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第十三話
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翌日、もはや日課のように裏庭へやってきたエリヴィラ王女へ、私はカレヴィとのお見合いについて話したところ、目を輝かせてとても食いつかれた。
「それでそれで!? エイダ、結婚しちゃうの?」
「はい、そうします」
「おめでとう! 宮廷医師の家なら社会的信用もあるし、エイダが変な貴族に見初められなくて本当によかったわ!」
「ありがとうございます、エリヴィラ様」
エリヴィラ王女とは仲良くしているとはいえ、こんなに祝福してもらえるとは思ってもみなかった。素直に嬉しく、照れ笑いを返す。
ただ、エリヴィラ王女はこのごろ何かしたいお年頃のようで、こんな提案をしてきた。
「んー、でも、毎日ここに来るのは大変でしょう? 家を空けてばかりもいられないだろうし……そうだ! 私が裏庭の管理を手伝ってあげるわ!」
「ええ!? で、でも、王女殿下に土いじりをさせるわけにはいきませんよ!」
「私だってこの一年、あなたのところに通って何もしなかったわけじゃないわ。おばあさまのためでもあるし、薬師のデ・ヴァレスだって私のことは信用してくれているのよ? 変な輩にここを任せるわけにはいかないでしょう?」
「そ、それはそうですね……あぅ、確かに、エリヴィラ様以外の人には任せられません」
「うん、そういうこと!」
そういうわけで、私はすっかり押し切られてしまった。裏庭の管理人を辞めるわけではないものの、トゥルトゥラ家の屋敷にも薬草園を作るのだから世話が大変だ。やはり、見知ったエリヴィラ王女の手を借りるというのは悪くない話だ。私はそう納得した。
「では、水やりなど毎日のお世話はエリヴィラ様にお任せします。収穫や剪定は私がやりますから」
「そうね、それがいいわ。ところで、あのすみっこの温室は何を育てているの?」
「それが」
私が裏庭の隅に置いている小さな手製の温室について説明しようとしたところ、薬師のデ・ヴァレスがやってきた。
「おおい、エイダ。やっと分かったぞ。おや、エリヴィラ様。ご機嫌麗しゅう」
「ええ、ご機嫌よう。どうぞ、話を続けて」
「お気遣い痛み入ります。エイダ、この間見せてもらった見たこともない草だが、薬師会や植物ハンター協会で見てもらったら、どうやら新種だと分かってな」
「ええ!?」
「そ、そうなんですか!?」
薬師のデ・ヴァレスは嬉しそうにしわのある顔を綻ばせている。
最近、裏庭の手製の温室の中に、見慣れない草が生えていると思い、私は薬師のデ・ヴァレスへ見せていたのだ。ところが薬師のデ・ヴァレスさえも知らない草で、ただの雑草ではないと見て取った薬師のデ・ヴァレスは専門家へ鑑定を依頼すると言って持ち出していた。
それが新種だとは、さすがに私も予想しておらず、エリヴィラ王女と手を叩いて喜び合う。
「うむ、成分分析もしてもらってな、明確に既存の草花と違うものだと証明できた。見つけたエイダのお手柄だよ、名前をつけなくてはね」
「はわわ、名前!? そんなすごいこと」
「すごいじゃない、エイダ! 友達として誇らしいわ!」
エリヴィラ王女に抱きつかれ、私は別の意味でとても焦った。友達と思われていたんだ、とじーんと感動する。
その後、その草は何も思いつかなかった私の名前を冠したエイダの薬草と名付けられ、私は大事に嫁ぎ先のトゥルトゥラ家の屋敷に持ち込んで育てはじめた。
それに、話を聞いたカレヴィは我がことのように喜んでくれた、それが私には一番嬉しいことだった。
「聞いたぞ、エイダ。新種を発見したそうじゃないか。どうやって見つけたんだ?」
「それは、じっと見ていたら違っていたので」
私は本当に正直に話したのだが、カレヴィは「よし!」と言って私の手を引っ張り、新しく仕入れた植物置き場へ連れていった。
「エイダ、ここに新種がないか見てくれ!」
「えええ!?」
「頼む! こうしちゃいられない、どんどん輸入される植物を買って新種かどうかを確かめないと!」
「カレヴィ様、ほどほどに! ほどほどにしてくださいー!」
そんなふうに、愉快だったり嬉しかったり慌てたりと、私の旦那様は面白い方だと分かって、すっごく微笑ましい。
私は王城の宿舎からトゥルトゥラ家の屋敷に引っ越しして、そこから週に何度か王城の裏庭に通うこととなった。
「それでそれで!? エイダ、結婚しちゃうの?」
「はい、そうします」
「おめでとう! 宮廷医師の家なら社会的信用もあるし、エイダが変な貴族に見初められなくて本当によかったわ!」
「ありがとうございます、エリヴィラ様」
エリヴィラ王女とは仲良くしているとはいえ、こんなに祝福してもらえるとは思ってもみなかった。素直に嬉しく、照れ笑いを返す。
ただ、エリヴィラ王女はこのごろ何かしたいお年頃のようで、こんな提案をしてきた。
「んー、でも、毎日ここに来るのは大変でしょう? 家を空けてばかりもいられないだろうし……そうだ! 私が裏庭の管理を手伝ってあげるわ!」
「ええ!? で、でも、王女殿下に土いじりをさせるわけにはいきませんよ!」
「私だってこの一年、あなたのところに通って何もしなかったわけじゃないわ。おばあさまのためでもあるし、薬師のデ・ヴァレスだって私のことは信用してくれているのよ? 変な輩にここを任せるわけにはいかないでしょう?」
「そ、それはそうですね……あぅ、確かに、エリヴィラ様以外の人には任せられません」
「うん、そういうこと!」
そういうわけで、私はすっかり押し切られてしまった。裏庭の管理人を辞めるわけではないものの、トゥルトゥラ家の屋敷にも薬草園を作るのだから世話が大変だ。やはり、見知ったエリヴィラ王女の手を借りるというのは悪くない話だ。私はそう納得した。
「では、水やりなど毎日のお世話はエリヴィラ様にお任せします。収穫や剪定は私がやりますから」
「そうね、それがいいわ。ところで、あのすみっこの温室は何を育てているの?」
「それが」
私が裏庭の隅に置いている小さな手製の温室について説明しようとしたところ、薬師のデ・ヴァレスがやってきた。
「おおい、エイダ。やっと分かったぞ。おや、エリヴィラ様。ご機嫌麗しゅう」
「ええ、ご機嫌よう。どうぞ、話を続けて」
「お気遣い痛み入ります。エイダ、この間見せてもらった見たこともない草だが、薬師会や植物ハンター協会で見てもらったら、どうやら新種だと分かってな」
「ええ!?」
「そ、そうなんですか!?」
薬師のデ・ヴァレスは嬉しそうにしわのある顔を綻ばせている。
最近、裏庭の手製の温室の中に、見慣れない草が生えていると思い、私は薬師のデ・ヴァレスへ見せていたのだ。ところが薬師のデ・ヴァレスさえも知らない草で、ただの雑草ではないと見て取った薬師のデ・ヴァレスは専門家へ鑑定を依頼すると言って持ち出していた。
それが新種だとは、さすがに私も予想しておらず、エリヴィラ王女と手を叩いて喜び合う。
「うむ、成分分析もしてもらってな、明確に既存の草花と違うものだと証明できた。見つけたエイダのお手柄だよ、名前をつけなくてはね」
「はわわ、名前!? そんなすごいこと」
「すごいじゃない、エイダ! 友達として誇らしいわ!」
エリヴィラ王女に抱きつかれ、私は別の意味でとても焦った。友達と思われていたんだ、とじーんと感動する。
その後、その草は何も思いつかなかった私の名前を冠したエイダの薬草と名付けられ、私は大事に嫁ぎ先のトゥルトゥラ家の屋敷に持ち込んで育てはじめた。
それに、話を聞いたカレヴィは我がことのように喜んでくれた、それが私には一番嬉しいことだった。
「聞いたぞ、エイダ。新種を発見したそうじゃないか。どうやって見つけたんだ?」
「それは、じっと見ていたら違っていたので」
私は本当に正直に話したのだが、カレヴィは「よし!」と言って私の手を引っ張り、新しく仕入れた植物置き場へ連れていった。
「エイダ、ここに新種がないか見てくれ!」
「えええ!?」
「頼む! こうしちゃいられない、どんどん輸入される植物を買って新種かどうかを確かめないと!」
「カレヴィ様、ほどほどに! ほどほどにしてくださいー!」
そんなふうに、愉快だったり嬉しかったり慌てたりと、私の旦那様は面白い方だと分かって、すっごく微笑ましい。
私は王城の宿舎からトゥルトゥラ家の屋敷に引っ越しして、そこから週に何度か王城の裏庭に通うこととなった。
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