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第五話

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 最近は裏庭に丸太を持ち込み、座ってご飯を食べる。昼食を食べ終えた私は、トレイを食堂へ返そうと立ち上がった。

 そのとき、裏庭へ腰ほどの高さの影がにょっと侵入してきた。私は身構え、影の正体を確かめようと目を凝らした。

 とはいえ、そんなにジロジロ見るまでもなく、その影が子供であることはすぐに分かった。青いエプロンドレスを着た、十歳くらいの小さな女の子だ。青い目はくりっと丸くて、金髪はくるくる巻いていてリボンがとてもよく似合っている、まるでお姫様のように可愛い——いや、お姫様だ。エリヴィラ王女殿下だわ、この方。

 ニコッと笑ってやってきたエリヴィラ王女は、私へ話しかけてきた。

「あなたが裏庭係のエイダね。ねえ、お花はないかしら。おばあさまのところへお見舞いに行くの」
「お花、ですか? それならここではなく、表の庭師が管理している花壇へ行かれたほうがよろしいかと」

 すると、エリヴィラ王女は、ふるふると首を横に振った。

「違うの。珍しいお花がいいの。おばあさまは外に出られないし、メイドたちは決まったお花ばかり持ってくるの。だから、おばあさまが喜ぶような珍しいお花が裏庭ならあると思って」

 なるほど、と私は頷く。エリヴィラ王女は祖母思いのいい子だ、となれば力になってあげたい。

 私はトレイを置いて、エリヴィラ王女を手招きしてある日当たりのいい場所へ連れていく。

 そこには、背の低い植物が雑多に植えられ、ある一角では細い葉っぱを伸ばす白い花が間を縫うように咲いていた。その白い花を茎ごと四、五本、花瓶に生けられるよう長さを残して取る。

 それをエリヴィラ王女へ見せると、エリヴィラ王女はわあっと顔を明るくした。

「これは何? 素敵ね、小さいわ!」
「カミツレです。薬草で、薬草茶にもよく使われるリンゴのような香りをしたお花ですよ」

 エリヴィラ王女は満足そうに、カミツレの花束を抱きしめて花の香りを堪能する。

「ありがとう、エイダ!」
「どういたしまして。リュドミラ王太后陛下おばあさまがお喜びになるといいですね」
「うん! またね!」

 精一杯手を振りながら、エリヴィラ王女は帰っていった。

 というか、私は「裏庭係のエイダ」と王城内で認識されるようになっているらしい。しかもエリヴィラ王女までその呼称を知っている。

「……まあ、いっか。裏庭係も悪くないし」

 そう、さして悪い呼び名でもない。

 私は食堂へトレイを返しにいく。

 その日の午後はさらにもう一件、来客があった。
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