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第十三話
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私は応接間に通されました。最初から通してくれればいいのに、と思いましたが、おそらく私が気に入らなければ追い返すつもりだったのでしょう。玄関で追い返さなかったのは、一応屋敷には上げた、という名目が必要だったことと、手紙を受け取りに行くことが面倒くさかったものと思われます。
「ラッセル・ブロード卿のことは俺も知っている。詩人であり戯曲作家、騎士であり義人、その奇才ぶりから讃えられることの多い御仁だ。ただワグノリス王国から彼の著作が入ってくることはごく少なくてな、原書で読もうにも俺はワグノリスの言葉が苦手なのだ。正確には、書き言葉がまだ慣れていない。だから理解が不十分になってしまう、それでなかなか手が出せなかった」
ジーベルン子爵はとても饒舌に喋ります。まるで十年来の友人に再会したかのように開けっぴろげに語るものですから、私もはあ、と相槌を打つしかありません。私からすれば初対面の殿方なので、それも貴族の方相手ですから、失礼のないようにすることが第一です。
ところがジーベルン子爵、私を同好の士と見做したようです。
「ちらっと見せてもらったが、お前の翻訳は簡潔で読みやすい。ここまでワグノリス王国の言葉に精通している人間はアスタニア帝国には少ないぞ、お前はどこの出だ?」
「えっと……実は、ワグノリス王国の出身でございます」
それを言うことには抵抗感がありましたが、嘘を吐いてもすぐにばれてしまいます。慣れてきたとはいえ私の言葉はアスタニア帝国の貴族言語ですし、一介の街娘がどうしてワグノリス王国の言葉を流暢に操れるか、という話になってしまいます。
疑われて困るのは私です。それなら、いっそ言っておくほうがいい、と決断しました。あとは責められないことを祈るのみですが——。
「何? では、お前はアスタニア帝国の言葉を学んで、ここまで書けているということか?」
「はい。あの、お気に召しませんでしたら」
ジーベルン子爵は思いっきり首を横に振りました。
「気に入らないことがあるものか! 他には何を翻訳した? まだこれだけか?」
「すでにワーゲンティ男爵の小説を一本、あちらは古典籍からの引用が多いので比較的速やかにできました」
「それは持ってこなかったのか?」
「はい、古典は飽きておられるかもしれないからと思い」
「そんなこともない。いやしかし、それも読みたいぞ。どうにか送ってもらえないか」
「では、カルタバージュに戻りましたら、写しをお送りいたします」
「うむ、頼んだ。ああそうか、代金を払わねばなるまい。金でよければすぐに手配できるが」
私は少し考えました。お金をもらってもいいのですが、ジーベルン子爵にしかできないことをしてもらったほうがいいような気がするのです。
考えた末に、私はこう言うことにしました。
「ではジーベルン子爵閣下、本を交換しましょう」
「ラッセル・ブロード卿のことは俺も知っている。詩人であり戯曲作家、騎士であり義人、その奇才ぶりから讃えられることの多い御仁だ。ただワグノリス王国から彼の著作が入ってくることはごく少なくてな、原書で読もうにも俺はワグノリスの言葉が苦手なのだ。正確には、書き言葉がまだ慣れていない。だから理解が不十分になってしまう、それでなかなか手が出せなかった」
ジーベルン子爵はとても饒舌に喋ります。まるで十年来の友人に再会したかのように開けっぴろげに語るものですから、私もはあ、と相槌を打つしかありません。私からすれば初対面の殿方なので、それも貴族の方相手ですから、失礼のないようにすることが第一です。
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「何? では、お前はアスタニア帝国の言葉を学んで、ここまで書けているということか?」
「はい。あの、お気に召しませんでしたら」
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