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第二十九話
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なんだろう、と眺めていると、私の手のひらにそれらを乗せました。驚け、とばかりにとんでもないものを乗せていきます。
「これが婚約指輪」
「はひ!?」
「これが結婚指輪」
「へあ!?」
「そしてこれがお前に似合うだろうと思って買ってきたプレゼントの指輪だ」
なんということでしょう。驚きの奇声を上げる私の手のひらに、三つの指輪が現れました。
シンプルな銀の指輪と金の指輪、そして一つだけダイヤモンドのあしらわれた指輪です。
してやったりのヴィンチェンツォは、イタズラっぽい表情で私を眺めていました。私はもう、なにがなんだか分からず、慌てっぱなしです。
「もっと欲しいか?」
「いえ! 三つあっても私の左手薬指は一本なので!」
「何だその断り方は。なら、そうだな……うーん」
「私としましては、その、ヴィンチェンツォ様のご厚意で」
「ああ、子供が欲しいか?」
「ぶっ!?!?!?」
私は瞬時に頭を思いっきり下げ、ヴィンチェンツォに吹き出した顔を見られずに済みました、多分。
どストレートなヴィンチェンツォらしいと言えばらしい、その冗談は笑うに笑えません。
私がぷるぷる肩を震わせていると、ヴィンチェンツォはその私の肩を叩きました。
「ははっ、冗談だ。しかし困ったな、『野蛮人』には淑女の愛し方が分からない」
あ、冗談ですよね、よかった。冗談でよかった。
私は必死に顔を取り繕い、やっとの思いでヴィンチェンツォをまっすぐに見つめます。
なにを言えばいいのでしょう。しどろもどろな私は顔が火照って、空気が冷たく感じられます。
意外とヴィンチェンツォは冗談が——その内容はともかく——お好きで、私に一気に指輪を三つもプレゼントしてくるような好意のダイレクトな表し方をして、その上ご本人は自分が公爵家の公子でありながら『野蛮人』だと自覚もあるようです。
ということは、です。ヴィンチェンツォは、貴族風のまどろっこしいロマンスの言葉など、求めてはいないでしょう。
私は、思いつくままに欲しいものを、なにをしてほしいのかを、まっすぐに伝えます。
「あなたに、に、似合うように、なりますから、愛してください」
私は握っていた右手を差し出します。ヴィンチェンツォの手へ押し付けるように、作ってしまった鉄の指輪を渡しました。ヴィンチェンツォでも銀とか金とかダイヤモンドを選んだのに、私ったら鉄です。なんでしょう、この差は。
しかし、ヴィンチェンツォがそんなことを気にするはずもありません。鉄の指輪を一つ自分の薬指にはめると、もう一つを私の左手薬指に押し込みました。他の指輪もまとめてです。
ふふん、と得意げなヴィンチェンツォは、こほん、と咳払いをしてから、デスクチェアに深く腰掛け、両手両足を広げます。
「では、愛してやる。まずはほら、一度抱きしめておきたい」
そう言って、ヴィンチェンツォは優しく呼びかけてきます。
「おいで、ユリア」
呼ばれたなら、私は自分の足を止めることはできません。
思いっきり、踏み台から立ち上がって、ヴィンチェンツォの胸に飛び込みました。それでもヴィンチェンツォは難なく受け止め、自分の肩に私の顔を抱き寄せて、しっかりと両腕を私の体に回します。
ぎゅっと、ちょっと力強いくらい抱き止められて、私はヴィンチェンツォの首筋に鼻を押しつけました。
ああ、幸せ。うっかりうっとり眠ってしまうほどに、ヴィンチェンツォはずっと私を抱きしめていました。
どんな顔をしているのでしょう、見てしまうとだめでしょうか。でもそれはまた今度にしましょう。
今はですね、あなたの匂いを憶えたいのです。
「これが婚約指輪」
「はひ!?」
「これが結婚指輪」
「へあ!?」
「そしてこれがお前に似合うだろうと思って買ってきたプレゼントの指輪だ」
なんということでしょう。驚きの奇声を上げる私の手のひらに、三つの指輪が現れました。
シンプルな銀の指輪と金の指輪、そして一つだけダイヤモンドのあしらわれた指輪です。
してやったりのヴィンチェンツォは、イタズラっぽい表情で私を眺めていました。私はもう、なにがなんだか分からず、慌てっぱなしです。
「もっと欲しいか?」
「いえ! 三つあっても私の左手薬指は一本なので!」
「何だその断り方は。なら、そうだな……うーん」
「私としましては、その、ヴィンチェンツォ様のご厚意で」
「ああ、子供が欲しいか?」
「ぶっ!?!?!?」
私は瞬時に頭を思いっきり下げ、ヴィンチェンツォに吹き出した顔を見られずに済みました、多分。
どストレートなヴィンチェンツォらしいと言えばらしい、その冗談は笑うに笑えません。
私がぷるぷる肩を震わせていると、ヴィンチェンツォはその私の肩を叩きました。
「ははっ、冗談だ。しかし困ったな、『野蛮人』には淑女の愛し方が分からない」
あ、冗談ですよね、よかった。冗談でよかった。
私は必死に顔を取り繕い、やっとの思いでヴィンチェンツォをまっすぐに見つめます。
なにを言えばいいのでしょう。しどろもどろな私は顔が火照って、空気が冷たく感じられます。
意外とヴィンチェンツォは冗談が——その内容はともかく——お好きで、私に一気に指輪を三つもプレゼントしてくるような好意のダイレクトな表し方をして、その上ご本人は自分が公爵家の公子でありながら『野蛮人』だと自覚もあるようです。
ということは、です。ヴィンチェンツォは、貴族風のまどろっこしいロマンスの言葉など、求めてはいないでしょう。
私は、思いつくままに欲しいものを、なにをしてほしいのかを、まっすぐに伝えます。
「あなたに、に、似合うように、なりますから、愛してください」
私は握っていた右手を差し出します。ヴィンチェンツォの手へ押し付けるように、作ってしまった鉄の指輪を渡しました。ヴィンチェンツォでも銀とか金とかダイヤモンドを選んだのに、私ったら鉄です。なんでしょう、この差は。
しかし、ヴィンチェンツォがそんなことを気にするはずもありません。鉄の指輪を一つ自分の薬指にはめると、もう一つを私の左手薬指に押し込みました。他の指輪もまとめてです。
ふふん、と得意げなヴィンチェンツォは、こほん、と咳払いをしてから、デスクチェアに深く腰掛け、両手両足を広げます。
「では、愛してやる。まずはほら、一度抱きしめておきたい」
そう言って、ヴィンチェンツォは優しく呼びかけてきます。
「おいで、ユリア」
呼ばれたなら、私は自分の足を止めることはできません。
思いっきり、踏み台から立ち上がって、ヴィンチェンツォの胸に飛び込みました。それでもヴィンチェンツォは難なく受け止め、自分の肩に私の顔を抱き寄せて、しっかりと両腕を私の体に回します。
ぎゅっと、ちょっと力強いくらい抱き止められて、私はヴィンチェンツォの首筋に鼻を押しつけました。
ああ、幸せ。うっかりうっとり眠ってしまうほどに、ヴィンチェンツォはずっと私を抱きしめていました。
どんな顔をしているのでしょう、見てしまうとだめでしょうか。でもそれはまた今度にしましょう。
今はですね、あなたの匂いを憶えたいのです。
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