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第九話
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前日にお風呂に入って、とっておきのブラウスと流行りの巻きスカートを着て、まとまりの悪い赤毛を高価なバラ水の入ったトリートメントで何とかして、ゆるく一つに結ぶ。一つだけ持っている革の手提げ鞄を持ち、私は早朝の宿舎から出発した。
送ってもらった案内状によれば、トゥルトゥラ家の屋敷は城下町の高級住宅地にあり、王城からはほど近い。ゆっくり歩いていける距離だ。
久しぶりの化粧が上手くいって浮かれていた私は、周囲をよく見ていなかった。曲がり角から現れた見覚えのあるメイドとぶつかりそうになり、慌てて避ける。
「きゃ!?」
「ちょっと!」
ギリギリ互いにぶつからず、立ち止まって相手を見ると、やはり宮廷メイドのネルだった。メイド服姿のネルは不機嫌そうだ。
「もう、どこ見てるのよ!」
「ご、ごめんなさい」
「って、ああ、エイダか。どうしたの? そんなお洒落して」
咄嗟に、私はお見合いという言葉を飲み込んだ。言ってしまえば、どこでどんな噂を立てられるか分からない。私を陥れたネルとこれ以上諍いを起こしたくもなく、私は無難に答える。
「き、今日はお休みをもらったので、街へ」
「ふぅん……いいわねぇ、裏庭なんか放っておいていいんだから」
ネルのその言葉に、羨ましいという気持ちは微塵もないことくらい、私にも分かる。
どうにか逃げ出そうとしていると、ネルの背後から別の宮廷メイドたちが服を整えながら現れた。私をすげなく一瞥し、ネルを呼ぶ。
「ネル、早く来なさいよ。裏庭係にいつまでも突っかかるんじゃないわよ」
「今行くわ! じゃ、忙しいからこれで。今日は舞踏会の日だから準備が大変なのよ」
「あ、はい……」
私は連れ立って王城内へ向かう宮廷メイドたちを見送り、自分の目的を思い出して歩きはじめる。
急いで王城から出ようとして、早足だったにもかかわらず、聞きたくない罵り言葉は私の背中を追いかけてくる。
「裏庭係、まだいたの?」
「なかなか辞めないわねぇ」
「見た? あんな頑張ったって男はあんたのことなんか見ないっての」
「言えてる」
私は走り出した。宿舎を抜け、城門まで一直線に駆けていく。
早く忘れてしまえ。あんな人たちのことなんか忘れてしまえ。自分へそう思い込ませながら、私は城下町へと飛び出した。
送ってもらった案内状によれば、トゥルトゥラ家の屋敷は城下町の高級住宅地にあり、王城からはほど近い。ゆっくり歩いていける距離だ。
久しぶりの化粧が上手くいって浮かれていた私は、周囲をよく見ていなかった。曲がり角から現れた見覚えのあるメイドとぶつかりそうになり、慌てて避ける。
「きゃ!?」
「ちょっと!」
ギリギリ互いにぶつからず、立ち止まって相手を見ると、やはり宮廷メイドのネルだった。メイド服姿のネルは不機嫌そうだ。
「もう、どこ見てるのよ!」
「ご、ごめんなさい」
「って、ああ、エイダか。どうしたの? そんなお洒落して」
咄嗟に、私はお見合いという言葉を飲み込んだ。言ってしまえば、どこでどんな噂を立てられるか分からない。私を陥れたネルとこれ以上諍いを起こしたくもなく、私は無難に答える。
「き、今日はお休みをもらったので、街へ」
「ふぅん……いいわねぇ、裏庭なんか放っておいていいんだから」
ネルのその言葉に、羨ましいという気持ちは微塵もないことくらい、私にも分かる。
どうにか逃げ出そうとしていると、ネルの背後から別の宮廷メイドたちが服を整えながら現れた。私をすげなく一瞥し、ネルを呼ぶ。
「ネル、早く来なさいよ。裏庭係にいつまでも突っかかるんじゃないわよ」
「今行くわ! じゃ、忙しいからこれで。今日は舞踏会の日だから準備が大変なのよ」
「あ、はい……」
私は連れ立って王城内へ向かう宮廷メイドたちを見送り、自分の目的を思い出して歩きはじめる。
急いで王城から出ようとして、早足だったにもかかわらず、聞きたくない罵り言葉は私の背中を追いかけてくる。
「裏庭係、まだいたの?」
「なかなか辞めないわねぇ」
「見た? あんな頑張ったって男はあんたのことなんか見ないっての」
「言えてる」
私は走り出した。宿舎を抜け、城門まで一直線に駆けていく。
早く忘れてしまえ。あんな人たちのことなんか忘れてしまえ。自分へそう思い込ませながら、私は城下町へと飛び出した。
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