエント様でしょう。真面目な兄上とは違って遊び人だっていう噂の……」
「ああ、よくわかったね。確かに俺はソルディエントだよ」
「……やっぱり」
アルマにエルンストの情報を集めさせていれば、自然とソルディエントの情報も入ってくるのだ。
「やっぱりヤリチンじゃないですか」
「遊んでるのは否定しないけど、そこは断固否定したいな」
ソルディエントはしれっとそう答える。ゆっくりと立ち上がった彼は、腰を屈めて私に手を差し伸べた。
私は彼の手を取ることなく一人で立ち上がり、そして言った。
「矛盾してます」
「してないよ? 確かに女の子と遊んではいるけど、コレを使っちゃいないから」
そう言うと彼は、勃起が治まりかけた自らの股間を指さした。
「…………」
私が黙ったのは、ソルディエントの言葉に納得したからではない。
嘘つき男の話にこれ以上付き合うのは無駄だと感じたからだ。
最初の転生の前、現代日本で暮らしていた頃の不摂生を反省し、できる限り室内や敷地内でできる運動やエクササイズをしているのである。
だが、そんな私でも足首まであるドレスとブーツで塀を登ったものだから、ドレスの裾を踏んづけてしまった。
幸い塀は乗り越えたが、私はそのまま落下して——
「!!」
予想した痛みはやってこなかった。何かが私を体ごと受け止めたのだ。
衝撃が落ち着いてから私は、恐る恐る顔を上げる。そこにあったのは——ああ、なんてきれいな光輪。
茶色の髪を乱した美しい顔が、私を下から見つめている。
「ルミリエ……」
彼の薄い唇が私の名を呼んだ。
どうして名前を、と思う間もなく彼は私の背に手を廻す。そしてそのまま、抱きしめられた。
「?」
その時。私はお腹に何か、温かくて質量のあるものが当たっていることに気が付いた。
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「!!!」
私はとっさに彼から離れようとした。その時だった。
「ルミリエ嬢……!」
「ルミリエ様ー!」
声が近づいてきた。かなり近くまで来ているようだ。
「静かにしないと見つかっちゃうよ?」
私の下敷きになったままの彼は腕に力を込め、ぎゅっと私を抱きしめた。
離れていても静かにはできる筈なんですが——!?!?
「そ、そんなこと言ったって……っ」
「しっ」
お腹に当たるモノがどんどん大きくなってるんですけど……!!
免疫はないわけではないが、男性に抱きしめられるなどこの人生では初めてで、私は心臓の音を抑えられない。
私を両腕で抱きしめる彼からは、香水でもつけているのかかすかにジャスミンの香りがした。
「……行ったかな」
しばらくして、彼はようやく私を離してくれた。
「ごめんね、急に抱きしめたりして」
身を起こした彼はわずかに目じりを下げて、申し訳なさそうに微笑む。そのさまは紳士と言えなくもない。
だが。
「…………るなんて」
「ん?」
彼は小首を傾げる。そんな男性ながらに可愛らしいといえるようなしぐさでさえ、色気がにじみ出ている。
「初めて会った女におっ勃てるなんて、どんだけヤリチンなんですか……」
「いや、ヤリチンじゃないからでしょ」
彼は私のあけすけな言葉をものともせず、涼しい顔をして言う。
「あなた、ソルディエント様でしょう。真面目な兄上とは違って遊び人だっていう噂の……」
「ああ、よくわかったね。確かに俺はソルディエントだよ」
「……やっぱり」
アルマにエルンストの情報を集めさせていれば、自然とソルディエントの情報も入ってくるのだ。
「やっぱりヤリチンじゃないですか」
「遊んでるのは否定しないけど、そこは断固否定したいな」
ソルディエントはしれっとそう答える。ゆっくりと立ち上がった彼は、腰を屈めて私に手を差し伸べた。
私は彼の手を取ることなく一人で立ち上がり、そして言った。
「矛盾してます」
「してないよ? 確かに女の子と遊んではいるけど、コレを使っちゃいないから」
そう言うと彼は、勃起が治まりかけた自らの股間を指さした。
「…………」
私が黙ったのは、ソルディエントの言葉に納得したからではない。
嘘つき男の話にこれ以上付き合うのは無駄だと感じたからだ。
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