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第十話

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 ジョヴァンナの奮闘むなしく、たった半日では体重が減ったりしません。

 サウナ後にも運動に励みましたが、何も変わらない現実に凹んだジョヴァンナは、泣きそうな声でポツリとこんなことをつぶやきました。

「ああ、故郷の栗粉の焼き菓子カスタニャッチョが食べたい……」

 その言葉は使用人たちの口を通じて老執事長ドナートの耳に入り、ついにはベレンガリオに伝わりました。

「と、おっしゃっておりまして」
「それを私に伝えてどうしろと言うんだ」
「旦那様、本当にこのままでは離婚に至ってしまいますよ。それは本意ではないでしょう?」

 ジョヴァンナのことが気にかかり、何一つ作業の進まない執務机の前でうろうろしていたベレンガリオは、老執事長ドナートの諫言をようやく受け入れる気持ちになりつつありました。

「そうだな。そもそも、ジョヴァンナを口説いて結婚に持ち込んだのは私だ、まるまる太って」
「こほん」
「……訂正する。太ってしまっても、私が愛するジョヴァンナであることには変わりない。外見で彼女を見誤り、あまつさえ自分の労苦に苛立ってついきつく責めてしまった」

 今のベレンガリオなら、呪い云々はともかく、ジョヴァンナが心身ともに苦しんでいることを理解できます。そう簡単に仲直り、とはいきませんが、この事態に対処するだけの判断能力はやっと戻ってきたのです。

 そうと決まれば、ベレンガリオの行動は素早く、革靴をジョッパーブーツに履き替え、薄手のジャケットとコートを羽織りました。剣帯と最低限の身の回りのものを持って、老執事長ドナートへあとを任せます。

「ダーナテスカ伯爵領へ行ってくる。ジョヴァンナが倒れないよう、見張っておいてくれ」
「かしこまりました」
「彼女には所用で出かけたと言っておいてくれ。これ以上心配をかけたくない」
「はい、お任せを。どうかお気をつけて」

 老執事長ドナートはうやうやしく頭を垂れ、自慢の主人の出立を見送りました。

 ベレンガリオは気難しいところもありますが、やればできる子なのです。

 そして何より、ジョヴァンナを愛しています。その思いを胸に、独り馬を駆って一路南へ、ジョヴァンナの故郷へ向かいます。

 ベレンガリオに呪いが理解できないなら、理解できているであろう専門家に聞けばいいのです。
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