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第三十七話
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夜、私はアレクの部屋にやってきました。
いくつものろうそくの明かりの下で、アレクの顔は固いままです。
「話というのは、詳しくはどういうものでしょうか」
私とともにソファに座ったアレクは、前置きをします。
「耳にしたくもないだろうことは分かっている。だが、お前の意向も聞いておきたかった」
「……どのようなことを、ですか?」
「最後の慈悲として、手を差し伸べるか否かだ」
慈悲。それが必要なこと、なのでしょうか。
アレクは話を始めました。
「テイト公爵家は、まだ足掻いている。アンカーソン伯爵家との婚約がなくなっても、財政支援の話は生きているからだ。もはやアンカーソン伯爵家もテイト公爵家の領地で債権が溜まりに溜まっているせいで、テイト公爵家が潰れればアンカーソン伯爵家にも多大な影響が出る。一蓮托生、というわけだ」
アレクの口から語られることは、確かに聞きたくない単語と、聞きたくない話でした。テイト公爵家もアンカーソン伯爵家も、もう私には関係ないと決め込んでいたのですから。
でも、私は静かに耳を傾けます。
「だが、その二家が潰れれば、ワグノリス王国もタダでは済まない。だから、この状況をどうにかするためには、できるかぎり金を投入しなければならない。しかし、今更それだけの大金を国内から調達することは不可能だ。となればもっとも近い隣国、アスタニア帝国に頼るしかない。ワグノリス王国の重鎮たちが恥を忍んで頭を下げてくることは、容易に想像できる」
ワグノリス王国がアスタニア帝国を頼る、それは十分にあり得る話です。周辺国のうち、ワグノリス王国を救えるほどの経済大国は、アスタニア帝国しかないのです。そしてそのお金の流れというのは、貴族が握り、皇帝の監視下で動いています。皇帝の裁可が下りれば、ワグノリス王国はいっときでも助かるでしょう。
問題は、アスタニア帝国がそこまで情けをかける理由はなく、融資には条件をつけるということです。どのような条件か、そこがこの話の肝なのでしょう。
大体、私は察してきました。テイト公爵家もアンカーソン伯爵家も、命運は尽きたも同然です。
「テイト公爵家は、十年前の事故から貴族を脅して金を搾り取ったことまで、すべて嫡男だったヒューバートに罪を着せて追放した。しかしだ、当時子供だったヒューバートにそんなことができるわけがない。とはいえ、そうでもしなければ皆が納得しなかったし、テイト公爵家を潰すわけにはいかないからその茶番を受け入れた。仮にも公爵家の廃嫡がどれほど重いことか、それはワグノリス王国の貴族たちも分かっている」
ああ、そうなったのですね。ヒューバート、哀れな人。美しい顔と貴族であることしか取り柄のない高慢な彼は、自分の父に見捨てられて生きていくことなどできないでしょう。その茶番の中で、ピエロとなって、死ぬまで踊らされるだけです。
「さて、ここで俺は、ワグノリス王国を滅ぼすことも、事故の責任を取らせることもできる。皇帝に再度会ってからだが、その措置の同意も得られるだろう。生かすも殺すもこの手次第、というわけだ」
アレクは自分の手を見つめます。その手は、残酷なようですが、人の命脈を握っているのです。
「だから私に、意見を求めるということですか」
「俺はお前の復讐心を醜いと言うつもりはない。お前は、けじめをつけなければならない。そうでなければ、未来に進めないだろう。すべてと決別する、その方法は皆が一様に同じというわけではない。徹底的に破壊しなければならない者もいれば、許すことを選ぶ者もいる。どちらでもいい、俺はお前の意思を尊重する。お前のために、俺はこの手を汚すことだってためらわない」
お前が決めるんだ。
未来へ進むために。
いくつものろうそくの明かりの下で、アレクの顔は固いままです。
「話というのは、詳しくはどういうものでしょうか」
私とともにソファに座ったアレクは、前置きをします。
「耳にしたくもないだろうことは分かっている。だが、お前の意向も聞いておきたかった」
「……どのようなことを、ですか?」
「最後の慈悲として、手を差し伸べるか否かだ」
慈悲。それが必要なこと、なのでしょうか。
アレクは話を始めました。
「テイト公爵家は、まだ足掻いている。アンカーソン伯爵家との婚約がなくなっても、財政支援の話は生きているからだ。もはやアンカーソン伯爵家もテイト公爵家の領地で債権が溜まりに溜まっているせいで、テイト公爵家が潰れればアンカーソン伯爵家にも多大な影響が出る。一蓮托生、というわけだ」
アレクの口から語られることは、確かに聞きたくない単語と、聞きたくない話でした。テイト公爵家もアンカーソン伯爵家も、もう私には関係ないと決め込んでいたのですから。
でも、私は静かに耳を傾けます。
「だが、その二家が潰れれば、ワグノリス王国もタダでは済まない。だから、この状況をどうにかするためには、できるかぎり金を投入しなければならない。しかし、今更それだけの大金を国内から調達することは不可能だ。となればもっとも近い隣国、アスタニア帝国に頼るしかない。ワグノリス王国の重鎮たちが恥を忍んで頭を下げてくることは、容易に想像できる」
ワグノリス王国がアスタニア帝国を頼る、それは十分にあり得る話です。周辺国のうち、ワグノリス王国を救えるほどの経済大国は、アスタニア帝国しかないのです。そしてそのお金の流れというのは、貴族が握り、皇帝の監視下で動いています。皇帝の裁可が下りれば、ワグノリス王国はいっときでも助かるでしょう。
問題は、アスタニア帝国がそこまで情けをかける理由はなく、融資には条件をつけるということです。どのような条件か、そこがこの話の肝なのでしょう。
大体、私は察してきました。テイト公爵家もアンカーソン伯爵家も、命運は尽きたも同然です。
「テイト公爵家は、十年前の事故から貴族を脅して金を搾り取ったことまで、すべて嫡男だったヒューバートに罪を着せて追放した。しかしだ、当時子供だったヒューバートにそんなことができるわけがない。とはいえ、そうでもしなければ皆が納得しなかったし、テイト公爵家を潰すわけにはいかないからその茶番を受け入れた。仮にも公爵家の廃嫡がどれほど重いことか、それはワグノリス王国の貴族たちも分かっている」
ああ、そうなったのですね。ヒューバート、哀れな人。美しい顔と貴族であることしか取り柄のない高慢な彼は、自分の父に見捨てられて生きていくことなどできないでしょう。その茶番の中で、ピエロとなって、死ぬまで踊らされるだけです。
「さて、ここで俺は、ワグノリス王国を滅ぼすことも、事故の責任を取らせることもできる。皇帝に再度会ってからだが、その措置の同意も得られるだろう。生かすも殺すもこの手次第、というわけだ」
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お前が決めるんだ。
未来へ進むために。
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