元が付いてしまった辺境伯家令嬢を助けてくれたのは野蛮人な公子様でした。

ルーシャオ

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第十五話

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 やってしまいました。

 私、ユリア・ペトリは、昨日夕食時に泣きすぎて、そのまま眠ってしまったため、ヴィンチェンツォの見送りができませんでした。

 なんということでしょう。失態どころではありません、婚約者の出兵の見送りにくらい出てこいと言われても平謝るしかできませんよ、これは。

 悲しみのあまりベッドから這い上がれず、涙目になっていた私を起こしにきたのは、ペネロペでした。

「おはよう、お義姉様! いい天気よ!」

 そう言って、ペネロペは私の被っている布団を引っぺがします。テキパキと私の上体を引っ張って起こし、くるっと方向転換させてベッドに腰掛ける体勢にさせ、そのままスリッパを履かせて背中を押していきます。

 昨日と同じく、ベッドから少し離れたところにあるテーブルには、すでに朝食が並べられています。やっと意識がはっきりして感覚が蘇ってきた私は、嗅覚と視覚の両方で山盛りのクロワッサンの存在を見つけました。

 クロワッサンに誘われて近くへ寄ってみると、とんでもないものを目にします。

「これ、これ全部、朝食用なのですか……!?」
「そうよ!」

 私が思わず声を上擦らせたわけは——テーブル一面に広げられた、品評会のごとく少量多品種のハムとチーズを並べた大皿がどんと二つあったからです。

 お皿の端から端まで、扇状に並べられたロースにショルダー、ボンレス、サラミ、パストラミ。薄く切った生ハムまであります。その隣に、三角の薄切りチェダー、どんと置かれた白い巾着型のブッラータ、荒削りされたオレンジのゴーダに、穴だらけのハヴァティまでチーズがびっしりです。

 一体、これをどうしろと。私が慌てふためていていると、ペネロペがさっとテーブルに手を伸ばしました。

 クロワッサンは横に切れ目が入っており、そこに具材を入れて挟んで食べる。申し訳程度に添えられた塩漬けキャベツと玉ねぎのスライスもいいでしょう、ペネロペはどんどんクロワッサンの切れ目へと載せて、載せて、ついにはキャベツ、ハム、チーズははみ出ています。それをクロワッサンのふたで閉じて、私へ差し出してきました。

「はい、お義姉様! あーん!」

 待って、それ一口じゃ食べられませんから。

 私はクロワッサンサンドを受け取り、はみ出て落ちかけたハヴァティチーズを齧ります。さっぱり、クリーミーな甘々チーズです。もうこの一口だけで幸せなのですが、まだまだクロワッサンの具材たちは食べてくれと押し寄せてきています。順番に、順番に! 私はクロワッサンの端から小口で食べていきます。

 私の実家がある、旧ペトリ辺境伯領は冬は雪に閉ざされる山々に囲まれた冷涼な土地で、牧草はたっぷりあるため牛や羊の飼育が盛んです。特にマンチェゴという羊乳チーズが美味しく、もっぱらグラタンに乗せたり直火で炙って食べていました。他にも熟成庫には牛乳で作るグリエールチーズがあって、混ぜて食べると——うん、さすがに贅沢すぎますね、それは。

 私は途中から椅子に座ってクロワッサンサンドを平らげます。パストラミしか挟んでいないクロワッサンを頬張るペネロペは、もう一つブッラータチーズまみれのクロワッサンサンドを作って、自分の皿に確保していました。
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