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第四十三話

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 カイルス宮殿の悲劇以降、事態は誰にも予測できず、反乱の火は瞬く間に広がっていった。

 ハイペリオン帝国は皇帝が暗殺された。皇太子以下生き延びた皇帝一族は隣国ミナーヴァ王国へ向かおうとして、カイルス王国の反乱軍に呼応した民衆に取り囲まれ、一人残らず斬殺され、遺体はミナーヴァ王国との境にある川へ投げ入れられた。それを見ていたミナーヴァ王国の軍は、反乱軍優位と見るなりミナーヴァ王国の王侯貴族たちを捕縛しはじめた。もっとも、半数以上の王侯貴族はカイルス宮殿で消息不明となっているため、わずか二日で国内の王侯貴族は全員捕まり、処刑を待つ身となった。

 そして、エレーニの故郷ウラノス公国では——最愛の娘、公女ポリーナの最期を伝え聞き、ウラノス公は発狂死した。その後、重臣は皆逃げ出し、騎士団もいなくなったウラノス公国は、一夜にして崩壊した。城は焼き払われ、民衆は自由の身となり、ウラノス公国からは誰もが逃げていった。

 カイルス王国の民衆たちが始めた反乱は、どこまでも広がっていく、かのように見えた。王国貴族を憎み、民衆たちが立ち上がって旧時代の何もかもを破壊していく。その波は、大陸中心のステュクス王国まで到達するのではないか、という恐怖の伝染が起こることを危惧し、アサナシオスをはじめとしたステュクス王国の指導者たちは人心鎮撫を徹底する。

 ところが、カイルス王国の民衆たちは、ステュクス王国と手を組んだ。王侯貴族のいない新しい理想の国を作る、その旗印を掲げ、ステュクス王国から真っ先に国家としての承認と支援の約束を受けた。

 これがすべての転機となった。カイルス王国の影響を受けたハイペリオン帝国とミナーヴァ王国の民衆たちも、同じことを望んだ。望まぬ過激派は、ステュクス王国から送り込まれてきた軍隊に討伐されていった。すでに滅んだ旧ウラノス公国も含め、四カ国は一つの共同体を作り、コスモ連邦という巨大な新興国となって大陸に新風を巻き起こす。

 それらはすべて、アサナシオス王子とニキータの謀ったとおり、ステュクス王国主導での国際新体制の確立へと導かれていく。何せ、ステュクス王国には憎むべき貴族がいない。王族は聖職者であり、大陸全土のオケアニデス教徒が信を置く。そもそもステュクス王国は民衆へほとんど税を課しておらず、自主的な貢納と各種産業の利益、地代だけで国家運営が成り立つ稀有な態勢だ。貴族からも民衆からも、憎まれる筋合いは一切なかった。

 さて、ヘメラポリスとアンフィトリテは、ステュクス王国調停のもと、戦争を終結させた。どちらも王侯貴族の統治する国家から新体制へ徐々に移行することとなり、それもまたステュクス王国の後ろ盾を必要とした。神聖なる主神ステュクスに誓って旧体制である王侯貴族のような愚昧な政治はしない、という制約を課されることで、民衆の支持を得るためだ。ただ、両国はまだ王侯貴族が生き残っているため、彼らに温情を、という声もあって少しずつ物事を変革していくことが受け入れられた。その他の国も、同じような潮流の中、変化を迫られていく。

 これらのことは——まだ、エレーニは知らない。夫であるアサナシオス王子が、情報を制限していた。
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