24 / 24
14-2.私、ストーカーと結婚します!〈承前〉
しおりを挟む
「ゲラルト……」
ゲラルトの手が頬から降りてゆき、少しためらってから私の肩に触れた。
私も腕を上げ、彼の手首に自らの手を添える。人のぬくもりが、恋しかった。
「……ルミリエ。あの……、」
「何?」
「……抱きしめても、いい?」
ゲラルトはかなり緊張しているようだった。私は涙を拭うと、くすりと微笑んだ。
「そんな弱気じゃ、ヒーローにはなれませんね」
乙女ノベルのヒーローは、だいたいが強気で強引なものなのだ。
「ヒーロー? なんだよそれ」
「……わたくしも、ヒロインにはなれなかったものね。きっとお似合いなのだわ、わたくしたち」
そう言って私はみずからゲラルトに歩み寄った。そして、彼の肩に顔を寄せる。
「……!」
ゲラルトの身体がびくりと震えた。だがそっと手を私の腰に回し、私を引き寄せた。
「ゲラルト」
「ルミリエ……」
感極まったのか、ゲラルトの言葉は震えていた。私は、そんなゲラルトを愛しいと思い始めていた。それがソルディエントへのそれと、同じ感情かはわからないけれど……。
アルマはすでに部屋を出て行ったようだ。私はゲラルトに、直球で告げた。
「抱いてください」
「!!」
ゲラルトは耳まで真っ赤にしてうろたえた。その後、どうしたらいいのかわからないらしく、今度は青くなる。
「なに青くなってるの。わたくしたち、結婚するのでしょう?」
「そう……だけど。でも僕、経験なくて……ルミリエが、その、教えてくれるなら」
彼はもごもごとそんなことを言う。
「わたくしにだって教えられません。一緒に頑張るしかないわ」
「え? でも彼――ソルディエントと……」
「何もしてないとは言わないけど……でも、わたくしは処女です」
「! ……ほんとに?」
「嘘じゃないわ」
ゲラルトはごくりと唾を飲み込んだ。
「じゃあ……た、た、試してみても?」
そのおかしな言い方に、私は吹き出した。
「だから、さっきからそう言ってるでしょう」
そう言って私はゲラルトの手を引き、ベッドへと誘った。何故ここまで積極的にならなければならないのか――とは思うものの、ゲラルトがこうも消極的では仕方がない。
花嫁衣装を身につけた状態でこうなるというのは想定外だが、花嫁衣装にしては珍しく前開きのドレスなので、自分でもなんとかなるだろう。
――ソルディエントを忘れるためだけに、ゲラルトに抱かれるのではない。私はそう自分に言い聞かせる。
ゲラルトはストーカーではあるが、確かに私を愛してくれている。それがわかったから、抱かれるのだ。
「ルミリエ……あの、僕が」
「あなたには無理でしょう」
私が花嫁衣装を苦心して脱いでいると、ゲラルトが口を出してきた。ゲラルトは多少傷ついたようで、眉尻を下げてしゅんとした。
「花嫁衣装は特別だから、普段のドレスとは違うもの。脱がせられなくても恥ずかしくありません」
「……うん。でも、少し残念かもね。もっときみの綺麗な花嫁姿、見ていたかった」
「結婚式の日に、いくらでも見られるでしょう?」
「そうだね」
ようやく私は花嫁衣装を脱ぎ終わった。下着姿の私は苦心してトルソーに脱いだ衣装を着せ付け、その後ベッドに戻ってきた。
自分でゲラルトをベッドに引っ張ってきておきながらなんとも間抜けだが、現実とは小説のようにロマンチックにはいかないのだろう。
「お待たせしました」
そう言って、ベッドに自ら身体を横たえる。
「ルミリエ」
ゲラルトが、真剣な顔をして覆い被さってくる。私はそっと瞳を閉じた。
だが。
「……?」
彼は、ちっとも私に触れてこない。
「ゲラルト?」
目を開いて彼を見ると、ゲラルトは難しい顔をして私を見つめている。
「どうしたのですか?」
「やっぱり……駄目だ。きみは傷ついてる。そんな時にこんなこと……」
私は呆れた。どんな手を使ってでも私を手に入れようとしたストーカーが、今更何を言うのか。
「僕たちにはいくらだって時間がある。僕、待つから。……ね、ルミリエ?」
ゲラルトは健気にも微笑んで言う。だけど。
「わたくしが待てないんですっ!」
私はそう言って、ゲラルトの首に手を回して彼を引き寄せた。そのまま身体を回転させて、今度は私が彼に覆い被さる形になる。ゲラルトは私とほぼ同身長の上、ガリで膂力もないのだ。
「ストーカーのくせに、なに土壇場で怖じ気づいてんのっ! わたくしはもう、過去の女とかヒーローとかで振り回されるのはうんざり! 今回こそ、何も関係ないあなたと結婚してやるんだからッ!!」
「ちょ、ルミリ……っ」
私は噛みつくようにゲラルトの首筋に口づけた。そのまま彼の衣服を剥ぎ取ろうとしたとき、窓がガタガタと大きな音をたてた。
「……!」
慌ててそちらを見ると、何者が窓を壊す勢いでこじ開け、そのまま部屋に飛び込んできた。
そしてその人物は私とゲラルトに目を留めると、素早く歩み寄って私たちを引き剥がしたのだ。
ゲラルトの手が頬から降りてゆき、少しためらってから私の肩に触れた。
私も腕を上げ、彼の手首に自らの手を添える。人のぬくもりが、恋しかった。
「……ルミリエ。あの……、」
「何?」
「……抱きしめても、いい?」
ゲラルトはかなり緊張しているようだった。私は涙を拭うと、くすりと微笑んだ。
「そんな弱気じゃ、ヒーローにはなれませんね」
乙女ノベルのヒーローは、だいたいが強気で強引なものなのだ。
「ヒーロー? なんだよそれ」
「……わたくしも、ヒロインにはなれなかったものね。きっとお似合いなのだわ、わたくしたち」
そう言って私はみずからゲラルトに歩み寄った。そして、彼の肩に顔を寄せる。
「……!」
ゲラルトの身体がびくりと震えた。だがそっと手を私の腰に回し、私を引き寄せた。
「ゲラルト」
「ルミリエ……」
感極まったのか、ゲラルトの言葉は震えていた。私は、そんなゲラルトを愛しいと思い始めていた。それがソルディエントへのそれと、同じ感情かはわからないけれど……。
アルマはすでに部屋を出て行ったようだ。私はゲラルトに、直球で告げた。
「抱いてください」
「!!」
ゲラルトは耳まで真っ赤にしてうろたえた。その後、どうしたらいいのかわからないらしく、今度は青くなる。
「なに青くなってるの。わたくしたち、結婚するのでしょう?」
「そう……だけど。でも僕、経験なくて……ルミリエが、その、教えてくれるなら」
彼はもごもごとそんなことを言う。
「わたくしにだって教えられません。一緒に頑張るしかないわ」
「え? でも彼――ソルディエントと……」
「何もしてないとは言わないけど……でも、わたくしは処女です」
「! ……ほんとに?」
「嘘じゃないわ」
ゲラルトはごくりと唾を飲み込んだ。
「じゃあ……た、た、試してみても?」
そのおかしな言い方に、私は吹き出した。
「だから、さっきからそう言ってるでしょう」
そう言って私はゲラルトの手を引き、ベッドへと誘った。何故ここまで積極的にならなければならないのか――とは思うものの、ゲラルトがこうも消極的では仕方がない。
花嫁衣装を身につけた状態でこうなるというのは想定外だが、花嫁衣装にしては珍しく前開きのドレスなので、自分でもなんとかなるだろう。
――ソルディエントを忘れるためだけに、ゲラルトに抱かれるのではない。私はそう自分に言い聞かせる。
ゲラルトはストーカーではあるが、確かに私を愛してくれている。それがわかったから、抱かれるのだ。
「ルミリエ……あの、僕が」
「あなたには無理でしょう」
私が花嫁衣装を苦心して脱いでいると、ゲラルトが口を出してきた。ゲラルトは多少傷ついたようで、眉尻を下げてしゅんとした。
「花嫁衣装は特別だから、普段のドレスとは違うもの。脱がせられなくても恥ずかしくありません」
「……うん。でも、少し残念かもね。もっときみの綺麗な花嫁姿、見ていたかった」
「結婚式の日に、いくらでも見られるでしょう?」
「そうだね」
ようやく私は花嫁衣装を脱ぎ終わった。下着姿の私は苦心してトルソーに脱いだ衣装を着せ付け、その後ベッドに戻ってきた。
自分でゲラルトをベッドに引っ張ってきておきながらなんとも間抜けだが、現実とは小説のようにロマンチックにはいかないのだろう。
「お待たせしました」
そう言って、ベッドに自ら身体を横たえる。
「ルミリエ」
ゲラルトが、真剣な顔をして覆い被さってくる。私はそっと瞳を閉じた。
だが。
「……?」
彼は、ちっとも私に触れてこない。
「ゲラルト?」
目を開いて彼を見ると、ゲラルトは難しい顔をして私を見つめている。
「どうしたのですか?」
「やっぱり……駄目だ。きみは傷ついてる。そんな時にこんなこと……」
私は呆れた。どんな手を使ってでも私を手に入れようとしたストーカーが、今更何を言うのか。
「僕たちにはいくらだって時間がある。僕、待つから。……ね、ルミリエ?」
ゲラルトは健気にも微笑んで言う。だけど。
「わたくしが待てないんですっ!」
私はそう言って、ゲラルトの首に手を回して彼を引き寄せた。そのまま身体を回転させて、今度は私が彼に覆い被さる形になる。ゲラルトは私とほぼ同身長の上、ガリで膂力もないのだ。
「ストーカーのくせに、なに土壇場で怖じ気づいてんのっ! わたくしはもう、過去の女とかヒーローとかで振り回されるのはうんざり! 今回こそ、何も関係ないあなたと結婚してやるんだからッ!!」
「ちょ、ルミリ……っ」
私は噛みつくようにゲラルトの首筋に口づけた。そのまま彼の衣服を剥ぎ取ろうとしたとき、窓がガタガタと大きな音をたてた。
「……!」
慌ててそちらを見ると、何者が窓を壊す勢いでこじ開け、そのまま部屋に飛び込んできた。
そしてその人物は私とゲラルトに目を留めると、素早く歩み寄って私たちを引き剥がしたのだ。
0
お気に入りに追加
595
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結して欲しいぃぃ
お願いします
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
続きがぁぁぁぁ なぁぃ!!!!!!
更新まってまず(´。・д人)シクシク…
いい所で続きが...!!!!
更新お待ちしていますううううう