元が付いてしまった辺境伯家令嬢を助けてくれたのは野蛮人な公子様でした。

ルーシャオ

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第十六話

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「それでね、お義姉様。まずエンツォお兄様から伝言。兵は拙速を尊ぶ、王宮の貴族たちが余計な口を挟む前にスカヴィーノ侯爵家令嬢アナトリアとタドリーニ侯爵家のベネデットとくっつけるように、って。もちろん、私と一緒によ」

 ふむふむ、私もその言わんとするところは分かります。

 裕福なタドリーニ侯爵家嫡男と婚約を結びたい貴族令嬢はいくらでもいます、その争奪戦をまともにやるのではなく、裕福さでは他家より頭一つ分は上であるスカヴィーノ侯爵家が掻っ攫う形であればさほど異論は出ないと思われます。貴族はすぐに陰謀を巡らせますから、その時間さえ与えないというのは理に適っていますね。さすがヴィンチェンツォです、戦いの嗅覚は舞台がどこであろうと優れているようです。

 さらに、拙速を尊ぶ理由はもう一つありました。

「お兄様のおっしゃる方針は、私も賛成よ。とにかく、レーリチ公爵家は敵が多いわ。公私ともに邪魔者はどこにでもいて、やつらに察知される前に行動を終えておく必要があるの。おそらくエンツォお兄様は素早く旧ペトリ辺境伯領を解放して、ウェンダロスを追い払うでしょうけど、長くかかっても、二、三週間だと思うわ。それまでに、こちらもやってやらなきゃ!」

 鼻息荒く、ペネロペは盛大にそろばんを弾きます。

 それはいいのですが、私はいまいち貴族らしい策略には縁がなく、どうすればいいのか分かりません。

 であれば、分からないことは聞く以外ありません。正直にペネロペへ尋ねます。

「しかし、どうやってやるのでしょう? ペネロペさんのお考えを教えていただいてもよろしいですか?」
「いいわ! まず、タドリーニ侯爵家のことは任せて。昨日のうちに私のネットワークで各所に情報収集を頼んであるし、どう転んでも不名誉な婚約破棄が大っぴらになる前に次の婚約者探しをしようとするでしょうから、それに乗っかるわ」

 なんと、ペネロペはすでに動きはじめていました。社交界の戦いでは頼りになる、とヴィンチェンツォが言ったとおりです。もごもごパストラミサンドを頬張るペネロペもまた、兄と同様に異名を持っており——『無瑕の令嬢レディ・フローレス』と呼ばれているそうです。意味? うーん、それとなく今度聞いておきましょう。

 ペネロペがここまでしてくれているのに、私が何もしないわけにはいきません。

 私はこう提案しました。

「では、私はアナトリア様へ、私がヴィンチェンツォ様の婚約者になる旨をお伝えします。お会いする機会を設けていただけますか?」
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