元が付いてしまった辺境伯家令嬢を助けてくれたのは野蛮人な公子様でした。

ルーシャオ

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第三話

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 門扉の鉄柵は冷たいです。真冬でなくてよかった、握っていれば少しは温かくなります。

 泣くことだけは我慢して叫んでいた私の前へ、人だかりをかき分けて、一人の背の高い男性がやってきました。短く揃えた銀髪に、一目で分かる高級生地のスーツに厚手の白いコートを着た、初老の男性です。背筋はしっかりと伸び、よく見ればスーツの胸元にはレーリチ公爵家の紋章が金糸で刺繍されています。

 間違いありません。この殿方が、レーリチ公爵でしょう。私はそれを察して鉄柵から手を離し、一礼をします。そこへ、まさしく

「初めまして、でいいかな、お嬢さん。私はこのレーリチ公爵家当主のアンドレアだ。君はペトリ辺境伯令嬢ユリア、間違いないね?」

 とんでもない威厳のこもった声に、私はただ深く頭を下げるばかりでした。

 何かを言わなければ、そう思っても、レーリチ公爵の前ではその威圧感に手先が震えます。しかし、怖いという感情に支配される前に、私はやらなければならないことがあります。

「おっしゃるとおり、です! 私は、勝手ながらお願いしたいことがあってまいりました!」

 そう言ってから、ちらりとレーリチ公爵を見上げます。

 ところが、レーリチ公爵は私と視線を合わせた瞬間、ぱあっと顔を明るくして、近くにいた執事たちへこう言いつけました。

「うむ、大丈夫だ、このお嬢さんは私の客人だ。暖炉のある客間に通して差し上げろ、それからはちみつの瓶とたっぷりのジンジャーティーを。寒い中、うら若き乙女が体を冷やすものではないからね」

 それからは、あっという間です。私は開かれた門扉から屋敷へと案内され、あれよあれよと客間に入り、燃え盛る暖炉の前に敷かれた白熊の毛皮の上へ、ぺたんと座りました。

「こちらで手足を温めて、少々お待ちください。ゆっくりくつろいでくださってかまいません、旦那様はもうじきいらっしゃいますので」

 もてなしに熟達した老執事にそう言われて、私はこくこくと頷きます。さすが公爵家、客間と言えど家一軒が入りそうな大きさの部屋に、二つのカウチソファとローテーブル、そして大きな暖炉があります。立派なツノのトナカイやホワイトタイガーの剥製があったりと、貴族らしい狩猟の実績がずらりと壁一面に飾られていました。剣に、弓矢に、猟銃、それらも輝かんばかりに磨かれて、大切に掲げられています。

 私はいつの間にか消えた震えに安堵して、運ばれてきたあったかいジンジャーティーに口をつけます。入れてもらったハチミツは上等なもので、アカシアのふんわりとした花の香りがしました。ブーツの中で冷えていた足先も、暖炉の火で溶けてしまったように熱が戻ってきました。

 この落差、まるで天国——と言っている場合ではありません。

 客間の扉が開きました。振り向くと、先ほど会ったレーリチ公爵と、それと二十歳くらいの金髪の青年が入ってきて、私の座る暖炉の前に、それぞれちょうど私の左右にどかりと座り込みました。

 レーリチ公爵はにこやかなのですが、金髪の青年は凛々しい、という形容詞がよくお似合いの殿方です。体格もいいですし、レーリチ公爵にも劣らない高級そうなスーツを着ています。その胸元にはやはり、月桂樹の冠に戦斧ハルバード二本を交差させたレーリチ公爵家の紋章があるので、きっと息子さんでしょう。さすがにレーリチ公爵家の家族構成までは私も知らないため、多分そうとしか言いようがありません。

 私の右隣に座ったレーリチ公爵が、自分のティーカップを老執事から受け取り、ジンジャーティーにたっぷりのはちみつを加えながら話しはじめました。

「待たせたね、ユリア嬢。さて、話を聞こう」
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