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第十三話
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午後六時を知らせる柱時計の鐘の音が鳴り、お腹もぐーと鳴ります。
それもそのはずです、目の前には——煮込んだ細切れお肉とトマトたっぷりデミグラスソースがマリアージュして、湯気立つ銀のスープジャーにどんと満タンです。そして白磁器のボウルに盛られたライスにかけろとばかりに雫型のレードルが置かれ、さらには食欲を刺激する旨味の香りが部屋中に充満していました。
普通なら盛り付けはメイドがやるのでしょうが、レーリチ公爵家は違います。ペネロペは自分の手で、ライスへ好きなだけハッシュドビーフのデミグラスソース煮込みをかけ、そのブラウンのソースの上にサワークリームを——サーバースプーンでドバッとすくって、盛りました。そこに遠慮も何もありません、目を輝かせて食欲に任せての行動が許されています。
なんということでしょう、貴族令嬢がこんなはしたないことをして食べていいのでしょうか。いえ、私はいいのです、『元』がつきますし。あと家で大体そんな感じでしたから。ええ、大声では言えませんが。
しかし、そんなマナーなどどこ吹く風、ペネロペはすでに大満足の顔をしています。
「いいでしょう? うちではマナーなんて気にしなくていいわ、だって美味しいものを食べるほうが優先よ! お義姉様も好きなだけよそって食べていいのよ!」
「は、はあ……ペネロペ様、お気遣いを」
「様はやめて!」
ペネロペはまるで吠え立てる小型犬のように怒っていました。ああ、そんなに乱暴に振るったら、その手にある銀のスプーンは曲がってしまいます。
「私、お姉様が欲しかったのよ! だってエンツォお兄様は貴族の間でも避けられるような野蛮人だし、大兄様たちもお父様も全然気にしないし、私の味方がいなかったの! お母様も早くに亡くなったから、それで」
最初こそ勢いはよかったものの、だんだんとペネロペの声のトーンは低く、フェードアウトしていきました。銀のスプーンを持つ手も下ろされ、力なくテーブルに置かれるばかりです。
ペネロペのこのしょんぼりには事情がある、やっと気付いた私は、親切にしてくれたペネロペに尋ねることにしました。
「ペネロペ……さん?」
「うーん、まあ、呼び捨てじゃなくてもいいわ」
「では、ペネロペさん。私、今日レーリチ公爵家の門を叩いたばかりで、ましてや辺境の出の田舎者ですから、ヴィンチェンツォ様やあなたのご家族については何も知りません。このお家のことだって、先祖代々武功を立ててきた立派な公爵家ということしか知らなくて……はい、本当に失礼しました、えっとでもですね、でも、少しずつでも知ることができたなら、と思ったりしています」
思えば、今日の私の無礼っぷりはとどまるところを知りませんね。人生で一番目まぐるしく運命が回った日だと思いますし、上手くいきすぎて怖い、とさえ実はちょっぴり思っています。
本当は、どこかに落とし穴があるのではないか。ここまで親切にしてもらっているにもかかわらず、私は失礼ながらそんな不安を捨てられていません。
とりあえず、私は怪しい者ではないと証明しなくては。説明下手ながらも、私はがんばります。
それもそのはずです、目の前には——煮込んだ細切れお肉とトマトたっぷりデミグラスソースがマリアージュして、湯気立つ銀のスープジャーにどんと満タンです。そして白磁器のボウルに盛られたライスにかけろとばかりに雫型のレードルが置かれ、さらには食欲を刺激する旨味の香りが部屋中に充満していました。
普通なら盛り付けはメイドがやるのでしょうが、レーリチ公爵家は違います。ペネロペは自分の手で、ライスへ好きなだけハッシュドビーフのデミグラスソース煮込みをかけ、そのブラウンのソースの上にサワークリームを——サーバースプーンでドバッとすくって、盛りました。そこに遠慮も何もありません、目を輝かせて食欲に任せての行動が許されています。
なんということでしょう、貴族令嬢がこんなはしたないことをして食べていいのでしょうか。いえ、私はいいのです、『元』がつきますし。あと家で大体そんな感じでしたから。ええ、大声では言えませんが。
しかし、そんなマナーなどどこ吹く風、ペネロペはすでに大満足の顔をしています。
「いいでしょう? うちではマナーなんて気にしなくていいわ、だって美味しいものを食べるほうが優先よ! お義姉様も好きなだけよそって食べていいのよ!」
「は、はあ……ペネロペ様、お気遣いを」
「様はやめて!」
ペネロペはまるで吠え立てる小型犬のように怒っていました。ああ、そんなに乱暴に振るったら、その手にある銀のスプーンは曲がってしまいます。
「私、お姉様が欲しかったのよ! だってエンツォお兄様は貴族の間でも避けられるような野蛮人だし、大兄様たちもお父様も全然気にしないし、私の味方がいなかったの! お母様も早くに亡くなったから、それで」
最初こそ勢いはよかったものの、だんだんとペネロペの声のトーンは低く、フェードアウトしていきました。銀のスプーンを持つ手も下ろされ、力なくテーブルに置かれるばかりです。
ペネロペのこのしょんぼりには事情がある、やっと気付いた私は、親切にしてくれたペネロペに尋ねることにしました。
「ペネロペ……さん?」
「うーん、まあ、呼び捨てじゃなくてもいいわ」
「では、ペネロペさん。私、今日レーリチ公爵家の門を叩いたばかりで、ましてや辺境の出の田舎者ですから、ヴィンチェンツォ様やあなたのご家族については何も知りません。このお家のことだって、先祖代々武功を立ててきた立派な公爵家ということしか知らなくて……はい、本当に失礼しました、えっとでもですね、でも、少しずつでも知ることができたなら、と思ったりしています」
思えば、今日の私の無礼っぷりはとどまるところを知りませんね。人生で一番目まぐるしく運命が回った日だと思いますし、上手くいきすぎて怖い、とさえ実はちょっぴり思っています。
本当は、どこかに落とし穴があるのではないか。ここまで親切にしてもらっているにもかかわらず、私は失礼ながらそんな不安を捨てられていません。
とりあえず、私は怪しい者ではないと証明しなくては。説明下手ながらも、私はがんばります。
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