婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ

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第十五話

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 私は手紙のやり取りだけして急ぎエンリシュを離れました。もう恥も外聞もありません、とにかく早く帰りたかった。ジーベルン子爵から離れたかった。ただその一心で、カルタバージュへ戻りました。

 ジーベルン子爵との商談なんて、あれから何も進んでいません。口約束など守られるはずもなく、打ち合わせもできていないのですからご破算でしょう。そうに違いありません。もうエンリシュ行きのことはすっかり忘れたくて、私はバルクォーツ女侯爵へ手紙の返信を渡して、さっさと店に引きこもりました。

 数日は何もできず、ただ閉めた店の中で本の整理をするだけです。元々エンリシュ行きを一週間の予定で組んでいたので、早く帰ってきた分だけ休めるのですが——まったくやる気が起きませんでした。

 心配したのか、バルクォーツ女侯爵がやってきて、店の閉まった扉を叩くまでは。

 ガラスの向こうにうっすらバルクォーツ女侯爵の姿が見えます。来られてしまっては、居留守を使うわけにもいきません。

 私はしぶしぶ、店の扉を開けました。

「いらっしゃいませ。バルクォーツ女侯爵閣下」

 何だか不機嫌な声になってしまいました。それでも、バルクォーツ女侯爵は気にした様子どころか、むしろ私を心配してくれていました。

「どうした? 何かあったのか? エンリシュからとんぼ帰りをしてきて、まさかジーベルン子爵に何か言われたのか?」

 矢継ぎ早に問われ、私は慌てて首を横に振ります。

「ち、違います。その、いろいろと、あって」

 そのいろいろが、私にとってはとても大きなことで、不安で、どうしようもなく胸が痛いことなのですが、そんなこと他人にとっては知ったことではありません。それが分かっているから、言えないのです。

 美しい顔の人間には、顔にあざがあるような人間の気持ちなど分かるわけがない。そうも思えてしまって、あの元婚約者を思い出すようで、苦しいのです。

 でも、バルクォーツ女侯爵は店に押し入り、私を椅子に座らせました。何をするのかと思って見てると、店の奥のキッチンに向かっていって、テキパキと勝手知ったる家のようにお茶を淹れはじめ、温かい一杯のお茶を私のもとへ差し出してきたのです。たっぷりの砂糖と牛乳を添えて、バルクォーツ女侯爵はこう言いました。

「落ち込んでいたのだろう。よしよし、気にするな。誰だって、どんなきっかけで気落ちするやら分かったものではないんだ。しかし、私がエンリシュ行きを強制してしまったからそうなったのであれば、実に申し訳ない」

 困ったような笑みを浮かべて、バルクォーツ女侯爵は私へ温かいお茶を勧めました。
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