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第四十五話

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 快晴の空に、たくさんの洗濯物が舞っている。

 王城の城下町は、目抜き通りがまっすぐ北に伸び、そこから坂道となって各路地が下がっていく。主神ステュクスの他、各神々の神殿もそこかしこにあって、例外なく清潔さを求めるからか公衆浴場もたくさんある。そこで使うタオルが毎日たくさん洗われて、風にはためいている。巡礼者を受け入れる旅籠やホテルも揃っていて、大陸全土からやってくる人々を出迎えるために毎日がお祭り騒ぎだ。

 人が途絶えることはなく、隅から隅まで陽光と活気に満ち溢れた清浄都市、ステュクス王国王都アラクノサラムスは世界一の大都市だった。

 そんなところに、私は一人で出歩けたりしない。無理だ。絶対、迷子になって、王城へ帰ってこられなくなる。

 だが、今日は助っ人がいる。というより、私を上手く釣って、王城の外に出させた張本人ニキータだ。

「こちらです」

 王城の通用門を難なく出て、私はニキータと二人並んで路地裏を歩く。これでよかったのかな、と疑問がぐるぐる渦巻くけど、今更帰るわけにはいかない。王城は遠ざかっていく。

「ふっふっふ、女性と外を歩くのは久々ですね」
「いえその、私を女性と言っていいのかどうか」
「ご謙遜を。ああ、わざわざ連れ出したのですから、そうですね、話でもしながらまいりますか」

 私はまだニキータを警戒していた。ここまで来て、とも思うけど、やはりどうしても信用するには何もかもが足りない。

 それでも、私は自分の意思でニキータについてきた。サナシスの好物であるカラマラキア・ティガニタが何であるか興味があるから、という理由が第一だけど、ひょっとすると私は退屈なのかもしれない。よくない話だ。サナシスに迷惑をかけるかもしれないのに、私は今、王城から飛び出してしまっている。

 疑問も不安もまだまだたくさんある。ただ、ニキータの話に耳を傾けていると、その語り口はやれやれ、といった具合で懐古を楽しんでいるようだった。

「アサナシオス王子殿下、親しい者はサナシス様と呼んでおりますが……まあ、子供のころはとてもやんちゃで。王城を抜け出すのは当たり前、兵士たちが王都中を駆けずり回って捕獲して、そのくせ各種授業の時間には完璧に問答をこなして大人を圧倒するものですから、主神ステュクスの寵愛を受けた神童と畏れられていました。畏れられているのは今でも、ですがね」

 どうやら、サナシスは子供のころ、ものすごくわんぱくだったらしい。

 あの美貌と頭脳を兼ね備えた王子が、そんなふうな子供時代を過ごしていた。私にとっては、新鮮な話だ。

「片や、私は少々出来が悪く、また拗ねた性分から国王陛下の覚えも悪かった。王城にいるよりも賭場にいる時間のほうが多いころもあり」
「と、賭場?」
「ええ、賭け事を嗜んでおりました。ですから私は、今でも知恵と賭博の神ヘルメスの信徒です」
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