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1.転生令嬢は生涯非婚を貫きます
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私、ルミリエ・ヴァン・ヘイゼラードは非婚主義を貫いている。
その理由は単純明快だ。男性というのは必ず心変わりをするものだからである。
——特に、顔が良くてスペックの高い男は。
ファビアンもヨーゼフも、ケヴィンだってそうだった。その他、名前も覚えていない数多の男たちももちろんの事、例外はない!
なぜ未婚の伯爵令嬢であり、処女である私に過去の男が存在するのか。それを説明するのはとても難しい。
だが、一言で言うならば私は転生者なのだ。しかも、転生を何度も繰り返している。
転生のたび、私は素敵な男性と恋に落ちた。そして、彼にすべてを捧げた——ぶっちゃけ、ヤった。
そして、処女を失ってようやく思い出すのだ。
私の生きる世界が、初めての転生をする前に現代日本で読んだ、乙女系ノベルの世界であることを!
私が恋に落ちたのは、乙女系ノベルのヒーローなのである。
最悪なことに、どの転生でも私がヒロインだったことはなかった。私は、ヒーローの「過去の女」として転生を繰り返していたのだ!
乙女系ノベルの熱心な読者であればわかるだろうが、ヒーローのほとんどは童貞ではない。
つまり(素人童貞でなければ)過去の女が存在するということだ。
そしてその存在はよくて悪役、悪ければ存在が匂わされることさえない。
稀に過去の女が亡くなっているというヒーローもいるにはいるが、「過去の女」当の本人にとってはどの道ろくな人生ではない。
悪役令嬢ものよろしく、ヒーローが心変わりをして(=ヒロインと出逢って)からも頑張ってみた人生もあった。
だがそういう行動をとった場合、私は名実ともに悪役となるだけだった。
ヤリ捨てられたのはこちらなのに、まるで毒婦かなにかのように扱われる。私の転生先が乙女系ノベルの世界で、私が「過去の女」である以上現実は過酷なのだ。
数多の転生を繰り返した私だが、いつも記憶が蘇るのはヤリ捨てられた後だったから、ヒーローである男性を避けることも叶わなかった。
だが!
私は今回の人生には期待している。
なぜなら、今回の私は幼少期に記憶を取り戻した。
つまり、「ヒーローを避ける」ことが可能なのかもしれないのだ!
とはいえ、ヒーローではない男性だって、きっとろくでもない筈だ。
だから私は独身を貫くと決意しているのである。
しかし問題は——
「お嬢様。本日届いたラブレターは十二通でございます」
「ルミリエ、今日こそはどなたかにお返事をするのですよ」
メイドのアルマが手紙の束を手に部屋へ入ってきた。その後ろから母が追いかけてきて、私に念を押す。
もちろん、言うことを聞くつもりなどない。
「会ったこともない女に岡惚れする頭のユルい男など、わたくしは願い下げです」
「まぁ、なんてことを言うの、ルミリエ!」
母が目を吊り上げる。だが、なよやかな深窓の令嬢である母の怒りなど、人生を何度もやっている私は怖くはない(深窓の令嬢と言えばそれは私ルミリエもなのだが)。
「さすがルミリエは思慮深い。美しい上に頭脳明晰、私の娘は非の打ちどころがないね」
さらに父が現れ、私を誉めそやした。
父は私の非婚主義を認めくれる数少ない理解者だが——そもそも、父が私を方々で自慢しなければ、このような事態にはならないのである。
「お父様。わたくしが結婚などする気がないのはご存知でしょう。ですから、わたくしはどうしようもない頭すっからかんのアバズレで、顔も見るに堪えない醜女なのだと広めてくださいませ!」
「まぁ……!」
汚い言葉を使った私に、母が卒倒しそうになる。
「まぁまぁ二人とも。そんなことよりルミリエ、今度ホーヴェン公爵邸で開かれる茶会に出席しないか?」
「は!?」
この展開でお茶会の話など、父は頭でも沸いているのだろうか。
「わたくしは社交の類いには一切関与しないと、いつも申し上げているでしょう!」
「社交ではないよ。両家のごく個人的な付き合いだ」
「それを社交と言うんです……!」
そこで私ははたと気づいた。父は先ほど、ホーなんとかと言わなかったか?
「これは、ホーヴェン公爵のご子息、エルンスト様たっての願いなのだよ」
私はぴたりと口をつぐんだ。
ホーヴェン公爵の長男エルンストといえば——
「あの、植民地帰りの男爵令嬢と身分違いの純愛を実らせ結婚間近と噂される、当世珍しい一途で誠実な男性だというエルンスト・ヴァン・ホーヴェン様二十八歳ですかッ!?!?」
「さすがルミリエ、物知りだねえ。父として私も鼻が高いよ」
父は顎をなぞりながらうんうんと頷く。
「あの、灰茶色の髪をきっちりと横に流して、涼やかなグレーの瞳に眼鏡をかけて、とても理知的な佇まいのエルンスト・ヴァン・ホーヴェン様!!??」
「ほう、ルミリエはそんなことまで知っているのかい。だが引きこもりのルミリエが、どこでエルンスト様を見かけたんだい?」
「……っ!」
私は冷や汗をかいて固まった。
「……と、と、という……噂です」
「そうか。まぁルミリエだって引きこもりっきりは体に毒だろう? たまには気晴らしと思って出席してみないかい」
幸いにして父はそれ以上突っ込んでこなかった。だが。
「お茶会……エルンスト……」
私は懊悩の末、父にこう返したのだった。
「……か、考えておきます……」
その理由は単純明快だ。男性というのは必ず心変わりをするものだからである。
——特に、顔が良くてスペックの高い男は。
ファビアンもヨーゼフも、ケヴィンだってそうだった。その他、名前も覚えていない数多の男たちももちろんの事、例外はない!
なぜ未婚の伯爵令嬢であり、処女である私に過去の男が存在するのか。それを説明するのはとても難しい。
だが、一言で言うならば私は転生者なのだ。しかも、転生を何度も繰り返している。
転生のたび、私は素敵な男性と恋に落ちた。そして、彼にすべてを捧げた——ぶっちゃけ、ヤった。
そして、処女を失ってようやく思い出すのだ。
私の生きる世界が、初めての転生をする前に現代日本で読んだ、乙女系ノベルの世界であることを!
私が恋に落ちたのは、乙女系ノベルのヒーローなのである。
最悪なことに、どの転生でも私がヒロインだったことはなかった。私は、ヒーローの「過去の女」として転生を繰り返していたのだ!
乙女系ノベルの熱心な読者であればわかるだろうが、ヒーローのほとんどは童貞ではない。
つまり(素人童貞でなければ)過去の女が存在するということだ。
そしてその存在はよくて悪役、悪ければ存在が匂わされることさえない。
稀に過去の女が亡くなっているというヒーローもいるにはいるが、「過去の女」当の本人にとってはどの道ろくな人生ではない。
悪役令嬢ものよろしく、ヒーローが心変わりをして(=ヒロインと出逢って)からも頑張ってみた人生もあった。
だがそういう行動をとった場合、私は名実ともに悪役となるだけだった。
ヤリ捨てられたのはこちらなのに、まるで毒婦かなにかのように扱われる。私の転生先が乙女系ノベルの世界で、私が「過去の女」である以上現実は過酷なのだ。
数多の転生を繰り返した私だが、いつも記憶が蘇るのはヤリ捨てられた後だったから、ヒーローである男性を避けることも叶わなかった。
だが!
私は今回の人生には期待している。
なぜなら、今回の私は幼少期に記憶を取り戻した。
つまり、「ヒーローを避ける」ことが可能なのかもしれないのだ!
とはいえ、ヒーローではない男性だって、きっとろくでもない筈だ。
だから私は独身を貫くと決意しているのである。
しかし問題は——
「お嬢様。本日届いたラブレターは十二通でございます」
「ルミリエ、今日こそはどなたかにお返事をするのですよ」
メイドのアルマが手紙の束を手に部屋へ入ってきた。その後ろから母が追いかけてきて、私に念を押す。
もちろん、言うことを聞くつもりなどない。
「会ったこともない女に岡惚れする頭のユルい男など、わたくしは願い下げです」
「まぁ、なんてことを言うの、ルミリエ!」
母が目を吊り上げる。だが、なよやかな深窓の令嬢である母の怒りなど、人生を何度もやっている私は怖くはない(深窓の令嬢と言えばそれは私ルミリエもなのだが)。
「さすがルミリエは思慮深い。美しい上に頭脳明晰、私の娘は非の打ちどころがないね」
さらに父が現れ、私を誉めそやした。
父は私の非婚主義を認めくれる数少ない理解者だが——そもそも、父が私を方々で自慢しなければ、このような事態にはならないのである。
「お父様。わたくしが結婚などする気がないのはご存知でしょう。ですから、わたくしはどうしようもない頭すっからかんのアバズレで、顔も見るに堪えない醜女なのだと広めてくださいませ!」
「まぁ……!」
汚い言葉を使った私に、母が卒倒しそうになる。
「まぁまぁ二人とも。そんなことよりルミリエ、今度ホーヴェン公爵邸で開かれる茶会に出席しないか?」
「は!?」
この展開でお茶会の話など、父は頭でも沸いているのだろうか。
「わたくしは社交の類いには一切関与しないと、いつも申し上げているでしょう!」
「社交ではないよ。両家のごく個人的な付き合いだ」
「それを社交と言うんです……!」
そこで私ははたと気づいた。父は先ほど、ホーなんとかと言わなかったか?
「これは、ホーヴェン公爵のご子息、エルンスト様たっての願いなのだよ」
私はぴたりと口をつぐんだ。
ホーヴェン公爵の長男エルンストといえば——
「あの、植民地帰りの男爵令嬢と身分違いの純愛を実らせ結婚間近と噂される、当世珍しい一途で誠実な男性だというエルンスト・ヴァン・ホーヴェン様二十八歳ですかッ!?!?」
「さすがルミリエ、物知りだねえ。父として私も鼻が高いよ」
父は顎をなぞりながらうんうんと頷く。
「あの、灰茶色の髪をきっちりと横に流して、涼やかなグレーの瞳に眼鏡をかけて、とても理知的な佇まいのエルンスト・ヴァン・ホーヴェン様!!??」
「ほう、ルミリエはそんなことまで知っているのかい。だが引きこもりのルミリエが、どこでエルンスト様を見かけたんだい?」
「……っ!」
私は冷や汗をかいて固まった。
「……と、と、という……噂です」
「そうか。まぁルミリエだって引きこもりっきりは体に毒だろう? たまには気晴らしと思って出席してみないかい」
幸いにして父はそれ以上突っ込んでこなかった。だが。
「お茶会……エルンスト……」
私は懊悩の末、父にこう返したのだった。
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