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第一章
弱くて惨めな女の子 6 ≪せせらぎ視点≫
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≪せせらぎ視点≫
意識が覚醒すると雫の跳ねる音が聞こえる。ただ、目隠しをされているのか、周りの世界は真っ暗だった。触れる空気はとても冷たくて、気分もひどく冷めたものになっていく。
あのとき出た怪物は何者だったのだろうか?イノシシやクマ、シカのような獣ではなかった。彼らはすごく無機的な存在だと感じた。そもそも、あまりにも彼らが出てくる頃合いが良すぎた。あの後、すぐに黒木が出てきたから彼が行使をしたのだろう。
叔母さんは果たして無事なのだろうか。今、どれぐらい経ったのかは分からないけど、従兄弟たちが助け出してくれたと信じたい。今は謝れないけど、謝らなくちゃ。せっかく手に入れた機会を無駄にしてごめんなさい。あなたの覚悟を滅茶苦茶にしてごめんなさい。いっぱい謝らなくちゃ……。
遥、遥ごめんなさい。あなたは『生きて』と願っていたのに、生きる希望を持つことがとてもじゃないけどできない。だって、あなたがいない世界を生きる自分のことを忘れてしまったもの。
やけにこの場所が静かなせいで、朦朧としている頭の中でいろんなことを考えてしまう。
誰かが階段から降りてくる音が聞こえる。一人が履いている靴は西洋の上質な靴なのだろう。この閑散としたこの空間でよく響く。
足音の主がだんだん私に近づいてくると私の目隠しをそっと外した。その手は人間とは言い難いほどひんやりとしていた。
「おや、起きていたのですか……おっと、目覚めてそんな時間が経って居ないのにそんなに動いてはいけませんよ。」
声の主が黒木であることに気づいた私は怒りのあまり、彼に攻撃を仕掛けようとした。しかし、手かせと足かせが着けられているせいで彼に触れることができなかった。私のその様子を彼は愉し気な目で見つめていた。
「あぁ、綺麗な手がこんなに血まみれに、治して差し上げましょう……」
「触らないで‼……何が目的なの?あなたの考えが理解できない。一体あなたはどこに向かっているの?」
彼の目線の意味、彼の行動の意味、それらがすべて虚飾された状態で私の前に並べられている。それがすごく気持ち悪く感じてたまらなかった。考えただけで鳥肌がたまらなくて自分で自分を抱きしめるほどだった。
「私は、人間なんてクソみたいな生物から超越したいだけです。人間から超越できれば私たちは平等な世界へ行ける‼誰もが強力な力を持っている。これこそが真なる平等なのです‼あなたの力があればそれは可能なのです。ねぇ、何もおかしくないでしょう。だって力あってこその世界なのですから‼」
私は唖然とした。世の中こんなにも狂っている人間がいるという事実にただただ恐怖した。
そんな狂った野望のためにお母さんと遥は死んだの?私はその野望をかなえるための道具でしかないの?目の前の男にはその野望を叶えるために何人の人間が犠牲になるのかを考えたことはないのか。あまりにも違いすぎる価値観を受け入れることはできなかった。
世界は強さだけで出来ているわけじゃない。弱いところがあるから世界はより美しく調和している。それがなくなってしまった世界はとてもつまらないものだろう。
だからこそ、私は目の前の男にただただ恐怖した。
「…………」
「そこまで拒絶するのなら私にも考えがあります。……きっと、あれを見たら受け入れざるをえないでしょう。」
黒木は私が暴れないように拘束してから外に連れ出した。外は日差しで肌が焼けそうなほど、雲1つない快晴で、立っているだけで干からびそうになった。
「彼女を連れてきなさい。」
黒木が男達に命じると、男たちは1人の女性を連れてきた。その女性は顔が原形を留めないほど腫れていたが、確かに私の叔母だった。
「は、はは……」
私の口からは乾いた笑いしか出なかった。私の中で何かが瓦解したような音がして、そのまま座り込んでしまった。
「水鞠……」
なんとなく、叔母さんが私の名を読んだような気がして顔をあげてみると、すごく痛くてたまらないはずなのに私に微笑みかけていた。
あぁ、なんで私だけじゃないのですか?なんで、私を大切にしてくれる人たちがこんなにも理不尽に傷つかなくちゃいけないのですか?私が、さっさと黒木に従えばよかったの……?
「あんたは、頑張ったね。……あの男に下らなかっただけでも十分強いさ。だから、自分を自分で傷つけるな。胸を張れ。……自分の選択を信じろ……最後の……お願いだから。」
叔母さんはそう言い終わったら、動かなくなってしまった。元から限界が近かったのだろう。でも、最後に笑顔だったのはなんで。憎んでくれりゃよかったのに。
若いときは母さんに、今は私に、ずっと他人によって人生を狂わされてきたのに何で笑っていられたの?私は強くなんかない。自分が生きることしか考えられない弱くて惨めな女の子。ただ、それだけなのに。
なんで、何もできない私をみんな置いて行ってしまうの?
「まだ、諦めないのですね……ならば最終手段に出るほかありませんね。」
――――
私は叔母さんの死に立ち会ってから、またあの薄暗い檻にいた。私も死のうと思ってご飯は食べず、水も飲まずただ死を待っていた。
それなのに、まだ生きている。あぁ、どうやら私は本当に人ではなくなってしまったようだ。体を自分で傷つけてもすぐに治ってしまう。
『生贄にするのならちょうどいい娘がいますよ。あの小娘がいいんじゃないですか?この村に厄災を与えるやつを処分できますし、ちょうどいいでしょう。』
この村の村長に黒木がそう言ったことで、私は満場一致で生贄になった。他の者たちは自分が犠牲になるのが嫌だったのだろう。
私は今日、死を迎える。ここには私の死を望んでいる者しかいない。私に生きていてほしいと願った人はみなあちら側に行ってしまった。だから、私もあちらに逝けると、そう思ったのに。
『水鞠、生きて』
『自分の選択を信じろ』
二人が私に告げた最後の言葉が頭の中を反響して離れない。改めて私は村人の方を見た。
彼らは酷く歪んだ笑い声をあげていた。その様子を見ていると沸々と怒りが込み上げてきた。
なぜ、私は彼らのために死なねばならないのか。なぜ、これ以上尊厳を破壊されねばならぬのか。私は彼らの娯楽などではない。
「私は、あなたたちの思い通りになんて、終わりたくない」
私がそう吐き捨てた瞬間、空から雨が降ってきた。村人たちは最初、その雨を恵みだと感じていたようだ。しかし、だんだん雨足が強くなると何かが違うとようやく気付いたらしい。
どうせ、死ぬのなら村人全員で心中した方が一人で死ぬよりも何倍もましだと思った。だから私は術で水の槍を村全体に降らせた。そして、制御も聞かない状態だ。あと1日もすれば村も沈んでしまうだろう。
「あぁ、最後まで私は弱くて惨めな、愚か者だ。」
そのまま、私の意識は闇へと沈んだ。
――――
あぁ、なんでこんな大切なことを今まで忘れていたんだろう。
守れなかったくせに、守られてばっかだったくせに、なんで守れると思ったんだろう。私を守ろうとして動いた皆の結末はどうなった。
親友の遥は私をかばって怪物に貫かれてそのまま亡くなってしまった。叔母さんは私の尊厳を守ろうとして、村人たちに甚振られて衰弱して亡くなった。そして、光希君は私の自由を守ろうとして命を落としかけている。
みんな、私に関わらなければ、幸せに生きて天寿を全うすることができたかもしれない。それならば、みんなを殺したのは私自身じゃないか。
私は今も泣き虫な弱くて惨めな馬鹿な女のままなんだ。
意識が覚醒すると雫の跳ねる音が聞こえる。ただ、目隠しをされているのか、周りの世界は真っ暗だった。触れる空気はとても冷たくて、気分もひどく冷めたものになっていく。
あのとき出た怪物は何者だったのだろうか?イノシシやクマ、シカのような獣ではなかった。彼らはすごく無機的な存在だと感じた。そもそも、あまりにも彼らが出てくる頃合いが良すぎた。あの後、すぐに黒木が出てきたから彼が行使をしたのだろう。
叔母さんは果たして無事なのだろうか。今、どれぐらい経ったのかは分からないけど、従兄弟たちが助け出してくれたと信じたい。今は謝れないけど、謝らなくちゃ。せっかく手に入れた機会を無駄にしてごめんなさい。あなたの覚悟を滅茶苦茶にしてごめんなさい。いっぱい謝らなくちゃ……。
遥、遥ごめんなさい。あなたは『生きて』と願っていたのに、生きる希望を持つことがとてもじゃないけどできない。だって、あなたがいない世界を生きる自分のことを忘れてしまったもの。
やけにこの場所が静かなせいで、朦朧としている頭の中でいろんなことを考えてしまう。
誰かが階段から降りてくる音が聞こえる。一人が履いている靴は西洋の上質な靴なのだろう。この閑散としたこの空間でよく響く。
足音の主がだんだん私に近づいてくると私の目隠しをそっと外した。その手は人間とは言い難いほどひんやりとしていた。
「おや、起きていたのですか……おっと、目覚めてそんな時間が経って居ないのにそんなに動いてはいけませんよ。」
声の主が黒木であることに気づいた私は怒りのあまり、彼に攻撃を仕掛けようとした。しかし、手かせと足かせが着けられているせいで彼に触れることができなかった。私のその様子を彼は愉し気な目で見つめていた。
「あぁ、綺麗な手がこんなに血まみれに、治して差し上げましょう……」
「触らないで‼……何が目的なの?あなたの考えが理解できない。一体あなたはどこに向かっているの?」
彼の目線の意味、彼の行動の意味、それらがすべて虚飾された状態で私の前に並べられている。それがすごく気持ち悪く感じてたまらなかった。考えただけで鳥肌がたまらなくて自分で自分を抱きしめるほどだった。
「私は、人間なんてクソみたいな生物から超越したいだけです。人間から超越できれば私たちは平等な世界へ行ける‼誰もが強力な力を持っている。これこそが真なる平等なのです‼あなたの力があればそれは可能なのです。ねぇ、何もおかしくないでしょう。だって力あってこその世界なのですから‼」
私は唖然とした。世の中こんなにも狂っている人間がいるという事実にただただ恐怖した。
そんな狂った野望のためにお母さんと遥は死んだの?私はその野望をかなえるための道具でしかないの?目の前の男にはその野望を叶えるために何人の人間が犠牲になるのかを考えたことはないのか。あまりにも違いすぎる価値観を受け入れることはできなかった。
世界は強さだけで出来ているわけじゃない。弱いところがあるから世界はより美しく調和している。それがなくなってしまった世界はとてもつまらないものだろう。
だからこそ、私は目の前の男にただただ恐怖した。
「…………」
「そこまで拒絶するのなら私にも考えがあります。……きっと、あれを見たら受け入れざるをえないでしょう。」
黒木は私が暴れないように拘束してから外に連れ出した。外は日差しで肌が焼けそうなほど、雲1つない快晴で、立っているだけで干からびそうになった。
「彼女を連れてきなさい。」
黒木が男達に命じると、男たちは1人の女性を連れてきた。その女性は顔が原形を留めないほど腫れていたが、確かに私の叔母だった。
「は、はは……」
私の口からは乾いた笑いしか出なかった。私の中で何かが瓦解したような音がして、そのまま座り込んでしまった。
「水鞠……」
なんとなく、叔母さんが私の名を読んだような気がして顔をあげてみると、すごく痛くてたまらないはずなのに私に微笑みかけていた。
あぁ、なんで私だけじゃないのですか?なんで、私を大切にしてくれる人たちがこんなにも理不尽に傷つかなくちゃいけないのですか?私が、さっさと黒木に従えばよかったの……?
「あんたは、頑張ったね。……あの男に下らなかっただけでも十分強いさ。だから、自分を自分で傷つけるな。胸を張れ。……自分の選択を信じろ……最後の……お願いだから。」
叔母さんはそう言い終わったら、動かなくなってしまった。元から限界が近かったのだろう。でも、最後に笑顔だったのはなんで。憎んでくれりゃよかったのに。
若いときは母さんに、今は私に、ずっと他人によって人生を狂わされてきたのに何で笑っていられたの?私は強くなんかない。自分が生きることしか考えられない弱くて惨めな女の子。ただ、それだけなのに。
なんで、何もできない私をみんな置いて行ってしまうの?
「まだ、諦めないのですね……ならば最終手段に出るほかありませんね。」
――――
私は叔母さんの死に立ち会ってから、またあの薄暗い檻にいた。私も死のうと思ってご飯は食べず、水も飲まずただ死を待っていた。
それなのに、まだ生きている。あぁ、どうやら私は本当に人ではなくなってしまったようだ。体を自分で傷つけてもすぐに治ってしまう。
『生贄にするのならちょうどいい娘がいますよ。あの小娘がいいんじゃないですか?この村に厄災を与えるやつを処分できますし、ちょうどいいでしょう。』
この村の村長に黒木がそう言ったことで、私は満場一致で生贄になった。他の者たちは自分が犠牲になるのが嫌だったのだろう。
私は今日、死を迎える。ここには私の死を望んでいる者しかいない。私に生きていてほしいと願った人はみなあちら側に行ってしまった。だから、私もあちらに逝けると、そう思ったのに。
『水鞠、生きて』
『自分の選択を信じろ』
二人が私に告げた最後の言葉が頭の中を反響して離れない。改めて私は村人の方を見た。
彼らは酷く歪んだ笑い声をあげていた。その様子を見ていると沸々と怒りが込み上げてきた。
なぜ、私は彼らのために死なねばならないのか。なぜ、これ以上尊厳を破壊されねばならぬのか。私は彼らの娯楽などではない。
「私は、あなたたちの思い通りになんて、終わりたくない」
私がそう吐き捨てた瞬間、空から雨が降ってきた。村人たちは最初、その雨を恵みだと感じていたようだ。しかし、だんだん雨足が強くなると何かが違うとようやく気付いたらしい。
どうせ、死ぬのなら村人全員で心中した方が一人で死ぬよりも何倍もましだと思った。だから私は術で水の槍を村全体に降らせた。そして、制御も聞かない状態だ。あと1日もすれば村も沈んでしまうだろう。
「あぁ、最後まで私は弱くて惨めな、愚か者だ。」
そのまま、私の意識は闇へと沈んだ。
――――
あぁ、なんでこんな大切なことを今まで忘れていたんだろう。
守れなかったくせに、守られてばっかだったくせに、なんで守れると思ったんだろう。私を守ろうとして動いた皆の結末はどうなった。
親友の遥は私をかばって怪物に貫かれてそのまま亡くなってしまった。叔母さんは私の尊厳を守ろうとして、村人たちに甚振られて衰弱して亡くなった。そして、光希君は私の自由を守ろうとして命を落としかけている。
みんな、私に関わらなければ、幸せに生きて天寿を全うすることができたかもしれない。それならば、みんなを殺したのは私自身じゃないか。
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